俺と姉さんの約束は絶対です
終始姉ちゃんに遊ばれ続けた。
嘘が通じないってマジで大変。
トランプなんて勝ちようが無いし、何より嘘をつけば即座にヤンデレるから精神的に消耗が半端ない。
そんな精神状態で講義に集中できるわけでもなく。
はい、三限目はサボらせていただきました。
まぁ出席数的にはまだまだ余裕もあるので基本的になんの問題もない。
はぁ。
疲れた。
五限目のまで二時間くらいあるしどうしよ?
缶コーヒーを片手に敷地内のベンチで少し黄昏てみる。
「だーれだっ?」
視界が一瞬にして掌と言う暗幕に包まれたかと思ったら、随分と聞き覚えのある声が聞こえた。
「秋菜だろ?」
「ぶっぶー」
うぜぇ。
掌も退いたし俺は近くのコンビニにでも行くか。
「正解は全世界のスーパーアイドル、轟秋菜ちゃんって最後まで聞いてくださいよ!」
手を腰に当てて完璧にポーズを決めたあいつは、はたから見ればベンチの背もたれの真後ろに立って一人で騒ぐいたい女の子だろう。
一緒にされる前に離れて正解だぜ。
「先輩待ってくださいよ」
「あぁもぉ腕にしがみつくな!」
「逃げるから悪いんですよーだ、よーだよーだよーだ」
・・・・・・。
「えっ、何か反応してくださいよ」
「いや、まぁ。離れて」
もし俺の服に化粧品とかの臭いがついたら姉ちゃんが何するかわかったもんじゃない。
いくらお前が薄化粧でもあの人は確実にかぎ分ける。
ならバッドエンドはまのがれないだろう。
こうして俺の青春時代は姉ちゃんによって、異性との関わりを最低限まで断ちきられていた。
「どうしてそこまで私を遠ざけようとするですか?」
「俺の姉ちゃんに会えばすぐに理解できるから」
「えっ、それは先輩の家族に私と一緒に挨拶してくれっていうのを揶揄したものですか!?」
「いやいや、考えすぎだろ」
「そうですか、わかりました。先輩の御姉様に挨拶しましす」
「何もわかってねぇ!」
「夏夜くん」
真後ろから姉ちゃんの声が聞こえたけどあれだよな?
幻聴ってやつだよな?
きっとそうに違いない、むしろそれ以外有り得ない。
「楽しそうね」
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない。
「でもお姉ちゃん以外の女の子と仲良くするなんて、許さないから」
「・・・・・・」
秋菜の顔がまるで、幽霊に出くわしたような顔になってる。
「こっちむいて」
幻覚に違いない。
振り向いた先に姉ちゃんが完璧に存在してるがそれは幻だ。
最近疲れてたからな、無理もないよな。
「夏夜くんには、私以外の女なんて必要ないでしょ?」
「・・・・・・」
「答えなさいよ!」
「かか彼女はただの大学の後輩なだけで別にやましいことなんて━━━━━━」
「あの女がどうであろうと関係ない!」
「っ!」
「今朝もいったでしょ。お姉ちゃんは夏夜くんの事がこの世で一番好きだって。嫌われてもその気にさせるって。」
「あっあぁ」
「でもあんまりお姉ちゃんから離れようとするんじゃあ仕方ないよね、怒っちゃってもそれはそこの女と夏夜くんが悪いんだから」
「先・・・輩?」
「あなたなんて名前なの?」
「轟秋菜です」
何にも言えない。
姉ちゃんのあの目は俺にとって何よりも怖いものだから。
本当に怖いものを目の前にしたら動けない。
誰だってそのはず。
「夏夜くんとはどういう関係?」
「友人やらせてもらってます!」
「ふーん」
すると姉ちゃんはまるで品定めをするように秋菜を見始めた。
ひょっとすると本気で品定めをしてるのかもしれない。
「姉ちゃん約束覚えてないの?」
「覚えてる」
俺が唯一ヤンデレでブラコンな姉から友人を守れる方法。
小三の時に決めた《約束》である。
それは、俺がクラスで孤立した時に設けられた。
まぁ結局ぼっちだったけど。
もし今みたいな状況になっても、相手が俺の友人だと宣言するなら一度だけ見逃すと言うものだ。
その代わり俺は姉ちゃんの言うことを一つ何でも聞かなくてはならない。
今まで貞操を守れてきたのは、姉ちゃんが初めては二人ともいい気分でしたいからと言うからだったりもする。
だからさほど難しいお願いをされるわけでもない。
そしてだいたいの人はその見逃しの一件が原因で俺から離れていく。
だから俺はどっちにしろ孤立はしてた。
この約束を結ぶにしてもすげぇ大変だったし、まぁ機会があればこいつにも話してやるか。
いや、やめとこう。
「夏夜くん」
すごく不機嫌ですね。
「私のお願い聞いてもらうね」
「はいはい、秋菜は自分の講義の準備でもしに行ってこい」
「そうだね。お先に失礼します」
秋菜をこの場から離脱させ、あいつの安全も確保した。
どんなお願いでも来やがれ!
「私を夏夜くんの恋人にして」
「は?」
「約束、だよね?」
こうして、実の姉との恋人生活が幕を開けた。