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2.スキルの秘密

「弾いて!」

 ますみ先輩が叫んだ。私は魔力波をあっちこっちに乱れ撃ちした。赤黒い触手がぱんぱんと弾かれる。なるほど、こんなに色んな方向から一度に来たら、かわすより弾くしかない。

「お待たせ。ポイントFに展開した」

 はたこの声が聞こえる。今日は戦場が最初から南公園だから、電話越しじゃなくて直。

「よし、ちど!」

「はい」

 私はもう一回乱れ撃ちしてから、前を向いたまま後ろへ走った。慣れないとちょっと怖いけど、もう平気だ。

「そこで!」

 ますみ先輩の声を背中に聞いて、私は魔力波を自分の斜め下に向かって撃った。同時に思い切りジャンプ。私の体は、少しだけ宙に舞う。

 遅れた触手が、慌てて私目掛けて伸びてくるけどもう遅い。下はポイントFだ。

「確保ぉ!」

 はたこの声と同時に私は着地した。おっとと。崩れかけたバランスは、後ろのますみ先輩が支えてくれた。

「ゴー!」

 ますみ先輩の号令で、はたことねむちゃんが魔力波を魔物に撃つ。少し遅れてますみ先輩と私。

「-Iw2+$!」

 魔物は崩れ去った。ふう。

「みんな、お疲れさま」

 ますみ先輩が言う。

「お怪我はないですか」

 ねむちゃんが聞いてきた。あ、手、すりむいてる。

「ごめん、お願い」

「はい。あぁ、痛そう。大丈夫ですか?」

「見た目ほど痛くないよ」

 一瞬で傷は消えた。うん、やっぱりすごい。

「ありがとう」

「い、いえ」

 怪我の消えた手を振って調子を確かめていると、ますみさんが近づいて来た。

「ちど」

「何ですか?」

「あなた、無理してない?」

 微妙に首を傾げてる。私も同じようにした。

「無理、ですか? してない、と思いますけど……」

「そう? ならいいけど」

 逆に気になる。

「どうして無理してるって思ったんですか?」

 ますみ先輩はおでこに人差し指を当てた。

「いや、ちょっと魔力波を撃ち過ぎてるかなって。あれじゃ疲れるでしょ」

「え、すみません。未熟なので」

「あ、違うの。いつもたくさん撃たなきゃいけない役割を買って出てくれるから、それで」

 そうか。確かにそう思われるかも。

「まーだスキルのこと気にしてんの?」

 はたこが伸びをしながら言う。ねむちゃんは目を潤ませている。

「ちどりさん、無理はやめてください」

「だから、違うってば」

 私は三人の視線を弱めるために、両手で押さえるような仕草をしてみせた。

「無理は、してません。たまたま、そういう役割をやってるだけです」

 でも、気にはなってる。

「確かに、自分にスキルがあるのかないのか、あるならどんなのか、どうして出て来ないのかとか考えはしてますけど。別にだから、その分無理する! とかそういう風には考えないようにしてます」

「ならいいけど……」

 ますみ先輩は当てた指をゆっくり離しながら続ける。

「スキルってね、はっきりしてて、自分でコントロールできるものばっかりじゃないみたい」

「へえ、そうなんですか?」

 うなずいて、ますみ先輩はあるチームにいる魔法少女、みささんの話をしてくれた。

 みささんは結構キャリアがある魔法少女だけど、スキルがなかった(と思われていた)。みささんのチームの人たちは、私のチームのみんなと違って厳しくて、みささんは孤立していたらしい。一人だけ余り怪我をしてないのもチームの人たちの気に障ったらしい。楽をしてるんじゃないの、と。

 そんなわけで一人寂しく歩いていたみささんの前に、突然魔物が現れた。つくばさんの連絡も間に合わなかったらしい。みささんは独り戦う覚悟を決めた。どうせ仲間に見放されたんだし。

 ところが、魔物はまるで遠慮してるみたいにみささんに攻撃を当てない。みささんは不思議に思ったけど、はっと気が付いた。これが、自分のスキルなんだって。そう、「魔物に攻撃されない」というスキル。

 みささんは独りでその魔物を倒して、チームに復帰した。突撃したりおとりになったりなんていう危険な役割を一手に引き受けて、今も活躍してるらしい。

「魔物に直接狙われなくても、ガレキとかには当たるから、生傷は絶えないって言ってたけどね」

 ますみ先輩は苦笑いして話を終えた。

「なるほどー。でも、そういう隠れてるのだと、どうやって見つけたらいいのかな」

 私が言うと、はたこが指をび、と立てた。

「キャラとか役割を考えてみたら?」

「キャラ? 役割?」

 はたこは大きくうなずく。

「そ。例えばさ、ますみ先輩はいかにもリーダー、って感じだろ。びしびしって指示出しして。だからそれにぴったりの「予測」スキルがある。荒っぽいのが苦手で癒し系のねむは「治療」。で、ハンターっぽいあたしは「網」と」

 網だからハンターより漁師じゃないのかな、と思ったけど黙ってた。

「確かにそうかもね。つくばさんの「レーダー」とかそのままだし」

 ますみ先輩も同意する。つくばさんは一番キャリアのある魔法少女で(少女、って言える年なのかどうかは考えてはいけないことになってる)、最初に戦いを始めたすごい人だ。今は、私たちの一番上のリーダーみたいになってる。チームとその受け持ち場所を決めて、魔物が出たらそこに向かわせるわけだ。

 で、つくばさんの「レーダー」は、街のどこに魔物が出たか(出るか)を感じ取るスキル。確かに最高司令官にぴったりだ。

「なるほどー。そうなると……私のキャラ? 役割?」

 うーん。私、そんなに個性ないしなあ。名前が変わってる、とはよく言われるけど。

「実は他の人より魔力波を撃ち続けられる、とかじゃないですか?」

 ねむちゃんが言ってくれたけど、とくにそこまで連射できるわけでもない。あのくらいなら、はたこもますみ先輩も、たぶんねむちゃんも出来るだろう。

「まあ、ゆっくり探しましょう。今のままでも、ちどは大事な戦力なんだし」

 ますみ先輩が笑って言ってくれた。

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