俺の姉ちゃんはいつになく上機嫌
いつも通り姉ちゃんの襲撃で目を覚まして約二時間。
現在時刻九時四十分。
「夏夜くんはどんな映画が見たい?」
「短いやつ」
「じゃあ三時間半ある姉と弟の恋愛の映画見よっか」
「すみません、勘弁してください」
映画館に来ています。
恋人繋ぎさせられてます。
スーパーウルトラデリシャスハイパー恥ずい!
「姉ちゃん、この手どうにかならない?」
「うん」
即答ですかそうですか。
「結局なに見るの?」
「簡単にホラー映画でいいよね?」
「俺はいっこうに構わないけど」
別に苦手じゃないし。
てか姉ちゃんの方がそう言うの苦手だろ。
「じゃあ券買いに行こっか」
「うん」
まじでお願いですから恋人繋ぎやめてくれませんか?
券売機で並んでるといろんな視線が向けられるんだけど。
嫉妬や哀れみや嘲笑と言ったさまざまな視線が過去類を見ないレベルで向けられてるんだけどこの人は気にも止めてないし。
「あっ金━━━━━━」
「お姉ちゃんが出してあげる」
「悪いよ」
「夏夜くんとは稼ぎのレベルが違うので大丈夫」
「そっそう、ありがと」
そりゃバイトすらさせてくれないんだから稼ぎのレベルが違うなんて分かってるよ。
たしか八桁はいってるとか言ってたかな?
さすがに姉ちゃん相手でも年収がどれくらいなのかなんて理由もなしに聞けないしな。
そして財布からお金を出す際、一瞬だけ手が離れたが結局俺の右手は姉ちゃんの左手に捕まった。
「えっと十時三十五分分上映だから入場まで後三十分くらい時間あるね」
列から出て話す。
うん、姉ちゃんは俺と話す時一人称がお姉ちゃんだから余計恥ずいんだよな。
「俺本屋行きたいんだけどいい?」
「うん、何か買いたい本あるの?」
「好きな作家さんの新刊出たらしいから買いに行こっかなって」
「ふーん、好きな作家さんか」
「おっおう」
「お姉ちゃんとその作家さん、どっちの方が好き?」
絶対そう来ると思ってましたよ、はい。
「俺は作家さんの創る話が好きなだけ」
「お姉ちゃんより作家さんを選ぶの?」
「・・・・・・姉ちゃんの方が好きだよ」
「照れてる夏夜くんも可愛い」
「うっせ」
「うふふふ」
恋人繋ぎのまま歩いていく。
この相手が秋菜や梨木さんなら・・・・・・なんか子守りしてるみたいだな。
金森先輩だったら幾分かましだ。
とにかく姉ちゃんとこの歳でこれはきつい!
さらに、姉ちゃんの事が分かるアニメファンの方々もしばしばいるみたいで俺としてはやはり恥ずかしいの一点に尽きる。
「ねぇ夏夜くん」
「なっ!」
何ですかその目?
禍を感じさせる笑顔にとてもあってますよ。
心なしか俺の手をつかむ力も強くなってるし。
「今、お姉ちゃんとデート中だよね?」
「あっあぁ」
俺の目の前に躍り出たかと思ったら迫力で壁に追いやられ。
ドンッ!
壁が割れるんじゃないかって位の勢いで壁ドンされました。
て言うか何て言うか恐い。
一時期これがはやったらしいが俺の実際にやられた感想はとてつもない圧迫感と締め付けられる感覚が同時に襲ってきて、蛇に睨まれた蛙と言えば分かりやすいだろうか?
とにかくそんな感じだ。
身長の関係上壁につけられた姉ちゃんの手は俺の肩辺りにあり、俺の足の間に姉ちゃんが足を割り込ませることで俺の身動きを極力制限することに成功された。
「なのに何で他の女の事考えるの?」
上目遣いが大変恐いですね、はい。
「むっ無意識で━━━━━━」
「無意識的でも意識的でもお姉ちゃんとデートしてるのに他の女の事考えるのって可笑しいよね?」
「・・・・・・すみませんでした」
「わかってくれたならそれでいいの」
ふぅ。
「でも知ってるよね?」
えっ?
「お姉ちゃんは同じ事を何度もされるのが嫌いだって」
「気を付けます」
「うん、じゃあ本や行こっか?」
「・・・・・・はい」
そして再び歩き出す。
何やってんだ程度でチラ見してくるやつに言おう。
見なかったことにしてくれ。
俺達は手早くお目当ての本を購入して映画館に戻った。
幸い、入場は開始していて俺と姉ちゃんはドリンクを買って指定席に座った。
相変わらず手は握ったままで、肘掛けの上には握られた手があった。
「夏夜くんと映画って久し振りかも」
「去年の冬が最後だから半年くらいか」
「私も仕事忙しいしなかなか時間とってあげられないんだよね」
「いつもお仕事ご苦労様です」
「それとね、お母さんたち今年の夏も帰れそうに無いってさ」
「・・・・・・まぁ毎年の事だしね」
「寂しくない?」
「俺も大学生だぞ、それに姉ちゃんもいるし」
「ありがと」
上映中の注意が終わり映画が始まった。
■□■□■□■
意外な発見を一つ。
前々から姉ちゃんはホラー映画とか得意だと思っていたが、そんな事はなく普通に怖がりだった。
映画自体もそれなりに完成度が高く典型的なジャパニーズホラーと言った感じだった。
うん、怖かった。
けど、似た感じの種類の恐怖ならついさっきも味わってきからな。
「姉ちゃん?」
姉ちゃんは膝が震えて俺の左腕にしがみつくことで、辛うじて歩けている状態だ。
「もうちょっとだけ」
「うん」
何て言うかこの状態の姉ちゃんの方が大人しくて楽だし俺の好みでもある。
今度ホラー映画でも借りてきて同じことしようかな?
「姉ちゃんてホラー映画ダメな人?」
「うん」
「じゃあ何でホラーにしたんだよ?」
「夏夜くんがいればこわくないかなって思ったから」
「なんか頼りなくてすみません」
「許してあげる」
否定してくれないんですかそうですか。
「どうする?帰る?」
「お姉ちゃんの初めてもらってくれるの?」
「昼飯にしよっか」
「うん」
その日の昼食は適当な店で適当に済ました。
ホラー映画のショックか、それほどいちゃつかれなくて俺としては内心嬉しかった。
あと半日、半日この人に付き合えば終わる。
《続く》




