99話 ゴブリン達を鍛えるようです その3
辺りを覆い尽くすまばゆい光は時間と共に収束していった。
強い光から目を守るように手を翳していたシーツァ達が光の収束に気が付き手を下ろすと目の前には誰もが望んでいた結果が姿を表していた。
巨暴猪に群がるようにしているゴブリン達の姿は光が発せられる前よりも大きくなり1段階ではあるが進化しているのがわかる。
シーツァが【看破】を使いそれぞれの能力を見ていくとふと気が付いたことがあった。進化先がいろいろと違っていたからである。
接近戦部隊の面々は6割程がゴブリンソードマンに進化していたが、残る4割はゴブリンシールダーという見たことのないものだった。若干シールダーに進化した者の方ががっしりとした体つきをしており、【看破】が無くても慣れれば見分けるのは容易だろう。
ソードマンに進化したものは新たに【剣術Lv.1】と【強力Lv.1】を習得しており、シールダーは【盾術Lv.1】と【防壁Lv.1】を習得していた。
唯一元からゴブリンソードマンだったブランはゴブリンナイトに進化しており、すでに習得していた【剣術Lv.1】が【剣術Lv.2】に上がり、他にも【盾術Lv.1】と【防壁Lv.1】を習得し、攻撃と防御両方ができる万能型に成長しつつあった。
弓隊のゴブリン達は接近戦部隊とは違い全員がゴブリンアーチャーに進化し、【弓術Lv.1】を獲得していた。
一方治療部隊は約1名を除き全員がゴブリンヒーラーに進化しており、皆【回復魔法Lv.1】と【魔仙Lv.1】を習得していた。
今はレベルも低く最大MPも少ない為たいした治療は出来ないが、回復役がいるのといないのでは大きな差があるのでこの結果はとてもありがたい。
唯一治療部隊の中でゴブリンヒーラーに進化出来なかった彼女はゴブリンソードマンに進化し、他のソードマンと同じく【剣術Lv.1】を習得していた。
後に彼女は本人たっての願いもあり接近戦部隊に移籍することになる。
そしてただ1人の魔法部隊であるフラムは無事ゴブリンマジシャンに進化し、最初から所持していた【火魔法Lv.1】が【火魔法Lv.2】に上がり、同時に【風魔法Lv.1】と【魔仙Lv.1】を習得していた。
火と相性の良い【風魔法】、今はレベルも低いが強くなれば戦略の幅が広がるだろう。
そして最初から【剣術】などのスキルを持っていたゴブリン達は皆揃ってスキルレベルが1上がっていたのが確認出来た。
なお今回の進化で全員が共通のスキルを習得していた。【群体】という味方の数だけ能力が上昇するというゴブリン達にとってもっとも相性のいいスキルである。
「んー、なんで接近戦部隊のゴブリンは進化先が違ってたんだ? 半分以上はソードマンだけど残りはシールダーってのになってるし……。しかもなんか数増えてるし……。もしかして進化する時にどうなりたいか考えの違いによって変わるのか?」
互いに進化した姿を見て喜び合っているゴブリン達を見てシーツァが1人呟く。
実際シーツァの考察は正解である。ゴブリン達は割り振られた役割の中で進化する際に自分達がどう強くなりたいかを考えていた。
ゴブリンソードマンに進化したゴブリンは仲間を守る際に早く敵を倒したい等攻撃的な考えを、ゴブリンシールダーに進化したゴブリンは自分を盾にしてでも仲間を守りたいなど防御的な考えをしていた。
その考え方の違いが接近戦部隊の進化先を変える事になる要員になっていた。
そしてゴブリンのメスは戦闘に向かない者がほとんどであるが、稀に戦闘が得意な者が生まれてくる。
彼女達は総じて攻撃的な考え方をしており、それが今回治療部隊から出たゴブリンソードマンである。
「とりあえずお疲れ様。無事に全員進化出来たみたいだな。とりあえず今日は進化した体に慣れる為に適当な魔物と1戦して、それで終わりにしよう」
瞳に強い光を持ったゴブリン達を見渡しながらシーツァはこの後の予定を口にする。
そして言い終わった後ふと何かを忘れている事に気が付いた。老人子供のゴブリン達だ。
「そういえば老人子供達はどこに行ったんだ? 姿が見えないんだが……」
「我々はコチラデゴザイマス。王ヨ」
声のする方へシーツァが顔を向けるとそこには驚きの光景が待っていた。
シーツァを王と敬うゴブリンの1人であり、最初にシーツァを王と呼んだ老人ゴブリンであるが、以前シーツァの故郷で見たときは体も衰え杖を突いて歩くのがやっとの様子であったのだが今の彼は肉体が若返り、他のシールダーと同じくがっしりとした筋肉が体を覆っていた。
ええと……ゴブリンシールダーに進化してるな……。他の老人ゴブリンもシールダーになってる……。
「ああ、すまん見違えた。だいぶ若くなってるように見えるんだが? 他の老人達も……」
「エエ、我々ハ王ノオ役ニ立チタイト常々願ッテイタノデス。シカシ以前ノ我々ハ年モ取リ何モデキナイ存在デス。デスカラアノ猪ヲ倒シ、体ニ力ガ漲ッテ来ル時我々ハ若ク強イ肉体ヲ欲シタノデス」
「なるほど……。それでお前達は若くなりゴブリンシールダーに進化したと。そうか、ならばお前達にもこれからもっと強くなってもらう。若くなった力をどうか俺達の為に貸してくれ」
「何ヲ仰イマスカ。我々ハ既ニ貴方様ヲ王ト仰イデイルノデス。王ノ恩為ナラバ皆コノ命ハ惜シマナイデショウ」
「いや、命は惜しめ。俺はお前達を使い潰す気は毛頭ない。それで子供達はどうした?」
シーツァの問いに元老人ゴブリンがとある方向に手を向ける。
その手の指し示す先には一際はしゃいでいるゴブリンソードマンの姿があった。
「おい……まさか……」
「ソノマサカデゴザイマス。子供等モ早ク王ノオ役ニ立チタカッタノデショウ。子供ノ成長ハ早イトハイエ一足飛ビデ成長シタヨウデゴザイマス」
「そうか。それならあいつ等にももっと強くなってもらわないとな。強くなればその分長生きできる。子供が早く死ぬのは見たくないからな」
シーツァの言葉の最後の方は小さく呟くように紡がれ元老人ゴブリンことウルの耳に届くことは無かった。
シーツァがゴブリン達に集合を掛けると一斉に集まり、皆進化した事がよほど嬉しかったのか興奮冷めやらぬといった具合である。
「よし、それじゃあ今日は後1回だけ魔物を狩って終わりにする。まだ戦い足りない者もいるだろうが今日の最後は進化した体に慣れる為だと思ってくれ進化したばかりの者によくあるまやかしの万能感に浸ったまま死んでもらうわけにはいかないからな」
シーツァの言葉にゴブリン達が一斉に静まり返る。大半の者がシーツァの言葉に思い当たる節があるのか反省の色を浮かべている。
どうやらゴブリン達はシーツァがいる限りこのまやかしの万能感に流される事はないだろう。
その様子を安心しながら見ているシーツァはシリルに頼んでまた【気配察知】に引っかかっている魔物を引っ張ってきてもらうように頼むと再びゴブリン達に向き直る。
「よし、みんないいな? 今日最後の訓練だ。早く倒す事を優先せずにしっかりと進化した体の具合を確かめながら行動してくれ」
シーツァの言葉にゴブリン達が真剣な表情で頷く。
やがてシリルが連れてきた巨暴猪を先の個体と同じ手段でシーツァが無力化した後ゴブリン達が一斉に群がっていった。
全員がシーツァの言葉通り体の具合を確かめながら巨暴猪を攻撃していたが、進化して能力が向上したためかがむしゃらに攻撃していた時よりも早くに獲物は命を落とすことになる。
そんなゴブリン達の様子を眺めながらシーツァは既に死んでいる個体と今ゴブリン達に袋叩きにあっている個体の両方を見ながら考えていた。
今日のゴブリン達のご飯巨暴猪2頭で足りるかな……?
作者 「で足りたの?」
シーツァ「ゴブリン達とシリルの食欲には勝てなかったよ」
ようやくシーツァの軍団が強くなり始めてきました。
この世界だとゴブリンのメスは戦闘の能力がほぼ無い設定です。殴り合いができないだけでレベルさえ上がれば今回のようにヒーラーなどの魔法職につく事ができます。レベルが上がればですが。
ソードマンに進化した個体のように稀に殴り合いができる者が生まれますが本当に稀です。
ああ、メスなのにソードマンって所は突っ込まないでいただけると助かります。
ただの剣士って事でひとつ。
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