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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
最終章 ゴブリンと最終決戦と生きるために強くなる
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122話 シリルVSクリスのようです

 魔族大陸に存在する荒野。その一角では現在壮絶な殴り合いが行われていた。

 片や銀髪の狼耳の少女、片や茶色のショートカットの少女。どちらもすれ違うほとんどの男が振り返るような美少女でありシリルはガントレットに脚甲、クリスは手甲に脚甲を装備し超接近戦を主体としていた。


「あはははは! 楽しいねぇ! こんなに楽しく殴り合うのは久しぶりだよ! 帝国の人達じゃ物足りなかったんだよねぇ!」


「がぅ、うるさい。さっさと死ね」


「そんなつれない事言わないでよ! こんなに楽しいんだからさ!」


 高らかに笑い声を上げながらクリスが右のストレートをシリルに撃ち出すと、それをシリルは左の腕で円を描くように受け流しお返しとばかりにガントレットに付いた鋭い爪による刺突をクリスの下顎から頭そのものをブチ抜かんと放つ。

 流石にそれを食らう訳にはいかないクリスが距離を取るが、シリルは一瞬でその距離を詰めると相手の心臓目掛けて左の刺突を見舞った。


「っ~~! 危ないなー、こんなの食らったら死んじゃうじゃん。もっと戦いを楽しもうよ!」


 ギリギリの所でシリルの刺突を受け流すことに成功したクリスが文句を言いながら拳や蹴りを繰り出し攻め立てる。

 そしてそれをシリルが受け流し反撃をするという工程を幾度となく繰り返しているうちにシリルの方が終わりの見えない状況に痺れを切らしたのか牽制目的の大振りの一撃を放ち、クリスと距離を取る。


「あー、そういう事やめてほしいなー、せっかく楽しい殴り合いだったのにさー」


「がぅ、こっちはお前なんかと遊んでる暇はない」


「ホントにつれないなー。けどさ、お互いの装備が装備だからわかんなかったかも知れないけど私から距離をとってもあんまり意味ないよ?」


 その言葉が終わると同時にクリスが自らの目の前の何もない空間を殴りつける。

 クリスの意味不明な行為に怪訝な表情を浮かべるシリルだが、次の瞬間シリルの左肩を強い衝撃が襲った。

 突然襲ってきた理解できない衝撃に混乱するシリルだが、クリスはシリルの表情を見て笑みを浮かべると、再び目の前の空間を殴りつける。それも連打で。


「ほらほらー休んでる暇はないよー」


 容赦なく撃ち付けられる衝撃にふらつくシリル。それでもなお襲い掛かる衝撃は止むことなくシリルの体を打ち据えた。


「あはははは! やっぱりさっきのは訂正するよ! 殴り合うのも楽しいけど、こうやって一方的に痛めつけるのはもっと楽しいねぇ!」


「ぐ……、調子に……乗るな!」


 容赦なく襲い掛かる不可視の打撃を幾度となく受けている内にシリルは何となくではあったがクリスの攻撃の正体に気が付き始めていた。

 仮定でしかないそれを確信に変える為、シリルはクリスが右のフックを撃ち出した瞬間にしゃがみ、姿勢を低くする。

 するとクリスが放ったフックの衝撃がシリルを襲う事はなく、代わりに驚いた顔のクリスが殴り終わった体勢のまま固まっていた。


「まさか……僕の【遠隔拳(リモートパンチ)】がこんな短時間でバレるなんて思わなかったよ」


「がぅ、あれだけ好き勝手殴ってくれば誰でも気が付く」


「それに気が付かない人間が殆どだったんだけどね。まあいいや、【遠隔拳(リモートパンチ)】が見破られたぐらいで負ける僕じゃないしね」


 負け惜しみに聞こえなくもないが本人にその気は無く、本当に負ける気は無かった。

 その証拠にクリスの瞳は狩り応えのある獲物を見つけた肉食獣の如き輝きを帯びている。


「さて、それじゃあそろそろギアをあげていくよ」


「がぅ、来い」


「いいね、その鼻っ柱圧し折ってあげるよ。スキル【鬼人化】発動」


 以前アドールが使っていた【鬼人化】を発動させ、肌が浅黒く、茶髪だった髪が金色へと変化したクリスが姿勢を低くし猫科の動物が獲物に跳びかかる寸前の様な体勢に変える。

 それに合わせるかの様にシリルも【神狼化】を発動させ、銀色だった髪は美しい白銀のそれへと変化し、体に漲る魔力もその巨大さを増していた。


「へぇ~、まだそんな余力があったんだ。でも僕に追いつけるのかな?」


 薄笑いを浮かべたクリスが言葉が終わると同時に駆け出したと思われた瞬間その姿が掻き消えた。

 目にも止まらぬ速度で高速移動するクリス。それは地面だけではなく、【空間機動】のスキルによって空中をも足場にして縦横無尽にシリルの周囲を駆けていた。

 傍目からは姿を捉える事が出来ないクリスの機動をシリルはその中心部に立ち忙しなく瞳を動かして追う。

 しかし今のシリルでも完全にクリスの姿を捉える事はできず、やがてシリルはその両目を閉じクリスの姿を追うのを止めた。


「あらら? 目なんか閉じちゃって、諦めたのかな? そうだよね今の僕の姿を捉えれるのは(おもい)君かギリギリベルちゃんぐらいだしね。それじゃあ諦めの良い君にご褒美として一思いに殺してあげる――よ!!」


 そう言って空中を蹴ったクリスがシリルの命を奪うべくその背後の空から一直線に襲い掛かる。

 クリスの殺害予告を聞いて尚微動だにしないシリルの姿に勝利を確信し、魔力を込めた拳を叩きつけんと繰り出す。

 そしてあと少しでクリスの拳がシリルに届きその命を絶たんとした時、急に振り返ったシリルとクリスの目が合う。クリスがその事を認識した瞬間、左の頬にシリルから放たれた強烈な拳による一撃を受け吹き飛ばされていた。


「が……かはっ。まさか……僕の動きが読まれてた……? いや、あいつはさっきまで目まで閉じでたじゃないか……。僕の動きが分かる訳ない……。これはきっとまぐれ、そうまぐれなんだ」


 よろめきながら立ち上がり、信じがたい出来事に現実逃避を始めるクリス。

 そんなクリスへ向かってシリルは無表情のまま手の平を上にして人差し指から小指までを使ってクイックイッと動かし挑発する。


「調子に乗るなよ……。まぐれ当たりしたからって調子に乗るなーーーー!!」


 最初に見た時の快活な姿は何処へ行ったのか、確実に殺せると思っていた相手からの一撃を受け必死に現実逃避をしていたクリスはシリルの挑発にいとも容易く乗ってしまう。

 血走った瞳は必要以上に見開かれ、怒りに我を忘れたクリスは完全に暴走状態と言ってもいい姿になっていた。

 荒れ狂う魔力は自らの肉体をも傷つけ、全身血だらけに変わっていく。

 本来ならば全身に激痛が走っているような怪我であるにも関わらず今のクリスには蚊に刺されたほどにも感じていなかった。


「殺す殺す殺す絶対に殺す! 僕をここまでコケにした事を後悔しながら死ね! (おもい)君に神の力の一端を与えられた僕を馬鹿にする奴は、魂の一欠けらも残さずに消滅させてやる! 【神格】開放!!」


 鼻息荒く捲し立てるクリスの体から激しくも神々しいオーラが立ち上る。

 クリスの全身から放たれるそれはクリスの体を癒し、その全身に強大な力を漲らせていった。


「殺してやる!!」


 その叫びと共に駆け出したクリスの速度は先程の比ではなかった。

 地を駆けるたび、空中を駆けるたびに足場にした場所がまるで悲鳴を上げるかの様に小規模の爆発を起こし、その余波だけでシリルの体に傷を付けていく。

 その爆発だけで並みの人間ならば跡形も無くなってしまう程の威力があり、それがシリルを全方位逃げ場をなくすかのように起こっていた。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」


 クリスの口からまるで壊れたラジオの如く流れ出す呪詛にも似た言葉はすでにゲシュタルト崩壊を起こし始めている。

 (おもい)から与えられた【神格】を開放したことによって体から放たれるオーラは神々しいのにも拘らず、クリスの姿を捉える事が出来る者がいればその姿はドス黒い闇のオーラに包まれているように見えただろう。

 それだけクリスの心は怒りによって澱みきっていた。


「シネシネシネシネシネシネシネシネシ――」


「うるさい」


 殺気と呪詛を撒き散らしながらシリルを背後から強襲するクリス。しかしその拳はシリルに届くことはなく、逆にぼそりと呟いたシリルから繰り出された強烈な拳の一撃によって地面へと叩きつけられた。

 まるで攻城兵器を城門に叩きつけたかの様な音が周囲へと響き、クリスが叩きつけられた地面はその衝撃を受け止める事が出来ずに大きなクレーターを作り出す。

 そのクレーターの中心部、クレーターを作る原因となったクリスは横顔に深々とシリルのガントレットの痕がくっきりと残りその体からは先程まで放たれていた可視化される程に濃密なオーラも完全に霧散して消え去っていた。


「おまえ五月蠅すぎる。背後から襲うんならもっと殺気を消せ。……がぅ、聞こえてないか」


 そう言い残しシーツァの下へと去っていくシリル。

 その背後、クレーターの中心部に横たわっているクリスは白目を剥いて気を失っていた。

 本来ならばステータス的にも一撃で気絶するような攻撃ではなかったのだがクリスが【神格】というスキルを発動していた事と、シリルの種族が神滅狼(フェンリル)であった事が要因と言える。

 もしもシリルの最後の攻撃が拳による打撃ではなく爪による斬撃であった場合【神滅爪】というスキルの影響もありクリスは気絶では済まず、癒えない致命傷を負って死んでいたのは確実であった。

 その点に関してはクリスは運が良いと言えるが、気絶している表情はお世辞にも女の子がしていい表情ではないのは言うまでもないだろう。

シーツァ「俺の出番はまだですか?」

作者  「まだです」



ここまでお読みいただきありがとうございます。

新しく評価を下さった方がおり、大変励みになりました。本当に感謝しています。

誤字や脱字他気になったことがあれば遠慮なくお願いいたします。

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