100話 海へ行く事になったようです
これはとある暑い日。うだるような暑さにシーツァは部屋でぐったりとしていた。
「暑い……。なんだって今日はこんなに暑いんだ……。昨日までは普通の気温だったのに……」
「確かに暑いよね。けど日本みたいに異常なまでに湿度が高くないだけだけマシだと思うよ?」
「けど~、この暑さはちょっとねぇ~。胸に汗疹ができちゃいそう~」
「がぅ、今日は絶対【人化】解除しないぞ」
部屋のベッドに転がり非常にダルそうな声を上げる。
ソーラ達も同じ部屋にいるのだがここまでぐったりとしているのはシーツァだけであった。
シーツァは生前、まだ武藤暁だった頃も非常に暑さに弱く、暁自身夏が1番嫌いな季節であると公言して憚らなかった。因みに次に嫌いなのは冬であったりする。
夏が嫌いな最たる理由はその蒸し暑さにあるのだが他の理由を挙げるとすると、学生時代は体育の授業に水泳があり、暁は典型的な金槌だった。それゆえ授業の中で最も好きな体育の中で水泳の時間はとても嫌なものであり、夏が嫌いな理由の1つになっていた。
そして転生してシーツァという存在になってさえも暁だった頃の暑さに弱いという弱点は無くなっておらずこうして部屋のベッドでダレているという訳である。
――ダダダダダダダッ
「んぁ? なんだ? 足音?」
部屋の外から聞こえてくる足音にシーツァが意識を傾ける。
足音は徐々に大きくなっており、シーツァ達の部屋に近づいてくるのがわかった。
「がぅ、イリスだ」
「イリス? あいつなんでこんな暑いのに走り回ってるんだよ……」
走ってきているのがイリスだと分かるとシーツァはうんざり感を隠すことなく表に出す。
そして足音が部屋の前で止まり部屋の全員が扉に視線を向けた瞬間、大きな音を立てて扉が開きイリスが手を広げたまま宣言した。
「暑い! 海に行こう!」
「待て、いきなりなんだ。分かりやすいように説明しろ」
シーツァの質問にイリスがドヤ顔で胸を張る。神様らしく黄金比の様な大きさの胸が強調されその存在を誇示していた。
そんなイリスの強調された胸を1人、ソーラだけが羨ましそうに自分のあまり大きくない手の平でもあっさりと包んでしまえる程小ぶりな胸と見比べていた。
「いやほら今日暑いじゃないか。神の世界はいつも快適な温度の保たれてたからね。こんなに暑いのには慣れてないから我慢できないのさ」
「とりあえず理由はわかった。けど海なんて行っても平気なのか? 海にだって魔物ぐらい住んでるだろ? 襲われたりしないのか?」
「そこは大丈夫だよ。協力者がいるからね。ということですぐに準備して中庭に集合ね。じゃ!」
嵐のようにやってきて言いたいことだけ言って風の様に去っていくイリス。
力を奪われているとは到底思えない速さで嵐が去って行った後、若干の間を置いてシーツァがベッドから起き上がった。
「とりあえず準備しようか。魔物対策はイリスが何とかするみたいだし、海に行ってみるのも悪くはないだろ」
「そうだね。私も海に行ってみたいな。地球にいた頃は海なんてテレビやマンガぐらいでしか見たことなかったし」
「そうねぇ~。私も~、久しぶりに泳ぎたいわ~」
「がぅ、海初めて。楽しみだ」
ソーラ達も海が楽しみらしく、うきうきしながら寝巻きから外出用の服に着替える。
【異次元収納】があるお陰で特に準備する荷物が無いシーツァ達は着替えが終わると揃って中庭へと向かった。
中庭にシーツ達が到着するとそこにはすでにイリスが白いワンピースに麦藁帽子という出で立ちで待っており、その右肩にはどこで手に入れたのかビニール製の輪っか、所謂浮き輪が掛けられており、左手には網に入ったスイカらしきものが握られていた。
「早かったね。ところで荷物は? 遊びに行くのに手ぶらはないだろう?」
「はぁ~、お前な、俺とソーラは【異次元収納】のスキル持ってるの知ってるはずだろ? てか俺達にそれ覚えさせたのお前だろうがよ」
イリスの質問に呆れ顔のシーツァ。シーツァの後ろではソーラもシーツァと同意見らしく、うんうんと頷いていた。
「ああ、そういえばそうだったね。ならスキルを覚えさせたついでにシーツァには海に着いたら一働きしてもらおうかな」
「何をさせようってんだ?」
「ん~? 簡単だよ。君の【特殊武具作成】のスキルを使って皆に水着を作ってもらいたいんだよ」
「なんで俺が……」
「いいのかいそんな事言って」
「はぁ~、言いも何もそんなめんど――」
溜息を吐きながらめんどくさそうにしているシーツァにイリスが忍び寄り顔を近づける。
不意打ちのように近づいてきたイリスの顔は普段の残念すぎるアホの子からは創造もできないほどに整っており、イリスの駄女神さ加減をよく知っているシーツァでさえつい顔を赤くしてしまった。
そしてイリスの口元がシーツァの耳に近づけられた時、その可愛らしい神の口から悪魔の囁きが毀れシーツァを誘惑する。
「ソーラちゃん達に君の思うがままの水着を着せられるんだよ?」
「よし任せろ。皆の水着は俺が責任を持ってつくろうじゃないか」
シーツァの電光石火の如き速さの返事にイリスが満足げに頷く。
イリスが何を言ったのか聞こえなかったソーラではあったが、シーツァの態度からどんな事を言われたのか大凡の見当をつけるのは難しいことではなく、見当が付く故に溜息を吐いていた。
「それじゃあ、早速出発するか!」
「ちょっと待って。後2人来てないから」
「2人? てことは――」
「おーもう来てるのね。お待たせ」
シーツァが答えにたどり着き名前を出そうとした瞬間中庭に一番近い扉が開き、声と共に当該の2人が姿を現した。何を隠そうトモエとチャーチの2人である。
2人とも鎧等の防具を外した日常使用の格好で、トモエはノースリーブの真紅のワンピース、チャーチも同じくノースリーブのワンピースだが色は海をイメージした青であった。
正直2人とも良く似合っており、特にチャーチに至ってはその容姿も相まって深窓の令嬢と言われても納得できてしまうほどである。性癖さえ知らなければの話だが。
「トモエも行くのか?」
「あたりまえじゃないこんな楽しそうなことに参加しないわけないでしょ?」
「それにしては手ぶらみたいだが……」
「安心しなさいよ、その辺はちゃんと考えてあるから。到着してから存分に驚きなさいな」
自信満々に言うその姿に若干の不安を覚えるシーツァだが、彼女がああ言っている以上何を言っても教えてくれないのは生前の経験から良く解っているのでそれ以上の追及を止めた。
「チャーチも来るんだな」
「酷いですわ旦那様。妻の1人である私を置いて行こうとするなんて……」
「いや、悪かった。そういう意味で言ったんじゃ――」
「私だけ除け者にしてトモエ様達だけと遊びに……。1人残された私は縛られて部屋に転がされて放置……。そしてそんな私の姿を偶然目にしてしまった兵士達に……。ああっ!」
今日もチャーチは絶好調であった。
折角のワンピースが汚れない様にする為かいつもは地面に転がって悶えるのに今日は立ったまま恍惚とした表情で体を抱きしめている。
そして口からダダ漏れのチャーチドM妄想劇にシーツァはいつも通りドン引きしているが、良く見てみるとソーラ達は特に気にした様子もなく、むしろ優しそうな瞳でチャーチを見ていた。
「2人は私が協力を頼んだんだ。特にチャーチの存在は絶対に必要だったからね」
「ええ、海の魔物対策でしたら私がいれば問題ないかと思いますわ」
先程まで悶えていた姿から一転、元の状態に戻りイリスの言葉に答えるチャーチ。
そのあまりの切替の速さに若干驚きつつもシーツァは周囲を見回す。シーツァを覗き皆女の子で構成された集団は全員がそれぞれ違った魅力を持っているシーツァのお嫁さんである。
街の男達がこのハーレムを目にすれば無用な問題が待っているのは火を見るよりも明らかでだった。
「それで、海に行くってどの辺にあるんだ?」
「それでしたら私と旦那様達がこの大陸に上陸した場所から少し歩いた所に砂浜がありますの。今日はそこでトモエ様曰く海水浴なるものを楽しみましょう」
「そうか。それなら途中までは【転移】で行けるな。街の男連中にみんなを見せる事もないし時間も短縮できる。良い事尽くめだ」
特に考えもなしに言ったシーツァの一言にソーラが顔を赤くし、トモエは若干顔を赤くしながらニヤニヤと笑い、イリスは大阪のおばちゃんもかくやといった風に照れ隠しにシーツァの背中をバシバシと叩く。
アイナは片頬に手を当てながら「あらあら」と微笑み、チャーチは顔を真っ赤にしながら両の頬に手を当てイヤンイヤンとばかりに体を左右に捻っていた。
シリルは何処から取り出したのか肉を齧っており、その頬はうっすらと赤く染まっている。どうやら不意打ちの様な一言にシリルも嬉しかったらしい。
「さ、さてそれじゃ出発しますか。みんな準備はいいか?」
「「「「「「はい(うん)(ええ)」」」」」」
全員の返事を確認するとシーツァはスキル【転移】を発動させる。すると城の中庭から全員の姿が掻き消え最初から誰もいなかったかのような静けさが戻る。
こうしてシーツァ達の束の間の休息が幕を開けた。
ついに拙作もプロローグなどを除き100話に到達いたしました。
なので100話と101話は記念回と言う事でシーツァ達一行は海へ行くことになりました。
次回は所謂水着回です。私の文章力でどれだけ表現できるか不安ですががんばります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ブックマークして頂けて大変励みになっております。
これからも生暖かく見守っていただければ幸いです。