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4.私のスキル

 青くて半透明の触手が、一秒前までますみ先輩がいたところをずんと貫いた。私はく、と息を止めた。さあ来い。

「ちど、ひ!」

 私は地面を蹴って、右に跳んだ。そのまま、反対側、つまり今までいたところに魔力波を撃つ。触手と魔力波が同時に着いて、小さい爆発が起きる。

「もうちょっと引きつけて」

 はたこが言う。

「こっち?」

 私は右手をひらひらさせた。

「そ」

「ちど、み!」

 大きく回りこんだますみ先輩が叫ぶ。私はさっきより半秒くらい遅く、左に跳んだ。

「確保お!」

「ゴー!」

 振り向きざま、私は魔力波を撃った。ちょうど四人に包囲された形になった魔物は、成す術もなく崩れ去った。

「よーし、お疲れさま」

 ますみ先輩の声を合図にでもするかのように、南公園は元の姿に戻った。もう見慣れた光景だ。

「お疲れさまで……」

 あくびが出かけたはたこは慌てて口を閉じる。ねむちゃんはみんなを診て回ってうなずいた。

「今日も大怪我はありません。よかった」

 うーん。やっぱりこんな感じ。

「どうしたの、ちど? また考え事?」

 ますみ先輩がちょっと苦笑いを浮かべて聞いてくる。

「あ、いえ、ちょっと……」

 こんなこと言うのもなんだけど、同じ魔法少女仲間だし、いいか。

「あのー。この間、ちょっとネットで調べてみたんですけど、色んな魔法少女の話」

「え、そんなことしてんの、ちど」

 はたこがちょっと呆れたように言う。う、やっぱり引かれるか。でもここまで言ったからには。

「いや、あの。やっぱり私たち魔法少女って、普通じゃないわけですよね。そこらへんの中学生や高校生は魔物と戦ったりしないですよね」

「まあ、それはそうだけど」

 ますみ先輩は引いてはいないけど、ちょっと不思議そうな顔をしてる。

「だったら、何と言うか、もっと色々普通じゃないことが起きそうじゃないですか。その、ドラマチック展開が」

 ぷ、とはたこが笑う。

「ちど、あんた、アニメとかマンガとか見過ぎ」

「えー。結構真面目なんだけど」

 はたこは首を横に振る。

「いやいや。だってさ、刑事ドラマとか法廷ドラマとかあるけどさ、実際の刑事や弁護士の仕事ってあんな面白くないって言うよ。地味ーな感じで。一緒だろ」

「えー、でも」

 引っ込みがつかなくなった私を、ますみ先輩がフォローしてくれた。

「まあ、ちどの気持ちも分からなくない。この間言ってた、戦う理由? あれだって、お話によくあるパターンだと、何回も戦ってると、段々真相が出てきたりするけど。私たちの場合、全然だものね。ちょっとじれったいと言うか」

「あの、新しく謎の強い敵が出てきたり、それで危なくなったら、新しく謎の味方が出てきて助けてくれたりとかそういうのですね」

 ねむちゃんがちょっと楽しそうに言う。ますみ先輩は苦笑いした。

「まあ、そうね。でも、出来るなら強い敵には会いたくない」

 はたこも笑った。

「ははは、そりゃそうだ。話だったらどんどん強い敵が出てきた方が面白いけど、実際やるとなったら楽な方がいいに決まってる」

 それはそう。私も笑ってしまった。

「あはは、本当、本当。話じゃなくてよかっ……」

 ……うん? 何、この感覚。何だろう、違和感?

「あっ」

 そうか。違和感。話だ。話。

「ど、どうしたの、ちど?」

 突然立ち尽くした私を心配して、ますみ先輩がぽんぽんと背中を叩く。私はうなずいた。

「大丈夫です。分かったんです、全部」

「え」

 珍しくびっくりしたますみ先輩に代わって、はたこが聞いてくる。

「何が分かったんだ?」

 私はふう、と息を吐いた。信じてもらえるかな。

「私たちが誰にスキルを与えられて、何のために戦ってるのか。あと、私のスキル」

『ええっ』

 ますみ先輩、はたこ、ねむちゃん。みんな、はたこの網にかかった魔物みたいに動きを止めた。私はうなずく。

「簡単に言うと、話なんです。私たちの戦い」

 三人は声に出さずに「え」と言った。

「話だから、何のために戦ってるかって言ったら、話を読んでる人のため。誰に魔物と戦う力を与えられたかって言ったら、話を書いてる人に」

「ち、ち、ちょっと、ちど、大丈夫?」

 ますみ先輩が最初に金縛りから解けてそう言ってきた。私はうなずいた。

「大丈夫です。魔法少女なんてとんでもない非日常、お話以外ないでしょう? だけど、問題は、話にしては面白くなさすぎること。受け手の期待することは」

 私は指を折った。

「まず、毎回変わる戦い。敵が色んな攻撃をしてきて、私たちが毎回違うやり方で何とか勝つ、みたいな感じ。それから、仲間うちでの対立と和解、出会いと別れ。それを通じての成長。あと、この間言ってたボスの存在とか。そうそう、戦いを離れたプライベートとかも結構大事かも、キャラを掘り下げる感じで。あと……」

 私はネット検索してる途中にうっかり見てしまった画像を思い出して、ちょっと目をあらぬ方向へ向け、小声で早口で言った。

「……触手に捕まって、色々される妄想系のあれとか」

「ま、待て。そんなの全然なかったじゃないか」

 はたこはぶんぶんと意味もなく腕を振って言う。私はうなずいた。

「そう。私たちは大して変わらない戦いをして、同じような勝ち方をしてきた。ケンカもしないし、誰とも会わないし別れもしない。成長もしてない。まあ、ちょっと戦いに慣れはしたけどね。ボスも出て来ないし、プライベートも……私たち、お互いのこと、何も知らないよね?」

 ますみ先輩やねむちゃんの苗字、はたこの本名も知らない。三人は顔を見合わせた。

「もちろん、触手に捕まったりもしてない、と。受け手が期待しそうなこと、受け手に受けようと思って作り手がやりそうなこと。何も起きてない……起こしてない」

 はっ、とねむちゃんが口に手を当てた。

「まさか……それが、ちどりさんの」

 私はうなずいた。

「そう、私のスキル。ドラマを破壊して、私たちの安全を守る。「フラグブレイク」とかかな」

「そうか! ちどの、役割!!」

 ますみ先輩がぱあんと大きく手を叩いた。私はもう一度、ゆっくりとうなずいた。

「そう。私は、この話の、語り手なんです。それを考えれば、こういうスキルを持ってるのは、むしろ自然ですよね」

 三人は、のどに引っかかってた小骨が取れたみたいに、しみじみとうなずいた。

「何だ、分かってみれば納得だ」

「さすが、ちどりさん。すごいスキルです」

「そうか、ちどのスキルが私たちを守ってくれてたのね……」

 私は笑った。私もすっきりした。この話で、唯一興味を引くところがあるとしたら、私のスキルが何なのか、だったんだけど、それも今解決した。というか、私のスキルが働いて、最初で最後のドラマを壊したんだ。

 もう、終わってもいいよね? それじゃあ。


くそー、奴のスキルさえなかったら、怒涛のR-18展開に持っていけたのにー!

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