親友いわく、すごい設定らしい。
仲良しな親友いわく、
私の周りはなにやら、すごいらしい。
まあ、多少の自覚はあったりする。
両隣になかなかおいしい設定の幼馴染が住んじゃってるような、親友に比べても遜色ないとも思う。
「せーんぱい」
背後から、声がするといつもの通り、腰に手が回されて背中に額をぐりぐりと押し付けられる。
「うーん、やっぱり一日一回は、先輩にこうして抱きつかないと」
毎度のことながら、この子のスキンシップは過剰だと思う。
「蔵人くん。暑いから離れて」
「やだー。もうちょっと大好きな先輩を満喫させて」
セクハラで訴えたら勝てるんじゃないかといつも思う。
いい加減にしやがれと、お腹にまきついている腕をぺしりとはたく。
「一日一回っていう回数は守ってるんだから、いいじゃないですかー?」
背後に張り付いたまま、顎を人の肩に乗せてダダをこねてくる。
ちらりと、目線を蔵人に向ける。
いつも通りの美少年っぷりを存分に発揮し、キラキラした笑顔を向けてくる。
「前から抱きつかないだけ、僕、色々わきまえてると思いません?」
身長は私よりも10センチ低い、160センチ。ふわふわの明るい茶髪に、少しつり目気味の大きな瞳。
声変わりしたはずなのに、男にしては高い声。
その中性的な外見は、、女子にも男子にも美少年として認識されていて非公式ながらファンクラブがある、らしい。
「本当に遠慮しないなら、前から存分に抱き着いてますよ。そして、前にまわした腕の位置にも気をつかっているつもりですよ?」
にっこり堂々とセクハラ発言をする美少年。
「さすがに前から抱き着かれたら、殴り飛ばして逃げるし」
「でしょう? だから、先輩の許容範囲のぎりぎりで我慢してあげてるんです」
え? 何、その勝手な論理。
「あれ、明子ってば、まーた後輩君に巻きつかれてるし」
「美少年に纏わりつかれて、げっそりするの明子くらいじゃない?」
巻きつかれるって表現ってどうなのさ。
いつもつるんでいる栞と和子の登場をきっかけに、蔵人はようやく私から離れた。
「こんにちは、先輩方」
さっきまでの甘えた感じの声から一転、感情のない態度に毎度のことながら、微妙な気持ちになる。
「こんにちは。相変わらず、明子以外にはそっけない挨拶よね」
そうなのだ、この子は私と私以外では思いっきし態度が違うのだ。
例えるならば、決して人には懐かない孤高の血統書付ネコなのだそうだ。
蔵人はくるりと背を向けて、挨拶もなしにその場を立ち去った。
「うわ、無視かい」
「さっき挨拶したのが、奇跡ね」
すり寄ってくる時も、去っていく時も本当にあの子は自由すぎると思う。
「明子が一人の時じゃないと寄ってこないとか、すごいよね」
そうだね、本当にあの子は、私が一人の時を狙ってきてますね。
「遠目に見たけど、毎日毎日激しいスキンシップよね」
「……私の許容範囲ぎりぎりで我慢してるらしいよ?」
やめて、生ぬるい目で私を見ないで。
「美少年に毎日あんなに激しくスキンシップされて、なんでアンタはときめきを覚えないの?」
「しかも、明子にしかあんな態度とってないのよ」
確かに、特別視されてますよ?
かなり懐かれてるとは思いますよ?
でもですね、私にも恋人には理想というものがあるのですよ。
それに、
「蔵人くんに『先輩はどんなに僕が好きって纏わりついても、僕のこと好きにならないでょ? だから、安心して好きって言えるんです』と宣言されてますよ、私?」
「は? 何、その発言?」
いや、私の方が説明してほしいです。
あの子、さっきの台詞きらきらの笑顔で言いやがりましたしね。
「そんな奇怪な発言をして、纏わりついてくる後輩にときめけません」
「そ、そだね」
見た目こそは天使だと思うが、中身はなかなかのものだと推測する。
そんなやっかいな人物とは、これ以上親しくなりたくないというのが本音だったりする。
ピロリロリン♪
「ん? 何、この音」
「ごめん、私のスマホ」
「校内ではマナーモードにしときなって」
「してる」
してるけども、この人からの着信はなぜか音が鳴る。
空気を読み過ぎて、着信があるのは昼休みや放課後の先生が周りにいない時だ。
千里眼でも持ってるにちがいない。
「マナーモードなのに、音が鳴るってどういうこと?」
「よく分からないけど、お兄ちゃんからの着信は電源落とさないかぎり音が鳴る」
いつの間にか、そういう設定になっていた。
「……あぁ、明子のお兄さんか」
「あの人も、アレだよね」
人の兄をアレとかいうな、確かにアレだけど。
とにかく、早く内容確認して返信しなければ、面倒くさい事になる。
「確か、一時間以内に返信しないといけないんだっけ?」
「しかも、絵文字使って50文字以上の文字数ないと拗ねる」
「「うわー」」
そこ、声揃えて引かないで。
「確か、結婚してるのに一番大好きなのは妹の明子って豪語する強者でしょ」
「ばかね、栞。強者なのは、それを許してる奥さんでしょうが」
強者どころか、笑顔で「そこまで重い愛情いらないから、私は二番目でいいの」とかいう変人さんです。
なんでうちの兄と結婚したのかが謎な女性です。
「血がつながってなかったら、迷わず明子と結婚するけど、無理だから別に貴女と結婚してもいいですよ?」
てプロポーズされっちゃったって、頬染めてたな、確か。
確かに私のまわりは色々とすごい。
でも、そんな環境乙女ゲームだけでいいと思う。
どこかに、私がヒールのある靴履いてもバランスがとれる身長で、普通に好きだよっ言ってくれるそこそこのイケメンいないかな。
うん、頑張って探すか。
以上、「親友いわく、おいしい設定らしいです」の別バージョンでした。残る親友Bこと和子の話もそのうち書きたいもんです。