97話 ゴブリン達を鍛えるようです その1
乾いた風が吹く荒野。しかしそのすぐ近くには鬱蒼と木々が生い茂る森がその存在を主張している。
そんな薄暗い森を背に立つシーツァとソーラ、アイナとシリルの4人の前には総勢350体のゴブリンが勢揃いしていた。
もっとも老若男女構わず連れて来ているのでこの中で戦闘をこなせるのはだいたい200体程度だろう。
それをわかっていてシーツァが連れてきた理由は戦えないメスのゴブリンには所謂衛生兵的な役割をしてもらう為、年老いたゴブリンや小さいゴブリンには最低限身を守る力を付ける為である。
そんなシーツァの考えを理解しているのかいないのか分からないが、ゴブリン達のシーツァを見る目は真剣そのものであった。
「えー、という事でお前達にはこれから魔物と戦ってもらいます。ああ、ちゃんと俺達がサポートするから安心してくれていい。まあ、怪我ぐらいはするかもしれないが死ぬことは絶対にないと断言しておく」
魔物と戦うという言葉を聞いた瞬間ゴブリン達が少しざわついたもののその後のセリフですぐにそれも収まった。
そんなゴブリン達を見渡して1つ頷くととりあえず片っ端からゴブリン達に【看破】を掛けステータスを確認していく。
案の定低いステータスでスキルを持っていない者が多いが、何人かスキルを持っている事が分かった。
内訳は【剣術Lv.1】持ちが5体でいずれもオス、【弓術Lv.1】持ちが3体でいずれもオス、【火魔法Lv.1】持ちが1体でオス、【回復魔法Lv.1】持ちが1体でメス、そして以前シーツァとシリル2人の【威圧咆哮】に耐えたゴブリンは進化体であるゴブリンソードマンで【剣術Lv.1】と【盾術Lv.1】を持っていた。
因みにこれらはアドール達帝国軍に捕まっていた者達であり、シーツァが故郷から連れてきた者達には長老が唯一【統率者】を持っているぐらいだった。
「それじゃあ一気に全員を戦わせる訳にはいかないから部隊を分けるぞー。まず接近戦をメインにする部隊はブラン、お前がリーダーで残り剣や棍棒が得意な奴は集まってくれ。ああ、オスだけでいいぞ。次は弓戦をメインにする部隊はナイプ、お前がリーダーで弓が得意な者、もしくは弓を使いたい者は集まってくれ。それからメスは回復魔法を主体とする部隊でヒララ、お前がリーダーだ。それから最後に魔法戦をする部隊だけど……、こいつばっかりはスキル持ちじゃないとできないから今の所フラムだけの1人部隊だな。今後進化した者で魔法系スキル持ちがいたら移動させる事もあるから覚えておいてくれ。それと老人と小さい子供達には最低限身を守るだけの力を付けてもらう。流石に老人と子供を矢面に立たせる気はないからな」
シーツァの言葉を聞いたゴブリン達が指名されたリーダーの下へとそれぞれ集まっていく。
そして物の5分も経たない内にゴブリン達の移動は終わり、最終的にブランをリーダーとした接近戦部隊の人数は150名、ナイプをリーダーとした弓隊は70名、ヒララをリーダーとした治療部隊は80名、そして魔法部隊はフラム1名、残り老人と子供が49名。以上がシーツァが集めたゴブリン達の編成であった。
「よし、分かれたみたいだな。それじゃあ今日から始めるお前達の訓練だけど、接近戦部隊は俺が、弓隊はアイナが、治療部隊と魔法部隊はソーラが指揮を執る。これは実際の戦闘でも同じだ。それぞれの言う事を良く聞くように。シリルは老人と子供達の面倒を見てやってくれ」
「わかりました」
「は~い~」
「がぅ、任せろ」
ソーラ達が頷くのを確認するとシーツァは【特殊武具作成】でゴブリン達の武器を作り出していく。
作り出すといっても何か特別な物を作るのではなく、接近戦部隊には樫の木でできた棍棒を弓隊にはイチイの木でできた弓と矢を、治療部隊と魔法部隊は樫の木でできた杖を作成して渡した。
武器を大量に作り出したためかシーツァの【特殊武具作成】はLv.5に上がっていた。
「これがお前達の最初の武器だ。最初から強い武器を使って自分が強いと勘違いして実戦で死なれても困るからな。強くなる毎に武器のランクを上げてやる。治療部隊は悪いがしばらくはその杖で敵を殴って倒してくれ。回復魔法を覚えるのはある程度レベルが上がってからだ」
シーツァの言葉に真剣な表情で頷くゴブリン達。見たところ強い武器を使えなくて残念といった表情の者はおらず、皆一様に強くなりたいと強い意志の光を放つ瞳が口以上に物語っていた。
「それじゃあまず1時間ほど各自自分の武器の具合を確かめてくれ。弓隊は弓を使える者が初めての者に使い方を教えるように。言ってくれれば的はいくらでも作り出すから。それじゃあソーラ達も頼むな。始め!」
シーツァの号令の下それぞれの部隊ごとに分かれていく。
接近戦部隊では元々棍棒を使っていたゴブリンが多いのか特に混乱は無く今まで使っていた物との差異を確かめているようだった。
弓隊では弓自体使うことが始めての者も多く、村で生活していた頃に弓を使っていたゴブリンとアイナで手分けして構え方から教えていた。途中アイナに乞われて土でできた人型の的を何体か作成すると、弓を構える事ができたゴブリンから順に矢を撃ち始めていた。
しかし構える事がうまくできたと言っても初心者であることに変わりは無く、殆どのゴブリンは的に矢を当てる事どころか届かせることすらできていない有様だった。
慣れているものでも中々当てることができない中唯一の例外として【弓術Lv.1】を持っているナイプのみが的に矢を当て続けていた。
治療部隊と魔法部隊はソーラの指導の下今は回復魔法を使うことができるのが1人しかいないため、今は樫の杖を上段に構えて思い切り振り下ろす事にのみ注力していた。
やがて1時間が経過しすべてのゴブリンがシーツァの下に集まる。弓隊の面々は若干不安そうにしているがこればかりは反復練習で巧くなってもらうほかない。
「それじゃあこれから魔物との戦闘訓練を始める。まずは都合よくこちらに向かってくる突撃猪が1頭いるからそいつに相手してもらおう。安心しろ、初めにも言ったがお前達を死なせるような訓練はしない。きっちり生きて強くなってもらう」
緊張した空気がゴブリン達の間を漂う中、シーツァ達の姿を視界に納めた突撃猪がその牙と体躯を持って獲物を倒すために一心不乱に突撃を始める。
知能の低い魔物らしくシーツァやソーラ達との力の差が理解できず、襲い掛かるのに一切の躊躇は無かった。自分が狩られる側だとは気付きもせずに。
「頭の悪い魔物で助かるよ。さあ、訓練の始まりだ!」
シーツァの号令が響き渡り、それを合図にゴブリン達が各々の武器を構え臨戦態勢をとるのだった。
作者 「古い。古いですよシーツァ君」
シーツァ「うるさい! ちょうどいい言葉が見当たらなかったんだよ!」
はい、書いているのは私です。シーツァ君は全く悪くないですね。
某ブートキャンプは私みたいな運動不足にはきつい物だと聞いたことがあります。そりゃああれだけ動くのを1週間も続ければ痩せますよね。
次回は訓練の続きになります。今まで日の目を見る事の無かったスキルがようやく出番を得ます。
スキル「呼んだ?」
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