110話 緊急事態のようです
シーツァ達とゴブリン軍団による獣魔軍団の生き残り殲滅戦の翌日、シーツァ達は会議室に集まっていた。
「てことでシーツァはこれから四魔将の1人として扱おうと思うんだけど異論はあるかしら?」
トモエが会議室を見回して言う。
見回した先にいるのはシーツァとそのお嫁さん達ことソーラ、アイナ、シリル、イリステラスの5人に加え、竜魔軍団統括竜王ケツァルコアトル、鳥獣軍団統括鳥王ウィツィロポチトリ、水魔軍団統括海王チャルチウィトリクエが会議室のテーブルを囲むようにして座っていた。
「で、なんでまた俺が四魔将になるって話になるんだよ。前回もいらん波が立つから他の奴にしろっていっただろうが」
「しょうがないじゃない、軍団を統括できるだけの実力者はもういないのよ。ぶっちゃけ四魔将がいつまでも三魔将じゃかっこつかないし」
「だからって……」
シーツァが助けを求めるように軍団を統括している四魔将に視線を向ける。
「トモエ様のお決めになったこと、我に異存はありませぬ。それに暁の実力ならば我も認めております故」
「トモエ様、ケツァルコアトル殿と同じく私にも異存はありませんよ。たしかに四魔将がいつまでも3人ではおかしいですからね」
「私も同じく異存はありませんわ。あのゴブリン達も旦那様に鍛えられてゴブリンとは思えない実力を身に着けておりますし、訓練も続けているのですから今後更に強くなりますわ」
シーツァが援護射撃を求めた相手は全員がトモエの援護に回っていた。
全員がトモエの配下であり、さらには成り行きとはいえ模擬戦、決闘、遭遇戦でシーツァと対峙しその実力を知っている為シーツァが四魔将に名を連ねる事に異論がある者がいなかった。
そもそも前回ウェウェコヨトルが乱入さえして来なければその時点でシーツァの四魔将入りは決定していたので必然とも言える。
「じゃあ決定ね。暁はこれから四魔将の1人、鬼人軍団統括に就任。ケツァルコアトルが竜王でウィツィロポチトリが鳥王、チャルチウィトリクエが海王だから、暁は鬼王ね」
「それを俺に名乗れと……」
「そうよ、四魔将はみんな名乗ってるんだから暁もちゃんと名乗るのよ」
「はぁ……、わかったよ……」
海よりも深いため息を吐くシーツァ。
シーツァにとって四魔将になる事自体はこの際問題ではない。四魔将に就く事は配下のゴブリン達を守る事にもつながるし、未だトモエの【時空間魔法】で作り出された亜空間に住んでいるゴブリン達にきちんとした住居を与える事も出来る。
シーツァが最も嫌なのは鬼王という所謂二つ名を名乗る事であった。
二つ名……それはシーツァがまだ暁であった頃の思い出したくもない黒歴史、厨二病を患っていた頃嬉々としてやっていた行為、今では恥ずかしくて死にたくなるような事の数々を思い出してしまうからである。
トモエはこの世界で当時のシーツァを知っている唯一の存在であり、今シーツァを鬼王に任命したその顔は当時の事を思い出してかシーツァをからかう気満々と言った感じであった。
「で、四魔将になって俺にどうしろと」
「別に何も。今まで通りでいいんじゃないの? ねぇトラソルテオトル」
トモエが自分の背後に控えるようにして立っている側近である女性に投げかける。
「はい、今急ぎでする事はありません。しいて言えばゴブリンの方々をトモエ様の亜空間から城の居住スペースに引っ越していただくぐらいでしょうか」
「いいのか? 俺が言うのもなんだが新参者が城に住んでも」
「問題ありません。彼等は元々この大陸に住んでいた訳ではないのでそもそも住処がありませんから」
「なるほどな。じゃあトモエ、後でゴブリン達を引越しさせるから場所を教えて――『じ――』って誰か何か言ったか?」
不意に頭の中に響いてきた声らしきものににシーツァが周囲を見回す。
しかし誰も身に覚えがない上に聞こえていなかったのか皆不思議そうな顔をするばかりであった。
『るじ――!』
シーツァが首を傾げていると再び声が頭の中に響く。ノイズが混じっており、はっきりとは聞こえないが声だと認識するには十分だった。
『主――!』
そして何度目かの声がシーツァの頭に響いた時、シーツァは声の主にようやく思い至った。
「ディーナ! ディーナか!? どうした! 何があったんだ!」
シーツァが声の主に対して声呼び掛けるが反応は無く、突然1人大きな声を出し始めたシーツァに訝しげな視線を向ける者がいる中、シーツァの口にしたディーナという名前に心当たりがあるソーラ達は何かあったのではと心配そうな視線を向けていた。
『助けて下さい我が主!』
「!? ソーラ、アイナ、指輪を付けて人間に化けてくれ! シリルも【人化】で同じように人間に! 出来たら掴まってくれ! イカナ村に転移する!」
「いきなりどうしたのよ暁」
「悪いが説明は後にさせてくれ。直ぐに行かないと」
シーツァが焦っているのが伝わったのかトモエもそれ以上の言及はせず、トモエの質問を後回しにしてシーツァも指輪を付け姿を人間時の姿に変えると、ソーラ達も準備が出来たらしくシーツァの腕に掴まる。
「準備できたよシーツァ」
「いつでもいいわよぉ~」
「がぅ、いつでも行けるぞ」
「よし。それじゃあ行くぞ!」
自らの腕に掴まるソーラ達を確認するとシーツァは急ぎ【転移】を使い会議室から姿を消した。
よほど急いでいたのだろうシーツァは転移する瞬間に自分の腕に掴まる者の数が1人増えた事に気が付くことはなかった。
作者 「四魔将就任おめでとう! 鬼王シーツァ君!」
シーツァ「その名前で呼ぶのはやめろ! 昔を思い出す!」
作者 「ああ、嬉々として二つ名名乗ったり、必要もないのに包帯や眼帯つけたり、謎言語を使って話していたり、俺の封印されし邪眼がとか言ってた時の事?」
シーツァ「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
はい、シーツァが四魔将に就任しました。他の軍団よりも人数は少ないですが以前攻めて来た帝国の軍隊ならばシーツァのバフなしでも互角に戦えます。
そして四魔将に就任したことによって得た二つ名がシーツァの黒歴史を思い出させることに……。
誰にだって思い出したくない事の1つや2つありますよね。
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