三
久しぶりです!
書くの大変でした…長いです、はい。
「まあ!私をお誘いになるなん……………っ?!」
してやったり。
思わず笑み(ただし黒い)がこぼれる。
自分の外見と他人に与える影響くらい分かってるから、これは計算の上だ。
見事ミラベル様は私にひっかかった。
「どうなさったのですか?私とは、嫌なのでしょうか…?」
「い、いいえ!そんなこと、ありませんわ。」
私の方を振り返って、ミラベル様は引き留めようとした。
勿論だけどこれも計算ずくだ。
私と嫌だろうが嫌じゃなかろうが伯爵令嬢とは踊りたくもお付き合いもしたくないし、相手が私のダンスを断る素振りをするならこんなに悄気ずに諸手をあげて大歓迎だ。
ほっとしたかのような顔を取り繕って、
「ああ、良かった。貴女のようにお美しい方と踊れるなんて、一生の幸せを使いきってしまったようだ、私は。」
「まあ……!」
うっ、うううううううう………
棒読みだけど許せ、許せぃ…顔で誤魔化してるからさぁ…
そして、にっこり笑顔のまま、あの美少女に目を向ける。
「…バイエルセン王国第一王女、リリアンヌ様、お兄さんがお探しだ。」
うしろに(私の背後に隠れていた)いるアイラス王子の背中を密かに押して、リリアンヌ様に分かるようにした。
「…アイラスお兄様…!」
「すまないね、リリー。」
よし、救出!
リリアンヌ様とアイラス王子は連れだって消えた。たぶんガードナー君が拾ってくれて、キリークと合流してるはずだ。
が、しかし、これで………終われないよな。うん。
このミラベルと踊んなきゃいけない。
「………………!」
すっかりイジメっ子は鳴りをひそめた。
いじめてた子が、自分より身分が高くて、ましてや一国の王女様だったんだから。
気まずいだろうし、ミラベル様も取り巻きに示しがつかないものね…。
「かわいらしい皆さん。あのようなことはなさらないように、ね?」
貴女方も十分美しいのですから、と付け加える。
多くの令嬢が頷いた。
「それでは、女神のごとくお美しい、ミラベル嬢。」
手をとり、エスコートして大広間の真ん中へ向かう。ちょうど曲と曲の合間だ。
「…あの、貴方は…?」
「私ですか?ハイロン皇国の者です。皇太子殿下の付き人として、こちらに。」
名前は明かさない…明かせない。
キリークの名前を使えば後で本人に責められるし、かといって考えるのも面倒だ。
センスのいい名前ってなかなか難しい。
「…わたし…」
「どうぞ、手をお取りになって、私に体を預けてごらんなさい。始まりますよ。」
強引に会話を切った。事実、前奏が始まっている。
……なんの嫌がらせなんだろう?
この曲はあいにく、ずっと相手と踊るやつで、拍もとりにくい、おまけに長くて案外体力を使うのだ。
よりによってこんなタイミングで…
(1、2、3、1、2、3、…)
前奏が終わり、弦楽器の滑らかな音が躍りの出だしを飾る。
流石にミラベル嬢も上手かった。リードとかしなくてもいいくらいには。ミレアルド王国の社交界の華、と言われるだけはある。
曲が終わった。やっと解放される。
「……あ、……!」
「楽しいひとときをありがとうございました、ミラベル姫。」
(自分としては最大限)優雅に一礼し、人混みに紛れにいく。
向こう側の、ユリをかたどった彫刻のある柱に、キリークとガードナー君、上手く逃げられたバイエルセン王子兄妹が集まっているのを見つける。
心なしか(だと信じたいが)、キリークの目が怒っている。
近くまで歩み寄り、口を開く。
「上手くいったようですね。」
「何をやってんだ、お前というやつは!何があった?」
「あー……あは、は……。」
やっぱりお咎めが来た。
「それは置いておいて、リリアンヌ第一王女、大丈夫でしたか?」
「え、あ…」
「私はセラスミスです。さっきは男のフリをしていましたが、女ですよ。上手くリリアンヌ様をミラベル嬢から引き離すために、あんなことをしたのです。私―セラスミスの方で、私は皇太子ですが―は、ミラベル嬢と仲が良くないもので。」
別人を装わなくてはいけなくて、と苦笑い
てみせる。
「まあ、そうだったのですか……ありがとうございます。」
リリアンヌ様がにっこり微笑んだ。
すごく素敵な笑顔だ。蕾だった花が咲いうな、所謂「花のような笑顔」。
可愛らしい方だ、と思う。
「お前、あんなことをして大丈夫だったのか?」
「ウィルにはばれてるでしょうが、なんとかなりますよ。それより、キリーク、貴方にしてほしいことがあります。」
「なんだ?」
「……イシュットベルグ伯爵が私に薬を盛り私を襲ったと。証拠はこの瓶、証人はアシュレイ・ガードナーです。」
懐から小瓶を出して振ってみせる。
中は空っぽだが、水滴が残っているから、何の薬かくらいはわかるはずだ。
キリークはしかめ面になり、ガードナー君ははっとした顔をする。
小瓶を彼に渡す。
「あんの野郎…」
「さっさといきなさい。」
他人様に言えないような悪態をつきながら、キリークはガードナー君を連れてライヴス七世に報告しにいった。
「そう言えばリリアンヌ様、先程貴女を苛めていたミラベル嬢、あれはかのイシュットベルグ伯爵令嬢なのです。兄伯爵が失墜したらどうなることやら。」
「……セラスミス皇太子殿下………。」
ああ、悪い笑みを浮かべてるんだな、と自分でもわかる。
このあとも楽しんでくださいね、と兄妹に声をかけると、私はその場を離れた。
「皇太子殿下!」
「セラスミス皇太子!」
ちぇっ、捕まったか。
一人になると途端にこのザマだ。
太ったおっさんと、その対照のひょろい男が近寄ってきた。
何?足して割る二するの?そうすると普通になりますプラマイゼロですよってこと?
「この度はお会いできて誠に麗しく」
「殿下の御尊顔を拝し至極恐悦に」
五月蝿いなぁ。
こういうのってキライ。媚びてるだけなのに。
フツーに「会えて嬉しいです」って、それで良いもん。
大袈裟な言葉って、嘘ついてるようにしか見えない。事実、こいつらは嘘つきなんだろうけど。
「先程の贈り物は素晴らしかったですな。」
「いやぁ、私では到底できないことでしょうな。」
「さすが竜の国の皇太子であられる。」
………いつの間にか、人が増えたようだ。
凸凹コンビみたいな二人の他に、よりにもよっておっさんばっかりが(私は婿探しに来たのだ)私を取り巻いてる。
さっきのミラベルの奴みたいだ。
それに端から見れば、私だけ背が高いんだろうから、相当シュールなんだろな。
仕方なく笑顔の仮面を張り付けて、全ての賛辞を受け流す。
と思ったら、賛辞は出尽くしたのか、突然自己紹介合戦が始まった。
「…私はミレアルド王国のザルネイリと申す…」
「……かく言う私はトルベッソです、男爵の位を…」
トルベッソ?
それってたしか、従兄弟に夜這いをかけた女官の家だった気が…
「皆さん皆さん、そんなに焦りなさるな。一度に話しかけられて、皇太子殿は困っておられるぞ。」
ピタッと声がやんだ。
これが鶴の一声…………ね。
低くゆったりとした声は、取り巻きたちを牽制した。
「……ベルゼン公爵…」
近くにいた男が呟いたのを、私の耳が拾った。
ベルゼン公爵。
端的に言えば、今の王の叔父だ。
私はまだ、顔を合わせたことはなかったのだが………、ウィル自身はあまり好きじゃないと言っていた気がする。
公爵はこっちに歩いてくると、人垣が二つに割れて道を作った。
影響力凄いのな…
「お初にお目にかかります、セラスミス皇太子殿下。私はジェラール・ベルゼン、俗にベルゼン公爵と呼ばれる者であります。」
「はじめまして、ベルゼン公爵。お会いできて嬉しいです。」
仮面を張り付けたまま握手を交わす。
相手もニコニコ、顔でしか笑ってないのは明らかだな。
「先程は皆がいっぺんに話してしまい、申し訳ない。」
「いえ、私の耳だとそこまで苦労しませんから。」
指で海神の耳を指し示す。
「はっはっは、そうですな。」
公爵は豪快に笑った。
ぱっと見は人格者なんだけど………私が警戒しすぎなのかな……信用しきれないヒトだ。
「エドガー!……おお、友も一緒か。」
「父上!何を……ッ?!」
突然公爵が叫んだ(?)から何かと思ったよ。
なるほど、息子さんね。
私の背後から、複数の靴音(ただし走っている)が聞こえた。
公爵の息子に背を向けたまま対応するのは不味いと思って、後ろを振り向く。
…似てないな。
お母さん似なのかも。顔のつくりが、公爵とは違って繊細な気がする。
女顔?
「はじめまして、エドガー・ベルゼン殿。御存知かもしれないが、私はセラスミス・ロン・ツェイシェン、ハイロン皇国皇太子です。」
「………女?」
「そうですとも。正確には海神の子孫、竜なので女人ではありませんが。」
公爵令息のお友だちが呟いたのも、逃せなかった。
嫌でも気になるし……聞こえちゃったし。人間じゃあ無理かもしれんけど。
「…竜、ですか…。」
「外見的特徴以外は人間とあまり変わりませんが。」
「……しかし、竜が…海神が出てきていました。」
「あれは私に海神が着いてきただけです。海神に国王夫妻は気に入られているのです。」
ここでさりげなく、国王を立てておく。
「…そうなのですか。それで、申し遅れましたが…」
「私はサイモン・ギルシャル。」
「僕…わたしは、ユリウス・シドモア。」
「私?は、グレイ・オルドー。」
「……と、ギルシャル侯爵家、シドモア伯爵家、オルドー伯爵家令息です。」
「…ギルシャル侯爵家?」
エドガー殿の説明を聞いてはっとした。
それってさ…
「…貴方は、アウロラ王妃の弟なのでは?」
「はい。王妃殿下は姉に当たります。今は公爵様だけでなく、王族の方々とのお付き合いもさせていただいております。」
「…そう………。」
ウィルは公爵がキライ。
ローラとウィルは夫婦。
ローラの弟は公爵の取り巻き。
んー……なんかこの、サイモン君は変わってるなぁ。
後でローラに聞いてみないと。
丁寧な物腰に、姉と良く似た髪、ヘーゼル色のたれ目が好青年を思わせる。
これが、ギルシャル侯爵家の跡取り…
さぞご婦人、ご令嬢に人気なんでしょうね。
「皇太子殿下、大変おこがましいことではございますがな、愚息に世の中を教えていただきたく思いまする。何せ、このように世間知らずでして。」
公爵が急にしゃべった。
なになに?
仲良くなれってこと?
やだね。変な勘違いはごめんだよ。
キッパリ断っとこう。
「私の方がよっぽど世間知らずでしょう。まだ生まれてから百年とたっておらぬ青二才です。それに、私は人の世に生きてはいない。」
「「「百年……?!」」」
人々がどよめいた。
あー、そっか。
人にとっては百年と言う歳月は長いものだったんだっけ。
あんまり竜については明かしたくないのに……やっちゃったなぁ。
「皇太子殿下、ご謙遜なさらずに。」
「いえ……。」
や、謙遜も何もないからね…
本当に嫌なだけです。
……と、言えたら良いのに…。無難に返すしかないでしょ?
いざこざはほんとに、さっきの バカ伯爵で十分足りてるから。
「ほら、皆さん、若者のお喋りを邪魔してはならんでしょう。向こうへ。」
「……ちょっ?!」
待て待て待て待て待ってくれ!
公爵は驚きの行動力で、主におっさんで構成された人垣を別のところへ連れていった。
止める間もない。
呆然としていると、公爵は然り気無くウインクを送ってきた。
…………いや!ちげえよ!確かにお前の思い通りかもしれないけど、私は望んでない!
「皇太子殿下?」
あー、もう困ったなぁ…。
だって多分この子達十八いってないぞ?
身長差ヤバすぎる…親子みたいじゃんか(絶対やだけど)。
寿命縮みそう……百年単位じゃなきゃそこまで困んないけど縮んだって。
はぁ…帰りたい。
「あのー…?」
「あそこのテーブルなら五人座れるでしょう。」
「あそこ…?」
そうかい、君には見えないのだねそうだね。うん。
私ガデカスギルダケダモンネ!
無言で目的地に向かう。
そこは、壁際の地味な位置にある、そして尚且つ食事をとるスペースも近く…会場全体を見渡せると言うベストスポット。
我ながらよく見つけたと思う。
無言で椅子に腰掛けた。
「…………。」
『今度は子供か。』
(そう言う私も子供よ。)
『少しはマシな話をしてくれれば良いが。』
(…そうね。)
あんまり退屈で、海神が怒りませんように…
姿勢を正して、丸テーブルを囲むように座った四人の令息達に話しかける。
「それで、私に何を聞きたいのですか。」
「皇太子殿下」
「まさかさぁ、セラスミス皇太子、だっけ?俺達がホントに質問するとでも思ってんの?」
「……なに?」
「おいグレイ!)」
「んだよぉ、だってこのひと知らないっぽいからさぁ。」
どう言うことだ?
別に、彼の言葉遣いが変わったのを気にしてるわけじゃなくて…
「公爵のあれはお決まりの文句のようなもんだ。それとなく相手をしてやってくれ、ってな。」
「……ではなぜはっきり言わないのです?」
「それが貴族の作法なんだってよ。馬鹿馬鹿しいよな。」
「…グレイ…。」
ううーん…
人間ってよくわかんないなぁ。
竜は確かに、竜皇はいるけど………貴族はいないし。
そんな婉曲表現を使うこともないよね。
だいたい、意味が全然違う気がする。私には。
「……ま、そういうもんなんだよ。だから適当に相手してくれよな。」
「そうですねぇ。竜のかたと相席するのはなかなかありませんからねぇ。」
あ、ずっと黙ってたシドモア伯爵令息さんってこんな物言いをするんだ。
「…ちょっ、お前らっ…」
「今更挨拶する必要はありませんね。私も話を聞いてみたいものです。」
「サイモンまで…!」
「別にいいじゃないですか?逆に、エド、あなたは何を恥ずかしがってるのですか。」
「へ?!」
「確かに、皇太子殿下は私たちが今まで見たことがない美しさがありますが………、だからといってそんなに照れられても、困らせるだけですよ。」
「だからっ…!照れてるとかはずかしかってるとか違うんだよ!!」
「それにしては顔が赤いけどなぁ?」
「……ぅ、うるさいなぁっ!!」
わーわーギャーギャー、若いだけある。
聞いてるこっちも可笑しい。笑える。
ほんとは一番上の身分のはずのエドガー殿がいじられキャラとか、この四人は本当に仲が良いんだなって思う。
正直話してる内容は濃くないけれど、馬鹿馬鹿しくてどうでもいいような話題だけど、なんか良いなあ。
「……それで、殿下。」
「ああ、気にしないで下さい。私も面白かったですし。」
どうやら、四人のちょっとしたじゃれあいは終わったようだ。
謝ろうとするのを首を横に振って止める。
ありがとうございます、と言われた。こっちも感謝してるけどね。なんか若返ったみたいって言うか。
何て考えていると、シドモア伯爵令息ユリウス殿が、身を乗り出してきた。
「そう言えば、竜は性別?とかあるんですかね?」
「人間で言う男、女はあります。」
「てことは、その……皇太子殿下は女性の竜であられますけど、皇太子なんですか?…あ、文が変かな…違くて、その」
「大丈夫です。分かりますよ。」
女性なのに皇太子になれるのか?ってことだろう。
竜だから気を使ったらしい。
安心させるために笑みを返すと、彼の頬が赤くなった。
「竜皇は長子が受け継ぐ決まりなのです。皇家の長子は、兄弟の中で最も長い命を恵まれるそうですから。」
「……。」
「竜皇の兄弟が死して初めて、竜皇の代替わりは行われるのです。」
ここで、サイモン殿が口を挟む。
「何故…?それでは、皇位は不安定になりやすいでしょうに…」
少し頷いて、その問いに答える。
最もな問いだ。
「竜皇の正統な血脈を守るためです。竜に身分はありませんが、竜皇はどの竜にとっても、抗いがたい…いや、抗えない絶対的存在です。なぜなら、竜は海神の子孫、その海神の血を最も濃く受け継ぐのは長子たる竜皇だからです。兄弟が皇位を継げば、その血は失われ、海神が我が国を顧みることはないでしょう。」
「要は、兄弟が皇位を継ぐと、血が穢れる、ってことか?」
「…強引な言い方ではありますが。」
馬鹿馬鹿しいな、と誰かが呟いた。
「血が、血が、なんだってんだよ…たかが…」
竜だろうに。
そう言いたいんだよね。きっと。
「…やはり、馬鹿馬鹿しいのでしょうね。」
「え、」
「……この地に残り、少しでも人のためになりたいと、どうしても願ってしまうのです。」
儚い命に、拙い手段で、もがきながら生きていく。
そんな、自分とは真逆な生き方をする人間を見て、遥か昔にこの土地に住み着いてしまったのは。
海神は反対した。
竜は願った。
その時の対価が、竜皇の血筋であるにも関わらず―――
思いを無理矢理打ち切って、
「……まぁ、次の竜皇は間違いなく私ですから。」
「…?ご兄弟はいらっしゃるだろう…?」
彼らがなる可能性もゼロじゃないぞ、と公爵令息は凄んだ。
「腹違いなのですよ。」
「…!?」
「母が違います。私の母は、幼い頃に亡くなりましたので。」
「それは」
すまなかった、と言おうとする前に、気にしないで下さい、と制する。
だって、少しも悲しくないから。
「…皇妃様には感謝しています。他の女が産んだ子がよりにもよって、竜皇になると定まっているのに。」
すこし笑って、四人の令息の顔を順々に見る。
どの顔もそれぞれらしく、緊張した面持ちをしている。
(……なぜ、こんなことを貴殿方に打ち明けたのでしょうね…)
きっと、赤の他人だからだ。
そう、海神が答えた気がした。




