119話 戦闘の幕開けのようです
魔族大陸の沖合10km地点、その海底にチャルチウィトリクエは配下の者達と共に帝国船団が来る時を待っていた。
配下の魔族達にはすでにチャルチウィトリクエから船に【神の力】を持つ規格外の勇者がいる事を伝えてある。それ故に戦いに参加したくない者はしなくても良い、参加しなくとも罪には問わないと。
しかし配下の中から逃げ出す者は皆無であった。
全員が魔王を、延いては魔族大陸を人間の魔の手から守るという使命に燃えていた。
息を潜め待ち続ける事1刻、ついに帝国船団がチャルチウィトリクエ率いる水魔軍団の迎撃圏内へと侵入してきたとの報告が偵察に出していた配下より届けられる。
その報告を聞いたチャルチウィトリクエとその配下達は臨戦態勢へと移行した。
「みなさん、人間共が身の程知らずにも私達の住まう大陸へと侵攻して来ました。その事がいかに愚かな事か身をもって教えてさしあげましょう」
「「「「「「おおーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
チャルチウィトリクエの言葉を受けた配下達の瞳は一層力強く燃え上がりその雄叫びが海中を震わせ、近くにいた小魚は元より大型の肉食魚までもが慄き逃げ去って行く。
まったく……、私には勿体ない配下達ですわね。
「それでは作戦を開始します! 1班から10班は全力で海流を操作し敵船団の足止めを! 11班から20班は海中より船底を攻撃! 残る21班から30班は私と共にウィツィロポチトリ殿の軍団と共同で船上の敵兵を攻撃します! 誰1人として死ぬ事は許しませんからそのつもりで! それでは、行動開始!!」
1班20人からなる水魔軍団が各々の役割に則り行動を開始する。
手始めに1班から10班が船団を囲むように展開し、それぞれが魔法を発動し海流操作を開始した。
魔族によって操られた海流は帝国船団の行動を阻害し、操縦不能になった船は動けなくなるだけではなく近くにいる味方の船に次々と衝突していく。
しかし普通ならば衝突した船はそれなりの損害を被るはずなのだが一向に船体に傷がつく様子は見受けられず、衝突した際に起こる衝撃により海へと投げ出される兵士がいる程度であった。
鎧を装備している為体が重く、海に落下した兵士は勝手に海底へと沈んでいく。そんな兵士達にチャルチウィトリクエ達は目もくれず、各々の責務を全うする為に動いた。
「チャルチウィトリクエ様!」
「なんですの!」
「それが、敵船の船底部が思いの外硬く、我々の武装及び魔法では歯が立ちません!」
「旦那様に作っていただいたアダマンタイト製の槍を弾きますか。仕方ありません、11班から20班は船底への攻撃を中止! 直ちに21班から30班へと合流し船上の敵兵を攻撃なさい!」
「はっ!」
同じ班の仲間に今の命令を伝えるために去って行く配下を見送ると上の船団を見つめる。
一見今まで見た事のある普通の船と違いが無いようにしか見えず、攻撃を弾けるようにはとても見えない。
しかし実際攻撃を弾いているのは事実であり、現にチャルチウィトリクエが試しに撃ち込んだ【水弾】も弾かれてしまっている。
まったく、加減して撃ったとはいえこうもあっさり弾かれては自信を無くしますわね……。
気を取り直して私もそろそろ攻撃に参加しましょうか。上陸する敵は1人でも減らして置きませんと。
姿を人型から大海竜ののへと転じると全力で海面をブチ抜き帝国船団の真正面へとその巨体を現し、チャルチウィトリクエの出現により海は大きく波打つと、船同士での衝突すら平気だった帝国船もチャルチウィトリクエにより近い位置にあるものはその大波によって転覆していった。
「愚かな人間共よ! 自らの罪を喰いながら母なる海へと沈んでいくがいい!」
海面が隆起しその形を竜の姿へ変えていく。1頭1頭の大きさはチャルチウィトリクエに比べれば小さいもののその数は凄まじく、海より創られし竜達はその咢を大きく開き未だ沈まずにいる帝国船へと襲い掛かった。
帝国軍も無抵抗でやられるものかと魔導師達が各々の魔法で障壁を張ったり迎撃したりするものの、魔法の規模が違いすぎるため張った障壁や魔法による迎撃は海竜の動きを一瞬たりとも止める事が出来ずに呑み込まれていく。
海竜達はチャルチウィトリクエの魔法によって生み出された疑似生物であるがゆえに目の前の現実に呆ける者、無駄な抵抗を続ける者、神に祈る者など一切の区別も感慨もなく船ごと噛み砕いていった。
ふぅ、うまく事が運んでくれてありがたいのですが何かおかしいですわね……。ん……?
あちらこちらで怒号や悲鳴が上がる中チャルチウィトリクエは1隻だけおかしな船がいることに気が付いた。
その船は荒波に揺られても平然と安定を保ち、海竜達の攻撃だけではなくウィツィロポチトリ率いる鳥獣軍団による魔法の爆撃をも強固な障壁で防いでいた。
あそこだけやけに堅いですわね。となるとあそこに例の勇者が乗っている可能性が高いと……。
「ウィツィロポチトリ殿!」
「なんですか? まあおっしゃりたい事はだいたい想像がつきますが」
「それなら話は早いですわ。あの他の船とは比べ物にならない程に強固な障壁を張っている船、おそらくあそこに勇者が乗っていると思われますわ。手を貸して下さいませ」
「了解した。トモエ様の為、危険の芽は早めに摘み取っておきましょうか」
滞空していたウィツィロポチトリが目標の船を目指して飛ぶ。
「みなさん、私はウィツィロポチトリ殿とあの船を攻撃します。他の船はみなさんにお任せしますわ」
「はっ!」
部下に指示を出すとチャルチウィトリクエも遅れまいと海へ潜り海中から同じ場所を目指して泳ぎ始める。
「まずは挨拶代わりですわ!」
海中を高速で進み、勢いを殺す事無く船底目掛けて体当たりを敢行した。
衝突音が海中に響き渡るもののおかしな手ごたえにチャルチウィトリクエが顔をあげると、そこには傷1つ無い船底がその存在を主張していた。
壊せないのは想定の範囲内でしたがまさか吹き飛ばす事すらできないとは……。どうやらこの船に勇者が乗っているので間違いなさそうですわね。
チャルチウィトリクエとウィツィロポチトリが全身に魔力を漲らせていく。ついに海と空から勇者の乗る船への全力攻撃が開始された。
はい、ついに最終決戦の開幕です。
ここから先はほぼ戦闘が続き、日常パートは多分無いと思われます。
次回はチャルチウィトリクエ&ウィツィロポチトリvs勇者の戦闘になります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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なっておりますが、年末になり少々忙しくなってきたため更新が不定期になります。
極力更新はしていくつもりですが、少々遅くなるかもしれません。
最終話までは必ず書きますのでお付き合いしていただければ嬉しいです。