124話 ソーラVSアンネローゼ?のようです
お待たせいたしました。
サブタイトルは誤字ではありません。
アイナとベルの戦いの決着が着く少し前、ソーラとアンネローゼが戦っている場所では辺り一面が吹雪と降り積もった雪に覆われた白銀の世界と化していた。
以前ソーラが暴走していた時、溢れ出した魔力が周囲を凍りつかせていたという出来事があり、その時の事を聞かされていたソーラはそれを今回の戦闘に活かせないかと1人考え試行錯誤している内に1つのスキルを習得することが出来た。
【氷結世界】というスキルは発動させると、周囲の空間を己の力を最大限に引き出せる空間に塗り替えると言う反則的なスキルである。
以前よりも強くなっているソーラは【氷結世界】の効果も相まって以前の暴走状態以上の能力を特にリスクもないまま行使していた。
「くっ、何なのですかいったい! なぜ下等な魔族がこのような力を……!」
アンネローゼが悪態を吐きながら己の使える最大級の魔法をソーラ目掛けて放つ。
物理以外の全属性を行使できる彼女がもっとも得意とする属性はトモエと同じく火であるが、【天照】を保持するトモエと比べるとその威力は人間にしてはかなり高い程度に留まっていた。
そしてアンネローゼの放つ炎は【氷結世界】の世界では著しくその威力を減衰させられ、ソーラの放つ魔法によって易々と氷漬けにされる。
形を持たない炎ですら凍結させられるのだ、土や水等形のある魔法はもちろん、光や闇、雷等の形のない魔法も凍結の憂き目にあい、この世界で唯一平時の威力が出せると思っていた氷の魔法は発動すらする事ができなかった。
「いい加減諦めてよ。あなた程度じゃこの世界で私に勝つなんて不可能だよ」
「黙りなさい!」
アンネローゼの苛立ちに呼応するように人間を丸呑みにできるほどの大きさの炎の塊が次々と出現する。
数多く現れた炎の塊はお互いを引き寄せあうように動き始め、やがて1つの炎の塊となった。
超高密度にまで圧縮され、白く輝く塊は小さな太陽と表現するのが一番と思えるほどの熱量を周囲にはなっており、あの1発でいったい何万人の人間を蒸発させる事ができるか想像もつかなかった。
しかしそれでもなお周囲の雪は解ける事なく存在し、アンネローゼのプライドを酷く傷つける。
「骨も残らず蒸発してしまいなさい!!」
ソーラを親の仇の様な顔で睨み付けるアンネローゼは己の作り出した小さな太陽をソーラへと向けて撃ち出した。
小さな太陽は猛吹雪の中をソーラ目掛けて突き進む。
「無駄だよ。【氷結】」
しかしその圧倒的とも言える熱量は目標へ届くことはなく、ソーラの放った魔法によって氷に包まれ力なく雪の上へと落下していった。
目の前の光景に驚き目をむくアンネローゼ。彼女が大半の魔力を費やして作り出した炎の塊であり、一撃で殺す事はできないとは分かっていたものの手傷くらいは負わせられると思っていた魔法がいとも簡単に無力化された事が信じられなかった。
「ま……まさか、私の全力ですのよ……? それをあんな……」
「これでわかったでしょ? あなたは私よりも弱いの。早く諦めてよ。シーツァの所に行かなきゃいけないんだから」
「弱い……、私が……? 栄えあるヴィクト帝国の姫である私が薄汚い魔族よりも弱い……?」
「そう、弱いの。だから――」
「ありえません……ありえませんわーー!!」
髪を振り乱し大声を上げるアンネローゼ。その瞳は屈辱により酷く血走っており、とてもじゃないが一国の姫のする様な表情ではなかった。
「ケリュケイオン!!」
アンネローゼがその手に握る杖に残りの魔力を込める。
柄に2匹の蛇が巻き付いているケリュケイオンと呼ばれた杖は注ぎ込まれるアンネローゼの魔力に呼応するように2匹の蛇の瞳を妖しく光らせる。
よく見ると蛇の瞳の中では複雑な魔法陣が展開されており、徐々にその光を強くし異質な魔力を放ち始めた。
「ケリュケイオン! 私の全てを喰らいなさい! そしてあの人間に逆らう不敬な魔族に正義の鉄槌を!」
アンネローゼの言葉と共に蛇がその瞳の光を強める。
杖の放つ異質な魔力がアンネローゼの体を覆いつくし、残った魔力は元より生命力をも無理矢理魔力へと変換して吸い出していく。
生命力を杖に奪われていくにつれてアンネローゼの美しかった金色の髪は徐々にその輝きを失っていき、老婆の様な白髪へと変貌していく。
若くハリのある肌も萎み、骨と皮だけのミイラのようになっていった。
「ふ……ふふ……行き……なさい……【炎精霊召喚】……」
最後の力を振り絞って放たれた力ある声により、蛇の瞳が周囲を覆うほどの光を放つ。
余りの光量に目をやられるのを防ぐ為咄嗟に目を閉じるソーラ。
瞼を閉じても感じる明るさが徐々に収まっていき、ソーラが瞼を開けるとそこには干からびたミイラとなって死んでいるアンネローゼとその横に立ち杖を持つ炎で体を構成された偉丈夫、炎精霊の姿があった。
「厄介そうな物最後に残すなんて往生際の悪い。早くシーツァの所に行かないといけないのに……」
イフリートの放つ魔力に警戒しながらも溜息を吐くソーラは、速効で決着をつける為高威力の【氷結魔法】をイフリート目掛けて放つ。
巨大な氷塊は一直線にイフリートへと突き進んでいきその肉体を撃ち抜くと思われた瞬間、予備動作も無しに突き出された拳によって粉々に砕かれた。
「うそ……!?」
よもや拳で砕かれるとは思ってもみなかったソーラが驚愕からその動きを一瞬止める。
イフリートはソーラに出来た隙を見逃さず、即座にアンネローゼが生み出していた以上の威力を誇る小さな太陽を複数個生み出しソーラへと差し向けた。
「いけない! 【氷結】!!」
ソーラの魔法により全ての小さな太陽が氷に包まれていく。
その様子にソーラが安堵したのも束の間、ソーラは何時まで経っても氷に包まれた小さな太陽が一向に雪の積もる地面へと落下しない事に疑問を覚えた。
その疑問はすぐに答えとなって帰ってくる。
氷に包まれたはずの小さな太陽は次の瞬間己を包んでいた氷を全て融かし尽くし若干の威力減衰は見せたものの、再びソーラへと向かって飛び始めた。
「そんな!?」
慌てて飛び退いて避けようとするも小さな太陽はソーラを追って方向を変えてくる。
生前殆どを病院で過ごしていたソーラは、異世界に来て身体能力が飛躍的に向上してはいるものの体を動かす事を得意としているわけではない。
すぐに逃げ切れないと判断したソーラは即座に己と小さな太陽とを分断するために分厚い大氷壁を作り出した。
ソーラがかなりの力を込めて作り出した氷壁は、迫り来る小さな太陽を全て受け止める。
氷の融ける音が周囲に響き渡るも小さな太陽は壁を半ばまで融かすに留まり、その力を失って消失した。
「危なかった……ってあいつは何処に!?」
先程までいた場所にイフリートの姿はすでになく、次の瞬間ソーラの体を激痛が襲い物凄い速度で宙を舞っていた。
っ~! いったい何が……。
吹き飛ばされながら原因を確認すると、そこには杖を振り抜いた姿のイフリートがおりすぐに宙を滑る様に移動し始め吹き飛ばされているソーラを追ってきた。
イフリートはソーラを追跡しつつ自らの周囲に再び小さな太陽を発生させ、ソーラ目掛けて撃ち出す。
再び迫る小さな太陽を確認したソーラは空中で体勢を立て直しながら先程の光景を思い出した。
こちらを追跡してくる小さな太陽がソーラの作り出した大氷壁を貫通できずに消滅したことを。
「ならば……!」
大量の魔力を使い小さな太陽と同程度の大きさの氷を複数作り出し迎撃させる。
【消費MP1】と【MP自動回復】の恩恵もあり作られた氷の塊には迫り来る小さな太陽以上の魔力が込められていた。
迫り来る小さな太陽目掛けて氷の塊が飛んで行き、膨大な魔力が込められた氷塊は小さな太陽を撃ち抜き消滅させると、若干小さくなっているが勢いそのままにイフリートに襲い掛かる。
氷塊がイフリートに激突する寸前、何を思ったのか迫り来る氷塊の内たった1つを生み出した炎で掻き消すと残りを自らの炎の肉体で受け止めた。
しかし氷塊はイフリートにダメージらしいダメージを与える事無くその肉体を貫通し彼方へと消えていった。
なんで……? なんでイフリートは1つだけを迎撃したの? 見たところあの炎の肉体には私の魔法が通用してないみたいだし、迎撃の必要があった……? けどなんで……、まさか!
「【氷結の弾丸・掃射】!!」
考え至った仮説を実証するためにソーラがイフリート目掛けて魔法を放つ。
無数の氷の弾丸がイフリート目掛けて突き進み、先程の氷塊同様イフリートは己の握る杖に命中しそうな弾丸のみを炎によって迎撃した。
やっぱり……本体はあの杖みたいね。だったら――。
仮説が確信に至ったソーラの顔に笑みが浮かぶ。
その表情に能面を貼り付けたようなイフリート……ではなく、イフリートの握る杖から焦りのような感情が漏れ出す魔力を通じてソーラへと届く。
「手早く終わらせるよ! 【絶対零度】!!」
ソーラの魔法発動と共に吹雪の中にキラキラと輝くものが混じり始める。
それは次第に数を増していき、輝きがイフリートの肉体に触れた瞬間その部位を一瞬にして凍りつかせた。
次々と輝く物体がイフリートの体にぶつかり凍らせていく状況、イフリートの焦りがパニックに変わる。
もう隠している場合ではないと杖から発せられる莫大な魔力がイフリートの体に流れ込み、その炎の肉体の温度を急上昇させ肉体が凍りつくのを防ごうとする。
「無駄だよ。私の【絶対零度】、小さな輝きが触れた事によって生まれた氷は包み込んだ部位の分子運動を強制的に停止させる。あなた程度の魔力じゃ融かすのは不可能だよ」
ソーラの言葉通り小さな輝きが次々とイフリートの体と杖自身を凍りつかせていく。
徐々に凍りに包まれている部分が増えていき、やがてイフリートの炎の肉体と杖は透明な氷によって完全に包まれてしまった。
「ふぅ、やっと終わったわね。これでシーツァの所にいける」
氷に包まれたイフリート達を確認したソーラがイフリートに背を向け歩き出す。
その背後、氷に包まれているはずの杖の瞳が妖しく光を放ち、ソーラの隙を窺い反撃しようと試みていた。
「ああ忘れてた。後始末はキッチリつけておかないとね。自分で言っておいてなんだけどさっきのセリフフラグっぽかったし。【氷結の弾丸】」
振り返ったソーラから生み出された氷の弾丸が一直線に氷の彫像目掛けて飛んでいく。
氷の弾丸が凍りついたイフリートに激突した瞬間透明な氷に小さな罅が入る。
小さな罅はやがて氷全体に広がっていき、全体に広がりきった瞬間ガラスの砕けるような音を立てて粉々に砕け散った。
キラキラと輝く極小の氷粒が吹雪に晒され消えていく。
「さて、今度こそシーツァの元に行きますか」
【氷結世界】が解除され周囲が元の荒野に戻る。
そこにはイフリートと杖の姿など何処にも存在しておらず、残っているのは干からびたミイラだけだった。
ガチャって怖いですね。
欲しいキャラがいてお金をつぎ込み、何とか手に入れたものの財布の中は【氷結世界】……。
いいんだ! 欲しいキャラは手に入れたから! 悲しくなんか無いもんね!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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