118話 見送りのようです
会議の後シーツァ達は準備などに追われ、あれよあれよと言う間に時間が過ぎ去っていった。
そしてついに帝国の大船団が魔王軍の迎撃圏内まであと少しの所まで接近しているとの報告が届き、チャーチとウィツィロポチトリが一足先に出撃する時がやってきた。
「それでは私達は敵船団の足止めに向かいます」
「行ってきますわトモエ様」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい。間違っても死ぬ事は許さないわ」
笑顔で出発の挨拶をする2人に対し、未だ心の整理がついていないトモエは浮かない表情をしている。
チャーチはトモエの心情を察したのか「失礼しますわ」と言うと力強くトモエの小さな体を抱きしめた。
「笑顔で送ってくださいませトモエ様。私達は別に死にに行く訳ではありませんわ。必ず生きてトモエ様や旦那様、ソーラさん達の元に帰ってきますから。だから、泣かないで下さいませ」
「な、泣いてなんかいないわよ!」
そう反論するトモエだが、微かに震えながらチャーチの胸元から離れようとしないのは泣いていると言っているようなものである。
やがてどちらかともなく2人は離れる。顔をあげたトモエの瞳に悲しみの色は無く、シーツァには信じて待つという覚悟を秘めた力強さが宿っているようにも見えた。
「旦那様、ソーラさん、アイナさん、シリルさん、イリスさん、行ってまいりますわ」
「ああ、無理はするなよ。トモエも言ってたけど、死んだらお仕置きしに行くからな」
「絶対にみんなで生き残りましょう」
「死ぬのは~、シーちゃんとの~、子供が育ってからよ~?」
「がぅ、家族が減るのは嫌だぞ」
「何か私が力を奪われたからこんなことになってる訳で……、元凶の私が言うのもなんだけど、無事でいてね」
それぞれがチャーチに言葉を返す。その中で唯一イリスだけが今回の一番の難敵である勇者を、本人にその意思はなかったとはいえ生み出してしまったことへの罪悪感があった。
確かに守られる対象である為に死地へと赴く仲間を見送る事しかできないトモエの辛さもかなりのものであると言える。しかし今の本人に戦闘能力が全くなく、難敵を生み出し、トモエと同じように見送るしかできないイリスの辛さは、比べるのもおかしいかもしれないがそれ以上だろう。
「大丈夫ですわよ。これでも四魔将が1人、海王チャルチウィトリクエですわよ? そう簡単にやられるわけがありませんわ。旦那様、この戦いが終わったらたっぷりと愛して下さいましね!」
「ちょ!? おま、そのセリフは!」
「それでは行ってきますわーーーーーーー!!」
突然の死亡フラグ的発言に驚くシーツァが止める間もなくチャーチは走り去っていってしまう。
そしてそれを追いかけるようにして慌てて走り去っていくウィツィロポチトリ。
残された者の内今のセリフの意味が分かる者達は言葉にならない不安を感じていた。
それもそうだろう、「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」「別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」「もう、何も怖くない」等々、言った者は必ずと言っていいほど死んでしまう呪われたセリフをまさかこのタイミングでチャーチが言うなど誰が予測できていただろうか。
チャーチ自身このセリフの意味は知らないかもしれないが、死亡フラグはそんなことお構いなしとばかりにやってくる。
今からでも遅くはないから連れ戻そうかとシーツァが考えた時、走り去っていくチャーチから本人の物とは違う魔力の反応がある事に気が付いた。
「トモエ、チャーチにくっ付いてる魔力反応ってお前のだろ?」
「ええ、よく気が付いたわね。ウィツィロポチトリにも付けてあるわ」
「何に使うんだあれ」
「あれはマーキングよ。チャーチが死亡フラグを言った瞬間咄嗟に付けたの。これならあのマーキングを介して魔王城にいながら様子が見れるし、危なくなったら助け出すことも出来るわよ」
トモエの言葉に納得しながらチャーチの走り去って行った方角を眺めるシーツァ。
確かにトモエが常に監視しているならチャーチやウィツィロポチトリが危機に陥っても助け出すことは出来るだろう。
それだけトモエの持つ【時空間魔法】は強力なのだ。
「さて、チャーチ達の見送りも終わっちゃったわね。これから暁達はどうするの?」
「ああ、俺はソーラ達とゴブリンの部隊長を連れて戦場の下見だな。いろいろと仕込みもしたいし」
シーツァ自身なんの作戦も無く30万などという阿呆みたいな数字に500に満たない戦力で戦う気など毛頭ない。打てる手は打つ、例え卑怯だと罵られようともシーツァが考えを変える気は無かった。
「わかったわ。それじゃあ私は先に城に戻って執務の続きをやるわ。私がやらなくてもいい部分はトラソルテオトルに任せてるけど、私の判断が必要な案件もまだまだあるからね。それに……仕事してた方が気が紛れて丁度いいわ」
「わかった、トモエも無理するなよ?」
「ええ、分かってるわよ」
手を振りケツァルコアトルとイリスを伴い城へと変えるトモエ。恐らくイリスもトモエの執務の手伝いとしてこき使われるのだろう。
見えなくなるまでトモエ達の姿を見送るとシーツァ達は戦場になる予定の場所へと【転移】した。
前に来た時とまったく変わらない荒野にある種の安心感を覚えるシーツァだが、いつまでも感慨に耽っている余裕は無く、早速行動に移すことにした。
「ソーラ、MPポーションってどれだけ作れる?」
「そうねぇ、【消費MP1】と【MP自動回復】があるおかげで時間の許す限りいくらでもつくれるよ?」
「そうか、それなら最高品質をありったけ作ってくれ。俺も【消費MP1】と【MP自動回復】は持っているが多分追いつかないだろうし」
「いったい~、何をするの~? 落とし穴でも作るのかしら~?」
「それもいいかもしれないけどそれだとゴブリン達が引っ掛かる可能性があるからな。単純に戦力を増やすんだよ。ま、細かい事は後のお楽しみってな」
にやりと笑いながら言うシーツァにアイナは首を傾げるが、ソーラはある程度予測がついたらしくすぐに【道具作成・改】で最高品質のMPポーションを大量に作り始めた。
すぐに山になっていくMPポーションを見ながらシーツァは笑みを浮かべると両手を地面に付け、ありったけの魔力を放出し始めた。
「あの自称主人公には効果はないだろうけど一般兵には効果があるだろうし、ゴブリン達の戦力差を埋める事にもなるからな。1つの軍団を預かる者として、いっちょ気合い入れていきますか!!」
作者 「で、なにやるの?」
シーツァ「秘密だっつの。ソーラ達にも言ってないのに言うわけないだろ」
作者 「それもそうか」
シーツァ「てかあんたはこの話書いてる本人なんだから知ってなきゃおかしくね?」
作者 「気にするな!!」
ついにチャーチとウィツィロポチトリが戦場に出発しました。
次回は彼女達の戦闘になります。
そしてシーツァは戦場に何を仕込むのか。まあ、シーツァのスキルで戦力を増やせるスキルなんか限られているんですけどね。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
そろそろこの物語も終わりに近づいてきました。
最後までお付き合いいただければ幸いです。