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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
最終章 ゴブリンと最終決戦と生きるために強くなる
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106話 手合せするようです その3

 シーツァは上空からこちらを見下ろしている怪物と対峙していた。

 それは元の姿に戻ったチャーチよりも更に大きい蛇の形に似た竜。その体は羽毛に包まれ、2対4枚の翼を持ち自由に大空を悠然と泳ぐその姿は空を駆け抜けるように飛翔するウィツィロポチトリとは違う、力強さに溢れていた。


「どうしてこうなった……」


「さあ暁よ! 血沸き肉躍る戦いを楽しもうではないか!」


 シーツァの呟きが誰に聞こえるでもなく亜空間の中に溶けていく。

 空間に溶けていく呟きをかき消すようにケツァルコアトルから重さの中に愉悦感が混じった声が聞こえたと思った次の瞬間、突如シーツァの目の前まで巨大な蛇の頭が迫っていた。


 ――ベキベキベキ!


 巨大な蛇頭はその速度を緩める事無く、逆に速度を上げてシーツァに激突する。

 その激突の際に起きた衝突音と共に碌な防御も取れなかったシーツァの全身から骨の砕けるような音が響く。

 肺から強制的に空気が吐き出される際に出る声にもならない声と共にシーツァが吹き飛ぶ。地面を跳ね、擦り続けることによりようやく停止した頃には全身血塗れの鬼が出来上がっていた。


「いっつつ……。なんつー馬鹿げた威力だ……。一撃食らっただけで死に掛け――っ!?」


 体を動かすことも出来ず、【超再生】で修復している最中の体をなんとか首を動かして確認できる所を確認していく瀕死の鬼(シーツァ)

 すると不意にシーツァに影が掛かる。反射的に上を見たことで全身が悲鳴を上げるがそんな事に構っている余裕などなかった。

 大きく目を見開いたシーツァが目にしたものは、絶賛シーツァを潰さんと振り下ろされている最中のケツァルコアトルの尻尾だった。

 未だ修復が終わっていない為動くことも儘ならないシーツァは咄嗟に【転移】を使い上空へと逃げる。

 シーツァが逃げた先の上空では既にケツァルコアトルのその巨大な頭がシーツァ目掛けて迫っていた。


「くそっ! 【空間把握】で戦闘区域内だったらどこに【転移】してもすぐにバレるのか!」


 再び転移し今度はケツァルコアトルでもすぐには届かない距離まで移動する。転移が終わる頃には全身の修復も終わり、変わりにガッツリとMPを消費している。常にMPを回復し続けているためか【MP自動大回復Lv.1】がこの戦闘だけですでに【MP自動大回復Lv.3】まで上昇していた。


「これだけ離れてれば大丈夫だろ! 今度はこっちの番だ!」


 シーツァの周囲の空間に【特殊武具作成】によって作られた魔法銀(ミスリル)製の槍が次々と展開される。それらは全て【竜殺し】と【刺突強化】が付与されており、刺突に限っては先程人間形態時のケツァルコアトルを斬り裂いた大剣よりも威力が高くなっていた。

 その無数の槍達はまたしてもシーツァに突進してくるケツァルコアトル目掛けて次々と射出されていく。

 油断しているのか槍を受ける事も厭わないのか、飛来する槍を避ける様子も無いケツァルコアトルに槍が突き刺さった。

 殆どは頭部の形故に当たっても刺さらずに逸れるか弾かれているのだが、何本かはその頭部に突き刺さる。

 痛みとまだまだ飛来する槍にケツァルコアトルの口角が愉悦を表すかのように上がった――次の瞬間、その口が大きく開き口内から紅蓮の炎が迫り来る槍の雨目掛けて吐き出された。

 炎は次々と槍を飲み込んでいきシーツァに迫る。その様子を見ていたシーツァはあることに気が付いた。


「あれ……? まさか槍が蒸発してる? 嘘だろ魔法銀(ミスリル)製だぞ!?」


 炎に飲み込まれた槍は炎の熱で溶けるのではなく個体から液体をすっとばして一気に気体に変わっている。

 そのあまりの熱量にシーツァはすぐに【転移】を使い炎の進行方向から逃げる。

 あとほんの少し遅ければシーツァも良くて丸焼き最悪蒸発していただろう。


「おいこら! 殺しは無しじゃなかったのかよ!」


「何を言う、その程度で汝は死にはすまい? 現に避けきっているではないか」


「死ぬわ! あの炎が直撃したら下手したら塵も残さず蒸発するっつの! それにな! 【転移】があるから避けれたんだ! 無かったら半身持ってかれてるわ!」


 肩で息をしながら叫ぶシーツァ。その言葉に思うところがあるのかケツァルコアトルは動きを止め考え始めた。

 やがて答えが出たのか開いた口から出た言葉はある意味でシーツァの期待を裏切らなかった。


「だが【転移】できるのであろう? ならば問題はないな、続けるぞ! ゴハアァァァァァ!!」


 「今まで考えていたのはなんだったのか!」と叫びたくなったシーツァだったが迫り来る炎がそれを許さない。なぜなら避けなければ死ぬからだ。

 慌てて転移し迫る炎から逃げるも、逃げた先にはケツァルコアトルの頭突きや尻尾による薙ぎ払いが待っておりシーツァに反撃を許さない。

 いくらMPを消費しない【転移】といえど炎や圧倒的な物理攻撃を避けるたびにガリガリと精神力が削られていき、予想以上の消耗をシーツァに強いた。

 そして何度目かの炎がシーツァに向けて放たれた時、シーツァは初めて【転移】以外の行動を取った。


「えーい、炎には水だ! 食らいやがれ! 【タイダルストーム】!」


「!? シーツァダメッ! あの炎にそれはダメだよ!」


 それまでハラハラしながらシーツァとケツァルコアトルとの試合を見ていたソーラが悲鳴のような声で叫ぶ。しかし時既に遅く、シーツァの魔法によって生み出された大量の渦巻く水がケツァルコアトル目掛けて突き進む。

 そして炎と水がぶつかり合った瞬間それは起こった。

 瞬間的に超高温で熱せられた水が一瞬にして気化しその体積が爆発的に膨張する。高温を伴うそれは爆音と共にシーツァの体に襲い掛かった。


「ぐぁっ!」


 突然の出来事に対処の出来なかったシーツァは水蒸気爆発の爆風をもろに食らい、全身に火傷を負いながら地面に叩きつけられた。


 くそっ! 何が起こった……。いきなり爆発が起きた……。なんで水が炎で爆発するんだよ……。ん? 炎? 炎……超高温……水……。!? そうか、水蒸気爆発か! だけどどうする……。水じゃあれは防げないしフ○ーハでも軽減できるかどうか……。【転移】逃げても奴の【空間把握】で居場所を特定されて即座に食らったら即お陀仏級の物理攻撃が飛んでくる……。てかあの【空間把握】のスキルは何をもって特定してるんだ? もし仮に物質を持つものしか特定できないとしたら【霊体化】を使えば逆転……いや高望みはよそう、一杯食わせることが出来るかもしれない……!


 爆発元では未だ煙が立ち込めている中地面に倒れているシーツァは【超再生】で体を修復しながら高速で思考を巡らせる。なんとか1つの仮説を立てたシーツァはフラフラになりながらもなんとか自力で立ち上がり空中からこちらを見下ろしているケツァルコアトルを見据えた。


 恐らくチャンスは1度きり……。MPも体力もそろそろ限界だ……。これを外せばもう次は無いだろうな……。


「シーツァ! 頑張ってー!」


「シ~ちゃ~ん! ファイト~」


「がぅ、勝て」


 シーツァの耳にソーラ達の声援が届く。その声は体力の限界だったシーツァの体に不思議と活力を取り戻していく。


 ああ……、ソーラ達の声援が体中に染み込んでくる……。


「よっしゃ! やる気出たぁー!」


「ほう、もういいのか?」


「ああ、待たせたな! 次で決めてやるぜ!」


「面白いそうこなくてはな!!」


 そこ言葉を皮切りにケツァルコアトルの口から今まで以上の炎が放たれる。今までのすらシーツァを蒸発させるには十分だったものが更に威力を増してシーツァに襲い掛かる。


「うおおぉぉぉぉーー! 【タイダルストーム】!!」


 シーツァの翳した手から先程よりも威力のある渦巻く水が炎目掛けて直走る(ひたはしる)。再び炎と水とが激突し水蒸気爆発が発生し両者の視界を塞ぐ。


 今だっ!


 水蒸気爆発の爆風がシーツァを襲う前にシーツァの姿が【転移】によって掻き消える。


「先程と同じではないか! 失望したぞ暁よ!」


 そう言い放つケツァルコアトルの尻尾が【空間把握】によって何も無い空間から突如出現した獲物に襲い掛かる。

 水蒸気爆発とはまた違った轟音を立て尻尾が獲物ごと亜空間の地面に叩きつけられた。


「今度は避ける事が出来なかったか……。果たして死んでいなければいいのだが……何っ!?」


 ケツァルコアトルがシーツァを確認するために尻尾を退けるとそこに叩き潰されたシーツァの姿は無く、代わりに潰されかろうじて元人形であると分かる程度に原型を残した土人形があった。


「これは……人形!? どこだ! 何故我が捕捉すら出来ない!?」


 慌てたケツァルコアトルが周囲を見回すもシーツァの姿はどこにも無く、【空間把握】ですらシーツァを捉える事が出来なかった。

 すると次の瞬間唐突に【空間把握】が自分の頭上に出現した何かを捉える。ケツァルコアトルが見上げた先には見る見るうちに巨大化していく大槌を振りかぶるシーツァの姿だった。


「くっ!」


「遅ぇ!」


 何とか回避しようとするケツァルコアトルだが、それよりも早くシーツァの大槌がその巨大な頭に振り下ろされる。

 まるで吸い込まれるように蛇頭に叩きつけられた大槌は大きな衝撃音と共にその大きさに見合った威力をケツァルコアトルに見舞う。


「くぁ……」


 脳天に大槌の一撃を食らったケツァルコアトルは脳を揺らされ、白目を剥いたその巨体が地面目掛けて落下していく。そして数秒と経たずして大きな音と共に巨大な蛇身は地面に墜落した。


「はは……やった……ぜ……」


 一矢報いた事に喜ぶも全ての力を出し切ったシーツァは大槌を振り切った姿勢のまま意識を手放し、ケツァルコアトルと同じく地面に向けて落下していった。

シーツァ「…………」

作者  「お疲れ様」



はい、何とか引き分けに近い形でギリギリシーツァが勝利? する事が出来ました。

はいご都合主義です。正直私もシーツァがケツァルコアトルに勝てるとは欠片も思っていませんでした。

ボロ雑巾の様になって負けるイメージしか……。しかしシーツァ君そこは主人公らしく頑張ってくれました。流石ですね。

どのようにして勝ったかは次回の説明になります。まあ、呼んでくださっている皆様はもう既にお分かりかもしてませんが……。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

また1件評価していただき大変励みになっています。

最近はゲームとかする喜びよりもブックマークや評価が増えることや感想を頂けることのほうが強い喜びを感じる事が出来ているきがします。まあ、だからといってゲームをやめる気は毛頭無いんですけどねw

水蒸気爆発の表現などがおかしいとか誤字脱字発見! と思われた方は遠慮なく感想からお願いします。

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