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冷たすぎない水、おでこには熱冷ましのシートも貼ってある。
……優しい。
人間の男とは違う。父さんでも兄弟でも、今まで付き合った彼氏でも、こんなことして貰った覚えなんて無かったよ。
私が飲み干すと、彼はタオルで口元を拭いて、持ってきたお盆を下げた。そしてすぐ戻って、再び椅子に座る。
愛想がなくて無骨な男、こんなに細やかな看病を…。
「食欲は?」
仲間になった私を心配してくれているようだ。
でも、彼らが何を食べるのか。あります、と答えたら何がお盆に乗せられて出てくるのか。
私はそんなもの食べられない。
「人をたべるの?」
「血を、飲むだけだ。」
ゆっくりとした、柔らかい口調。
「ころすの?」
「殺さない。」
子どもを諭すようだった。
「お前の家族は、わるい吸血鬼が殺した。」
「そう」
どす黒い血の化け物のことだ。
「俺の仕事は、そいつを倒すことだ。」
彼が毛布をかけ直す。この人はいい吸血鬼なのだろう。
「お前は悪い吸血鬼にならないよ。」
その日を境に私はあの悪夢を見ることは無くなった。