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とある国のとある姫  作者: 空星月花
心を無くした海の姫
1/4

1話ずつが長いです。本当に。

本当は短編のつもりだったので…(汗)

気に入って貰えたら幸いです。カップリングはかなり作者の趣味に偏ってるので、良いよって言う人はどうぞ。

「娘よ。そなたは、隣国のことを聞いておるか?」

「噂では、第36代国王ライヴス7世と、名門貴族筆頭のギルシャル侯爵家令嬢アウロラ様がもうすぐ結婚されるとか。」

「まさにそうだ。来月の結婚式に招待されておる。ハイロン皇国の正式な大使として参加してもらいたい。」

「わかりました。衣装も新調すべきでしょうね。いつ、ここを発つのですか?」

「一ヶ月後で良いだろう。それまでに、ミレアルド王国の礼儀作法を身に付けておいてもらいたい。」

「はい。私がいない間の仕事は、どうしましょう?」

「私がすべて行うから大丈夫だ。」

「ありがとうございます、父上。」



   ☆☆☆


お父様は、私を隣国、ミレアルド王国の結婚式に大使として送るつもりのようだ。

恐らく、皇太子としての仕事も兼ねているんだろう。

最近は公務も政務も増えた。代替わりの準備のつもりなんだろうけど…


それに、私の婚約者候補を探す、と言う目的もあるかもしれない。隣国の結婚式に参加すると言うのは。


なまじ皇太子なだけに、下手に国内の有力者の子息を宛がえないため、他国の婿を、と言うことだ。


「セラ御姉様!」

「イズール。」


廊下の向こうから、弟が走ってきた。

下から二番目の弟だ。


「どうかしましたか?イズール。」

「御姉様、お手紙、見ましたか?」

「ええ。だから、これから貴方のところへ行こうと思っていたのですよ。」

「やったあ!」


ぴょん、と跳び跳ねて、私に抱きついた。

……しがみついたと言うべきか?

まあ、まだ七歳だからそんなものだろう。


私の手を引っ張って、王宮の奥に進んでいく。


「さいきん、御姉様はおいそがしいとおききしてました!」

「そうね。父上の仕事を少し、手伝わせていただけるようになりましたし。」

「…父上の?!」

「私は、次の竜皇ですから。」


突然、イズールは立ち止まって私をふりかえった。


「…御姉様、りゅうおうになられたら、とおくに、いったり、しないよね…?」

「遠くに行く?外国にいくことだってあるかもしれないでしょう。」

「ううんっ!ちがうのっ!父上みたいになっちゃったり、しないよね…?!」

「…あ。」


なるほどそういうことか。

お父様は仕事でお忙しいから、あまり私たち兄弟姉妹きょうだいたちとは関わりが薄くて、それをイズールは言っているのだ。


「私たちは兄弟でしょう。それに、今だって貴方と一緒にいるでしょう。」

「…そうですよね!御姉様、ごしんぱい

おかけしました!」


すぐに立ち直った。

竜皇になったら、こうなるなんて考えもしなかったから、弟の質問は予想外ではあった。


   ☆☆☆


あれから、イズールの相手になり、服を新調し、できるだけ仕事を前倒しして終わらせ、礼儀作法を何とかして、今に至る。

今日は、例の、婚礼の、日である。

もうすぐ隣国、ミレアルド王国の城に着くそうだ。


「水が少ない。」

「またそれかよ…そこまで内陸に城があるわけでもないだろうがよ。」

「しかし海神はそう言っています。土地が渇いていると。」

「海神、海神って、……そのせいで、お前は」

「……次に言ったら、どうなるか、分かっていますね?」

「…っ!」


隣に座っている従兄弟は黙りこんだ。

私は確かに、国の大使だが、結婚式のあとのパーティーにも招かれていて、従兄弟はそのための付添人である。

ダンスするときなど、パートナーがいるときの。


「海神をバカにしないでくださいね。」

「…してない。」


わかればいい。



「セミラミス皇太子殿下、キリーク様、お着きになりました。」



暫くして、馬車の戸が開けられる。

手を借りて、地に降り立った。


「…でかいな。」

「大国のようですからね。」


城は、いわゆる白亜の城と言うのだろう、白く洗練されたデザインだ。

正面の門も、なかなか立派な作りと言える。



「ようこそいらっしゃいました、ハイロン皇国皇太子、セミラミス殿下方。」



一人、誰かが代表で挨拶をする。


「お出迎え、ありがとう」

「勿体なきお言葉にございます。」


深いお辞儀に、頷いて返す。


敷かれた絨毯は城の中まで続き、その両脇は、恐らくミレアルド王国の貴族である者達が固めている。


「セミラミス皇太子殿下、私が城の中までご案内させていただきます。」

「ありがとう。」

「今後、城に御滞在頂く間の護衛も勤めますので、お見知り置きを。」

「そう。お名前は?」

「……私は、アシュレイ・ガードナーと申します」

「では、ガードナー殿、案内を頼みます。」

「はい。」


彼を先頭にして、絨毯の上を歩く。

私の後ろは従兄弟だ。


物凄く注目されているのが分かる。

なんたって私は竜皇国の皇太子なのだ。我が国の竜は皆、人型をとるが、それでも先祖を海神としているために、海神の耳をもつ。

肌は浅黒く、金髪碧眼が多いのも特徴とされている。

つまり、

私は竜皇国の皇太子で、かつ海神の耳をもち、その上我が国特有の衣装を身にまとっているのだから、かなり注目されているのだ。


護衛が居ないことも相乗効果かもしれない。

竜なら我が身は自分で守れて普通だからだ。

特に私は。

しかし、人はより多くの護衛をつけて権力を誇示したがるものだ。



ひんやりとした城に足を踏み入れる。

大扉は開けられ、入り口からそのまま玉座に座る国王が見える。

滅多にないことだろうが、まあ、今日は特別な日だから。


玉座の前に立ち、お辞儀をする。


「私は、ハイロン皇国皇太子、セミラミス・ロン・ツェイシェンと申します。我が国の大使として、陛下のミレアルド王国をあげての慶事、心よりお喜び申し上げます。」

「礼を言う。今日はゆっくりと休まれよ。これが、我が国の王妃、アウロラである。」

「セミラミス皇太子殿下、ご紹介いただきましたように、私がミレアルド王国次期王妃、アウロラ・ギルシャルでございます。」

「アウロラ様、今後、よろしくお願い致します。」


王の右隣の女性ににっこり微笑む。

何がどうなって、この国王がアウロラ様を選んだかは知らないが、それはあとで聞けば良いだろう。


「ええ、殿下も。」

「ありがとうございます、アウロラ様。そしてお二方、本当におめでとうございます。」


この場でなければ聞きたいことなど山のようにあるのだが、もう話のネタはない。

話を締め括って、素直に退出する。


「ちょっと、セラ……殿下。」

「何です?」

「失礼じゃないですか?」

「何がです?」

「あの言い方だと、なんかもうどーでもいいけどはよう終われ、って感じだった。」

「そう?」


事実そう感じはしたが。


「………殿下、気を付けないと、」

「分かってる。」


相変わらず五月蝿い従兄弟だ。

小声で返して、ついでに肘鉄を食らわせた。


「いてっ。」

「…皇太子殿下?こちらが客室となります。」

「そう。」


使用人が扉を開いた。


「ごゆっくり、おくつろぎください。」

「ありがとう。」


広い客室に入る。

かなり上等な客室に違いない。寝室の他、バスルームやちょっとしたキッチン、使用人の控え室もついている。


「…セラ。」

「ああ、キリーク。貴方の部屋はどうだった?」

「……俺の部屋?」

「貴方も案内されたはずでしょう?多分私と同じような部屋でしょう。」


問いかけると


「……いや?」

「…どういうことです?」

「同じ部屋に案内されたってことだ。」

「…何ですって?」


言わずもがな、これは、本来皇太子の従兄弟としてそれなりの待遇を受ける筈が、どこでどう間違ったか、私の従者だと思われたと言うことだろう。


「間違うのも仕方ない気がするけどな。お前、俺のことを陛下に言わなかっただろう。」

「……ん?そう言えば…」

「それで、あの護衛兼案内人のヤツに間違えられたんだよ。陛下に紹介されない身分で、その上皇太子あんたの側にいると言えば?」

「…今回は私が悪かった。貴方にはこの寝室で寝てほしい。」


指でベッドを指し示して言った。

本当に今回は、全面的に私が悪かったのだ。正直なことを言えば、別に従兄弟なんて紹介しなくても分かると舐めていた。


御本人様には言えないが。


「は?!どうしてそうなる?!フツーにもう一つ部屋下さいって言えば良いんじゃ?!だいたいオメーはどこに寝んだよ!?」

「使用人の控え室にベッドがあったからそこで大丈夫ですが確かに、………部屋をもらえばいい話ですね。」うんうん、と頷いて見せると、


「…はぁ…。」

「…とりあえず、話をしてきましょう。」


あきれられもしたが、平和的解決に至った。




なんやかんや、勘違いを謝られたり(客人を従者と間違えるなんて国家の面目丸つぶれだ)、従兄弟の荷物を運んだり、適当に社交をしから、次の日。


今日はついに、結婚式の日である。

今日こそ、披露宴のときに、国王あいつをとっちめて、どういう次第でアウロラ様とゴールインしたか聞かねば。

あんなに子供の頃は仲が悪かったのに、あの二人。気にならないわけがない。


衣装箱から本日のドレスを出す。

昨日と同じ、母国風の衣装だ。皇太子の冠をつけるめんどくささが軽減されただけで(花嫁より目立たないように)。


一人で着付けして、大粒のエメラルドを花の形にあしらってある簪をさす。

本当は、海神の御恵みを受けた、我が国特産の最上級の真珠の簪をしたかった(宣伝)が、真珠はやはり、花嫁の特権だろう(白だから)。

結婚お祝いに贈ることにしたのだ。


『贈り物は真珠か。』

「まあ、ミレアルドのお姫様なら持ってるだろうが、我が国のほど良いものはなかなか無いだろう。それに、これはついこの間、取れたばかりで鑑定士は〝意味で見たことのないほどの大きさで美しく、まさしく海神の御恵みだ〟と言っていた。折角なので一流の簪師に、簪にしてもらった。」

『さらに、国の衣も入れたのか。』

「ごく普通の竜でも着るようなのだ。もちろん、男と女、それぞれ一着ずつだ。国王ヤツには餞別もしておいた。」

『ふむ。』


海神が口を利いた。


『それにしても、そなたの従兄弟は遅いな。』

「彼自身が、此方を迎えに来るとは言っていたけど。」

『此方から出向こうではないか。』

「ええ。失礼な男ですね。」


あのあと空いている部屋に案内されたが、部屋はここから遠いところしか空いてなかった。

そのため、従兄弟は隣部屋というわけではない。

両隣とも、別の主既にいたのであった。




「………キリーク?」


音がしない?

耳を扉につける。

海神の耳は人間よりはるかに多くの物音を聞く。

なのに、彼の呼吸いきの音はしない。

この部屋にたどり着いたのは、竜の気配がしたからいると思ったのだが…


『聞こえないのか?心臓の音が聞こえるぞ。』

「…でも呼吸いきは…」

『息は止めているのだろう。』


何でだ?

音沙汰ないのも心配なので、鍵を開けて部屋に入る。


「キリーク?居るのですか?」


部屋は、しんとしていた。

私の部屋と似たつくりだ。廊下をしばらく歩いて、奥にある寝室に向かった。


「……キリー…ク………。」


さらに扉を開けたその先のベッド。

何をやってたんだか…。


見なかったことにして、一旦部屋を出た。

キッチンで、湯をわかし、お茶を入れて、寝室のソファに腰かける。


『起きるのを待つしかあるまい。』

「そうですね。他人んまできて、初日からお盛んなことです。」

お茶を一口すする。


「そういうことがしたいなら昨日いってくれればよかったのに。」

『先の約束を反故にするとはな。困ったものだ。』

「本当に。」


うんうん、と二人で意気投合する。

肝心の海神を纏めて二人、にして良いかは分からないが…


「……ぉぃ!」

「ああ、目が覚めましたか。おはようキリーク。昨晩はお盛んだったようで」

「………何とかしてくれ!」

「は?ああ、そのの処分はご自分でなさってくださいね。巻いた種は、今回は文字通りですが、自分で」

「………待て!早まるな!」

「はい?」

『みっともない格好だな、セラスミスの従兄弟よ。』


海神が口をはさんだ。


「………。」

「服を着たらどうです?」

「だからそれが…」

「ああ、まぁ、そうでしょうけど。私だって、心配してみれば素っ裸の男女が二人、ベッドでシーツにくるまってたら何があったかくらいわかります。しかも貴方といえば、そこのに抱きつかれてるではないですか。」

「…それにすこっしも動揺せずのうのうと茶を飲み出したお前もなかなか」

「早く服を着てくれませんか?その、私が起きないように見ておきますから。」


椅子をベッドの脇に寄せて、娘を見守る。

従兄弟はがさごそと着替え始めた。


『お主、今日はその服でよいのか?』

「いや、良くはない……が…?」

『何かあるのか。』

「いや、その………セラ?」


「はい?」


人に女を任しといて、今度はなんなんだか。


「…今、四時だぞ?」

「それがなにか?いつも通りですが。」


いつも朝はこの時間で、すぐに服を着替えて仕事をする。

なにか可笑しかったのだろうか。


「…異常だろ。そもそも、盛装を朝イチからしなくたって良いだろ。」

「……着替えましたか?」

「(誤魔化されたな)ああ。」


私は従兄弟が着替えるのから目をそらしていたので、(奴の着替えなんか見てもしょうもない、)着崩したりしていないか確認する。



「………まあまあ良いのではないでしょうか。」

「いつも皇太子の盛装して仕事してるおまえと一緒にすんな。盛装に着こなしもなにもあるか!」

「そうですね……それで、貴方にはやってもらいたいことがあります。」



「私の仕事を、王宮から至急、運んできてください。」









娘が目を覚ますと、体はあたたかな羽毛布団、頭にはふわふわな枕が、予想では二つ重ねて---あてられていた。

わずかに目を開けると、高い天井。

光がうっすら、カーテンの隙間から差し込んでいる。


チックタック、と静かな室内に時計の音----


だがしかし、明らかにおかしな…異質な音がしていた。


カリカリ…サラサラ…トントン…ペラッ

こんな音だった。


(そういえば、昨晩は…)


そう娘が考えたとき。


「ああ、起きましたか。」


先程の異質な音の音源が喋った。


「?!?!?」

「貴女は王宮付き上級女官ミアレイアですね。ミレアルド王国トルベッソ子爵令嬢。ただし、庶子。」



話す間も彼女は手を休めない。

ベッドの傍らに椅子と机を置き、書類の山を二つ、未処理と処理済のをつくって、ペンで書き付けたり、判を押したり、時にはどちらもしない書類(例えば申請を通さないもの)を従兄弟に突っ返したり…。


それが、私、セラスミスだ。


「は、はい。」

「失礼ながら服も変えさせてもらいました。寒そうでしたから。お仕事お疲れさまでした。でも、あしたから夜は必要ないので、そう女官長にお伝えください。」

「は、はい…。」


竜の性質上、出来れば夜伽とか避けてほしい。

人ならば(男なら)喜ぶかもしれないけれど、私たちからすれば迷惑だ。

朝、起きたときキリークも迷惑そうにしていたし。

と、思って女官に忠告しておく。

だって、上級女官なんて、ほぼそれ目的だろうから。


「貴女の女官の制服はそこに(ベッドの足の方に)置きました。着替えたら行くと良いでしょう…キリーク、丁度よいからこの書類全部をこの山のまんま、そう、そのまま持っていって、また、書類を持ち帰って下さい。長めに向こうにいて下さいね。」

「分かった。」


かなり無茶な量ではあるが、まあ、彼なら出来る。

女性のお着替えに配慮して、キリークは追い出した。



暫く布ずれの音がして、


「着替え終わりました。ええと…」

「セラスミス・ロン・ツェイシェンハイロン皇国皇太子」

「……皇太子殿下方、失礼いたしました。」

「今は十時過ぎです。こんな遅くまで何があったか問われたら、私付きになったといって、おしゃべりの相手をしていたと言いなさい。私は朝食を取らなかろうが、三食食べなかろうが、生きていけますから。」

「はい。」


意味が伝わればよいのだが。

私を口実にして、なんで朝食を取りに来なかったか言われたら、私は食べなくても良いことを伝えればすべて解決、そういうことなのだ。


「私付きの女官なら、軽んじられることもないでしょう。」

「ありがとうございます。」


表向き、彼女の貞操は守られたことになる。

実際もそうだけど……竜の性質上、無理だし。


ドアが開いて、閉じた。





   ☆☆☆


ミレアルド王国国王夫妻の結婚式は、城から少し離れた、神殿で行われることになった。

早めに会場入りを澄まし、用意された貴賓席で待つ。

厳かさを保つため、神殿には華美な装飾は控えられていた。


「ここは、竜信仰だったか?」

「いいえ。厳密にはそうではない筈です。」

ミレアルド王国は、ハイロン皇国の隣国なだけあって、簡単に竜を信仰してしまうような国ではない。

そんななら、私達はもっと別の待遇を受けただろう。崇められるとか、まあそのようなものだ。

結局、ミレアルド王国は、我が国の影響を受けて、海神としての竜は信じていても、竜そのものを信仰対象としているわけではないのだ。


「何か、他の神の力は?」

「ないですね。」

まあ、海神の神殿に他の神が現れることもなかろうが。

正面の奥には祭壇が備え付けられ、たくさんの供物と蝋燭、鏡が置かれていた。

真ん中にバージンロード、両脇に貴賓席と言ったかたちだ。


「そういえば、陛下おじが、休暇のつもりだと思ってほしいと言っていた。」

「ああ、仕事のこと?でも、あれくらい大したことないですよ。わたしの仕事といっても、登城申請をうけるか、各府の財源をどうするかとか、あまり大きな仕事ではありません。総括的なものは父上がしますから。」

「………つまり、仕事を気にするなってことだ。」

「気にしてはいませんけど?」

「癖のようなもんだろう。何か、刺繍でも」

「私、嫁ぐ予定はないのです。」

「読書とか」

「この国の本はくににもあります。」

「……海神とお喋り?」

「そんなの何をしていても出来るでしょう。」


バッサリ切り捨てる。

従兄弟は頭を抱えて、唸った。


そうこうしているうち、ファンファーレが鳴り、会場は静まり返る。

みんなの目線が神殿の入口に集まった。国王夫妻が来るのを、誰もが少なからずも楽しみにしているのだ。

神殿合唱団が結婚の賛歌を、神殿楽団の演奏にあわせて、歌い始める。

どこの国でも歌われるような、有名な旋律だ。


「まだか?」

「もうすぐ来るでしょう。だまらっしゃい。」


なかなか新郎新婦は出てこないから、不安になったらしい。


「お、来た来た。」


入口から祭壇前まで敷かれたカーペットを、二人が進む。


「結婚式ってこう言うもんなのか?」

「さあ…私は出たことがないもので。」


これが普通なのか、よくわからないが、多くの招待客は顔をしかめたりしていないから、たぶんこれが普通なのだろう。


それから、二人は祭壇前で祭司の祝詞を受け、永遠の愛なんたらかんたら、の誓いをして、指輪を交換して、と式は進んだ。




   ☆☆☆


やっと式が終わったと思ったら、こんどは披露宴だ。

神殿からまた、城の大広間まで案内される。

今度は豪華絢爛を極めていた。神殿が質素だったからせめてこっちくらいは、と言うことか。


花々が会場に飾り付けられ、シャンデリアが煌めく。

招待客は白以外の色をした様々な型のドレスを着ていた。彼らの身に付ける宝石類が光に反射し、より会場を華やかにしている。


「そういえば私、ここで相手を見つけるよう父に言われたのでした。」

すっかり忘れていた。


「そうなのか?あの、陛下おじが…。」

「口に出しては言ってないですけれども、そうでしょうね。」


なかなか意地の悪い国王オヤジである。


「てっきり、陛下は俺とお前をくっつけるつもりかと…」

「いとこ同士だから無いわけでもないけど、貴方は?」

「やだね。」

「私もです。だから、この話はナシにしたいので、今日中にそこそこな相手を見つけます。」

「はいはい。」


こっちは真面目にいっているのに。


「まだかな、国王夫妻。」

「主賓が来ないと始まらないですよね。護衛の…えーと…」

「ガードナーです。」

「そうでした。すみません…ガードナー殿、予定は?」

「今から前国王夫妻がお着きになり…あ、そのようですね。ということはもうすぐ」


そっから先は、鳴り響いたトランペットで、聞こえなかった。

聞いときながら申し訳ない。護衛兼案内役のガードナー君には、また今度活躍していただこう。


「来たな。」

主賓ボスが、ね。」

「ぷっ。」


ガードナーくんが吹き出した。

ちなみに先程からの会話はすべて、ニコニコ笑顔(当社比200パーセント増し)を顔に張り付けたまま、腹話術で行っている。

よりシュールさも増すと言うもの。


「この度は、私たちの結婚式に集ってくださり、ありがたく思う。 」


主賓の挨拶が始まったらしい。


「………私と、このアウロラ二人で、さらにわが国を良くし、幸ある時代になり、さらに未来にも栄光をもらたらしていくよう……」


長いけどなかなか良いことを言っている。

もしかして私も、竜皇になったら、あんなことを言わねばならないのだろうか…


「……長くなったが、今宵は、皆が思う存分、楽しんでほしい。」


拍手がわいた。

やっと始まりか。

とたんに国王の前に列が出来る。結婚祝いの挨拶と贈り物をあげるためだ。

慌てて列に並ぼうとする従兄弟を引き留める。


「なんだよ。早くしないと」

「私の贈り物は少し時間がかかりますからね。最後です。」

「…は?その箱を渡すだけだろ?」

「〈海神ハイシェン・祝福イーフェ〉。」

「んなっ?! 」

〈海神の祝福〉とは、その名の通り、海神による祝福である。

そう簡単に受けられるものではない。海神の心ひとつで決まるものだからだ。


「そんな……うちとミレアルドはそんなに繋がりは無いのに…」

「私とウィルが幼馴染みなのをお忘れになってません?」

「ウィル?………ウィルヘルム陛下のことですか?」

「そうですよ、ガードナー殿。」


ミレアルド王国のライヴス七世ことウィルヘルムと私は、八歳ごろまで仲良しで、私はよくこの国の城に出入りしていた。

ちなみに当時からウィルの婚約者だったアウロラとも幼馴染みの仲だった。


「それだけじゃないか。」

「それだけですよ。海神次第だと言うのは御存知でしょう。」


暗に、黙んなさいと告げる。

どうこう言ったって、決定事項なのだから。


そのあとは、気まずくなったのか、だんまりになってしまった。

長く待たされたあと、やっと順番が巡ってきた。


「久し振りであったな。」

「そうですね。ご結婚、おめでとうございます。」


この言葉、昨日言った筈だ…

向こうもうんざりなのではないだろうか。


「ああ、ありがとう。私たちも嬉しい。」


心配した方がばかだったようだ。

一瞬にして惚気けられた。こういうのをウエディング・ハイと言うのか?


「この気持ちを、ほんの少しのものですが、此方の箱に。そして、同行しているものからも、贈り物をもうひとつ。」

「どうもありがとう……?」


口調が少し、怪訝になった。


すうっと深呼吸して、国王夫妻を見据える。


『我は世に海神と呼ばれし者。汝らが國の将来さきに光あらん。汝の子に祝福を与えん。』


言葉は大広間に響き渡った。

私の口を、海神が介して話すと、私の心から海神が出ていく。


途端に人々がざわめく。

海神は大広間の中央、天井(ドーム状になっている)まで昇った。


「ロンツェ!」


彼を見上げてさけぷ。


『そなたの期待に応えようぞ、セラス。我が見し汝が國を今ここに現さん。』


途端に海神のいる天井から水が壁を伝ってほとばしる。


そのまま床に満ちたものもあれば、人々のからだを包むものもあった。

悲鳴が上がるが、この水で、人々の洋服は濡れない。怖がる必要はないのだ。

からだを包んでいるのも、それはドームなのだから。


「おい!国王夫妻をお守りしろ!」

「守れ!」


そして人は、慣れないことに対して警戒心が強い。

今もそうだ。

この水に歯向かい王を守ることなど出来ようもない。私は、海神は、国王を傷つけるつもりなど微塵もないのだ。


『祝福を邪魔をするな!』


海神が一喝したのと同時に、国王夫妻も水に包まれた。夫妻の周りに駆け寄ろうとした兵たちは弾き飛ばされる。


水に満ち、鏡のようになった床に、数々の映像が写し出される。すべて、海神のミレアルド王国ができるまでを見てきた記憶だ。


「おお…」

「素晴らしい…」


人々からは感嘆の声が上がる。

そのうちにも、私は半分、意識を失いつつあった。キリークが支えないと、本当に床に倒れ込んでしまいそうだ。


「セラ…。」

「心配しないで下さい……今、魂が抜けようとしているだけ………」

『ツェイリー。』


いつの間にか、海神が側に来ていた。


『ツェイリー……行け。』

「わかった……ロンツェ…。」


明るい光が私の胸を飛び出すのを見たあと、意識が無くなった。



   ☆☆☆


「ここは………何処なの?」


隣国、ハイロン皇国の皇太子が海神の贈り物だと言ったあと。

突然体が暖かいもので包まれ、周りは見えなくなった。


「ウィル…ウィル、ねえ、ウィル…何処なの?ねえ…」

「手を繋いでいるじゃないか、先程から。此処にいるよ。ちゃんと。」


ああ、そうだった。

今、確かに私の左手には、あったかい、彼の右手が繋がれている。

大好きな、暖かみのこもった声もする。

不安がる必要なんて、なかった。


「ローラこそ、大丈夫かい?」

「ええ、でも、ここは……」


何処なの…?


「…………大丈夫だ。セラはそんなことはしない。」

「え?」

「これは……たぶん」



『久し振りだね。ウィル、ローラ。』



明るい光が弾けて、輝く人の姿が現れた。目の前に。

でも、人ではないかもしれない。

耳は、あの竜の耳だ。


「もしかして、セラ…」

現世うつしよだとそうかもね。でもね、私はツェイリー。セラの前世。でもそんなこと、今はどうだって良いわ。時間がないのだもの。』

「時間がない?どんな?」

『ローラが私のことを思い出してくれる時間よ。』

「私が…?貴女を?」


ウィルの問いかけに答えた、ウィルの知り合いと思われた竜の少女は、私をも知っているようだ。


「私が…?」


声が震える。


『ね、忘れちゃったでしょ?でも良いの。貴女のためだったんだもん。ウィルなら知ってるよね。』

「え?」

「あ、ああ…。」


彼はこくこくと頷くだけだ。どういうことなの?


『ねえ、ローラ。どんな子がほしい?女の子?男の子?髪の色は?目は?性格は?どう?』

「セラ!」

「え?ええっと…」

そんな唐突に言われても、分からなかった。

子供は、欲しい。

ウィルとの子供が。

だけど。


『私ね、幼馴染みのローラのためならね、なんだって頑張っちゃうよ!ローラのほしい子供を、ローラにあげる。』

「セラ!何をする?!」

外野オトコは黙ってて!』


私の赤ちゃん。

ウィルとの子。


「私、わたしは、ウィルとの子だったら、どんな子供でも良い。どんな子でも、可愛い我が子だもの。」


どんな目の色でも。

どんな性格でも。

男の子でも、女の子でも。


『………そっか。』


ツェイリーと名乗った少女が、さらに笑みを深めた。


『ローラ、素敵だよ。私、そんなローラとウィルが結婚したなんて、勿体無いなって思う。』

「お、おい!」

『冗談だよ。』


ころころとツェイリーが笑った。

ウィルは少しだけ、すねてしまった。


『じゃあね、私、ローラに全部あげる。欲しいもの。祝福もね。』

「祝福?」


ツェイリーはその手を伸ばして、私のお腹に触れた。


『あなたたちに、祝福あれ。すべての災いを避けしめ、未来に栄光をもたらせり。』


じんわり、お腹があったかくなる。


「ツェイリー…」

『じゃあね、ローラ。また会えるよ。私のこと、思い出して。』


ぎゅっと私をだきしめて、彼女は私の額にキスをした。


『ウィル、ローラに教えてあげて。貴方の御世に光のあらんことを。』

「まて、セラ!」

「あっ…、ツェイリー…。」


ばいばい、とツェイリーは向こうに歩いて行って、すうっと消えてしまった。


途端に周りがはっきりとしてきて、音もした。

拍手の、大きな音。

大広間に戻ってきていた。


「何が…。」

「なんと言うことだ!」

「おお、海神よ!」




招待客は、口々に海神を褒め称える。


「国王陛下、海神はこの國に祝福を贈りました。どうか、その願いがとどきますように。」


皇太子が話した。

もとの通り、すべて元通りになって、皇太子セラスミスは何もなかったかのように、私たちに話しかける。


頭が混乱するばかりだった。


もう一度ですがツェイリーはセラの前世です。

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