第五話 ソ連軍ノ侵攻ヲ阻止セヨ 後編
対空戦闘の命令が言い渡されてまもなく、
その光源はまだゆらゆらと海上に浮いている、
あるいは遠くてその動きが見れないのか、
ともかく、
今この瞬間も乗員にとってはとてつもなく気持ち悪い時間だろう、
けっして気分は良くない筈である、
「………!、大きくなってきたぞ、こっちに近付いて来るぞ!総員備えろ!」
ムクムクと、
海上の光源はこちらに近付く、
近付けば近付くほどその光源は段々とでかくなっていく、
その時だった、
光源が一気に頭上を駆け抜けた、
一体どれほどの速度が出てるんだと思ったがそれどころではなかった、
まわりは光源の発する光で昼間以上に明るい、
まだ日の出前なのにだ、
照準もつけられない、
誰もが手で目を遮りまぶしさから逃げる、
そして通り過ぎた光源はそのまま物凄い速度で水平線へ消えた、
それと同時に太陽が顔を出した、
まるで太陽が生まれた様な光景である、
物凄い音が海上を震えさせた、
再び機関が始動したようだ、
「まるで天照大御神が通り過ぎた様な感覚だな………」
「艦長!前方に艦影!」
ふと私は目を覚ましたとき、
そこはまるで空の上に居るかの様な白さと青さがまばらに散らばっていた、
いや、もし本当なら、空の上に私は立っていると言えばいいのだろうか、
ありえない、こんなのありえないぞ
「ここは靖国なのか………」
戦場に立たずに戦死とは、
自虐的に笑ったその時だった、
「私が貴方を呼びました」
後ろを振り返ると、
そこには巫女が立っていた、
もう一度いうがここは多分空の上
「………靖国の迎えか」
「いいえ、違います、私は天照です」
「ほぉ、その天照大御神がこんなしがない兵隊に何の用だ?」
「貴方の祖国への思いを私は感じました、強いお方なのですね」
「まさかこの歳で神さまから褒められるとはな、人間生きてみるもんだ」
「これは真面目な話し合いですよ?私は貴方の愛国心を評価しているのです、だから」
「だから?」
「今回のみ特別な事例として奇跡を起こします」
「ありがたいものだ、で、その奇跡とは?」
「ソ連船団の壊滅」
「よし乗った、この勝負引き受けたぜ」
一息入れると、
この話し合いは成立したようだ、
そして天照大御神は目をそらして合図してきた、
「彼女達が、貴方の支援をする方々です」
冗談じゃない、
まだ年端もいかない少女じゃないか、
帝国陸軍もここまでは落ちてない、
「彼女達は艦魂と貴方達人間が呼ぶ存在です」
艦?
それは海軍さんに聞いた方が早いな、
なにせ私は陸軍だから
「そして、彼女が伊吹、航空支援をしてくれるのは彼女です」
それを言ったあと、
天照大御神は何かの反応を期待して私を見る、
何もないぞ、
「………何をしろっていうんだよ」
「挨拶でもしたらどうですか?」
「そうだな、伊吹とか言ったな、航空支援ありがとう、もっと別の時代に会いたかったな」
笑って私はそういった、
途端に意識が薄れる、
「では、池田様、頑張ってください」
ここで完全に再び意識が途切れる、
するとどうだろう、
何かに体を揺さぶられてる感覚を感じた
「連隊長殿?大丈夫ですか?」
「………あぁ、大丈夫だ、今の状況は?」
「沖合の方では奇跡的に駆けつけてくれた海軍さんの軍艦が露助を狩ってます、その為戦線はどんどんこちらが押しています!」
「なるほど、奇跡か、」
空を見上げた、
戦場に置いてよそ見は命を取りかねないが、
今はそんなのを気にしてる気分ではなかった、
まもなくして空を爆音が包みカラスがたくさん群がってきた、
いや、良く見たら海軍さんの航空機だ、
「おい、」
「なんでありましょうか連隊長殿?」
「この戦い、絶対に勝つぞ」
「はい!」
まもなくして私の乗るチハも戦場に向けて走り出した、
陣頭指揮で士気を盛上げるためだ、
海は海軍さんに任せた、
陸は俺達陸軍に任せろ、
私は息を吸い込み、気持ちを整え、
丘を見下ろした、
逆上陸した海軍さんの八九式が丘の上から見えた、
ソ連軍ノ侵攻ヲ阻止セヨ 完