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暖かくて柔らかいものが唇に触れて、私は生き返った。
目を開いた。そこにいたのは化け物じゃなかった。
若い男の人だった。
彼は私の上半身を抱えて私の唇に自分の唇を重ねていた。私はそれが嫌じゃなかった。でも、すぐ離れてしまった。
品の良さそうなスーツと季節は夏なのにコートを身にまとって、人の家に勝手に土足で上がっている。
ただのサラリーマンには見えない。
「雨が止んでしまう。行くぞ。」
私の目を見ないように彼は立ち上がる。
ほぼ強引に手を引かれて裸足のまま外に出た。ガラスの破片が刺さる。痛い。
ついさっきまで死にかけていたのに、体がよく動く。
「寒い……」
絶好ってわけでもないけど。
心地良いと思っていた雨は思っていたより冷たい。彼は早足を止めて、着ていた夏向きではないコートを私の肩に掛けた。煙草のにおいがする。
再び手を引かれ早足。
そのまま道に停められていた小さな車に押し込まれて、シートベルトを締める前に急なアクセル。
他の車がまばらな国道を法定スピードを軽く越えて疾走していった。
よく動くのは体だけじゃない頭もだ。
ほぼ無理矢理車に乗せて、猛スピードで逃げ去る。彼は化け物じゃないけど、もしかして、変質者とか誘拐犯とかじゃないかな?背筋がぞくりとした。
「チッ……どこ見てんだよ!」
他の車への悪態。車に乗ると性格が豹変する人はよくいるけど、彼が凶悪犯にしか見えなかった。
何が起きているのか、わからない。荒々しい運転で車酔い。おまけに貧血っぽくて、頭を使いたくない。
彼が私を山の腐葉土にするのか、海の藻屑にするのか、どうでもよくなった。みんなの所に行きたくなって、私は目を閉じた。




