俺の親戚の女の子が来るらしい
午前三時半。
だいたいのチャンネルでアニメがやってるこの時間帯。
どの時期に見てもエンディングのキャストロールには必ず『春』という名前が、何かしらのキャラクターの横に引っ付いている。
そしてそれはだいたい一番上か二番目かのどっちかだ。
『お兄ちゃん、お話があるんだけどいい?』
『まぁ聞くだけ聞いてやるよ』
『私ね、その・・・・・・お兄ちゃんが好き、なの』
姉ちゃん演じる中学二年生の片桐葵が、顔を赤らめながら告白をする。
もちろん兄貴は苦笑い。
そしてそんなアニメを見てる俺は少し納得できないでいる。
■□■□■□■
翌朝。
姉ちゃんと付き合いはじめて約一ヶ月。
季節はすっかり花粉症シーズン。
かく言う俺も花粉症患者の一人だ。
俺の場合は鼻に支障が出なくても目に支障が出る。
痒いし涙出るしで、まぁ軽い方なのかも知れないけど。
それでもこの季節は辛い。
姉ちゃんはと言うと花粉症のかの字もないくらい、花粉症とは無縁な人だ。
羨ましい。
「なーつ夜くん」
俺がソファーに座ってるとこの人はだいたい後ろから抱きついてくる。
「何?」
「いいもの見つけたんだ」
「いいものって・・・・・・」
何時もなら両手で抱き締めにくるのに何で片手なのかわかったよ。
そして俺の命もここまでなんだね?
「この薄い本は何?」
「見た通りです、すみません」
心なしか腕が絞まってきてるような。
「私よりこんな薄っぺらい紙に書かれた女の子の方がいいの?」
「・・・・・・」
「それともお姉ちゃんにこう言う格好して欲しかったから隠し持ってたの?」
くっ、殺すなら早く殺せ。
「選ばせてあげる」
「えっ?」
「この本を捨ててお姉ちゃんを抱き締めるなら許してあげる、それ以外なら教育してあげる」
何て言うか、姉ちゃんの機嫌がよくて助かった。
「捨てます、抱き締めさせていただきます」
「もぉ、こう言う事がしたいなら言ってくれればいいのに。私は何時でもオッケーだよ!」
聞こえない聞こえない。
そんな聞きたくない現実なんて聞こえない。
「さっ、早くお姉ちゃんをその両腕で抱き締めて」
ソファーに膝だちになり言われた通りする。
仕方ないだろ?
教育されたくないし。
どういう意味かはわからんが、ろくな事じゃないのは確かすぎる。
だから俺はダメージの少ない方へと進んだ。
「夏夜くんの匂いがするー」
俺の胸に顔をうずくめた姉ちゃんが何か宣ったが俺は知らん。
今からしばらくの間、俺は石になるのだ。
なにも感じない、動じない。
「ふぅ、ありがと」
「・・・・・・」
「じゃあお姉ちゃん仕事いってくるね」
「・・・・・・」
「次無視したら怒るよ」
「すみません」
「もう少ししたら冬華ちゃんくるから、ちゃんと面倒見てあげてね」
「はーい」
「じゃあ行ってきまーす」
今日は大学も休みだしゆっくりしたかったんだけどな。
そうだ、冬華が来る前に薄い本をかたづけよう。
俺の部屋のクローゼットの天上板を剥がしたところに入れておこう。
それを実行し終え三十分が経過した頃。
ピーンポーン
冬華は来た。
ガチャ
俺は正直言うとこの小生意気なガキがあまり好きではない。
だいたい高校生の面倒見てあげろってなんだよ?
自分の面倒くらい自分で見れるだろ、お前は。
何でわざわざ俺が休みの日に来るわけ?
姉ちゃんはお前相手でも手加減しないぞ、うちにきたって怖い思いする確率が飛躍的に上がるだけだぞ。
「お邪魔します」
「おぉ」
律儀に靴を整えてリビングに入っていく。
まぁ叔母さんの躾がきちんとしてるから常識はあるし礼儀も知ってる。
俺は敬う必要なしと思ってるみたいだけど。
それに街を行けば十人中九人が美少女だと言うだろう。
言わない一人の人物はツンデレなんだよ、きっと。
「飲み物何がいい?」
「リンゴジュース」
「はいよ」
「ありがと」
こいつはまぁ親戚だけど七、八親等くらい離れてるんだよな。
そんなんほとんど他人だし。
そして去年の末に聞かされた話によると、こいつは読者モデルらしい?
そんなのをだいぶ前からしているらしい。
「あっあんまこっち見んなし!」
「見てねぇよ」
その自己主張の少ない体なんて見ても楽しくない。
まぁ俺は大きいのも小さいのも好きだけど。
「なによその言いぐさ!私なんて見る価値ないっての!?」
「そんな事言ってないだろ」
「はぁ、これだから馬鹿は、やれやれ」
殴りたい殴ってもいいよな?
いや、やめとけ。
こいつ強気だけど昔からすぐ泣くし、その度に俺は誰かしらに怒られてきた。
こいつが勝手に転けて泣いてたときなんて、あんたがしっかり見てあげないから、とか言う理由で怒られた。
「ねぇ馬鹿」
「なんだ大馬鹿?」
「ゲームやろ。あっでも、馬鹿な兄貴にはゲームなんて難しすぎて出来ないか」
「一生言ってろ」
俺は部屋に戻って昼間で寝る。
で、昼飯作ってやったらもう一度寝る。
俺はこのくそ生意気な餓鬼の相手が嫌いなんだよ。
せっかく可愛いんだからもうちょっと可愛いげのあること言ってくれませんかね?
まぁ、そんな俺の願望を押し付けても可哀想だけど。
「待って」
「あぁ?昼飯ならちゃんと作ってやるから安心━━━━━━」
「一緒にゲームしよって言ったじゃん」
それだけの事で顔を赤らめる理由がわからん。
「一回だけだぞ?」
「兄貴が勝ったらやめてもいいよ」
「はいはい」
午前中は有名な配管工が出る何でもありのレースゲームに興じた。
戦績は、五十七戦、五十七敗だ。
《続く》