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第二の人生。



若干のシリアス入ります。






 若干イライラを引きづりつつも、私はゆっくりと目を覚ました。

 手足が無事に動く事をしっかりと確認して、緩慢な動きで身体を起こす・・・・で硬直。


 スラッと伸びた手足に、無駄のない綺麗な筋肉に包まれた身体。


「・・・・男??」


 ボソッと呟いてみれば、酒焼けとは無縁そうな綺麗な男声だった。



 ・・・・・なんてこったい。

 あんのクソチビ。性別、適当にしやがって!!

 と怒りに燃えて見たところで確認しなかった私も悪いのだ。これはもう諦めるしかないだろう。

 もともと「女らしく」なんて言葉が嫌いだった私にはちょうどいいのかもしれないけど。寧ろ楽かも?

 いろいろと自分の身体を調べて見た結果、この身体は健康な男子である事が分かった。

 無造作に放っておかれた財布の中を漁ってみると、凄い色のクレジットカードと共に保険証も入っていた。

 名前は、「仙道 和樹」。誕生日は7月21日。生まれ年からして、今年18歳だ。うぇ、わっか!!


 あのロリショタボーイが「自殺した~云々」って言ってたが、それにしても何が苦でこの身体の正当な持ち主だった和樹君は自殺したんだろうか。

 どうせこの年頃の子にあるようなくだらない悩みだろう、うん。

 問答無用で死んでしまった私からすれば「なんて贅沢な!」って感じですよ。

 まぁ、健康なら私は問題はないが。ごめんね、身体使わせてね。と何所に向かってする訳でもなく手を合わせる。成仏しろよ!






 今度は長生きしてやんよ!と決意も新たに立ちあがった私はふと、大きな窓ガラスに目が行った。

 なんか、いまいるとこ高級マンションの一室っぽいんだよね。しかも高層部にある超セレブな階の。

 ・・・・和樹、君一体何者ー??


 綺麗に磨かれた窓ガラスの向こう側には沢山の高層ビル。これは間違いなく東京。見た事ある看板が見えるもん。


「ほぇ、すっげ」


 間の抜けた声を発しつつ、私は窓ガラスの向こう側をよく見ようとガラスに近づいていって、反射で映り込んでいる自分の顔に気がついた。

 そういえば、この身体は一体どんな顔をしているんだろうか?

 ぶさいくは嫌だなぁ・・・・と大変失礼な事を思いながら私は見づらい窓ガラスから離れて、鏡を探した。


 そう時間もかけずに見つかったのは、玄関にある姿見。家を出る時に自分の姿を確認するのに便利そう。


「あったあった」


 ぱたぱたと近づいていって鏡を覗き込むと、そこには金髪黒目のイケてるメンズがいた。


 ・・・・・だれ


 勿論、それは鏡なのだから映っているのは私なのだけどもね。

 硬直。次いで唖然、茫然。

 あまりにも整い過ぎてて、つい頬が赤く染まった。イケメン!イケメンが今私を見つめてる!みたいなね。・・・・どうせ馬鹿ですよ!

 私が顔を赤く染めると、イケメンも顔を赤くして恥ずかしそうに目を泳がせた。

 これが、鏡じゃなかったら「両想い!」と歓喜するところだが、残念な事に彼が居るのは鏡の向こう側。

 強いて言えば、このイケメンは私自身。鏡に映った自分がタイプってただのナルシストじゃないか。


「あぁ~・・・。和樹クン、君とはお互い生きてるときに出会いたかったよ」


 まぁ、私は[ピー]歳彼より年上な平平凡凡を形にしたような女だったから出会った所で何もなかっただろうけどー。残念だ。

 金糸のように細く美しい髪は、傷みを知らないサラサラヘアーで白い肌に驚くほど似合っている。日本人離れ・・・というか、ホントにコイツ日本人か??


『ショーコさん、ショーコさん。聞こえていますか??』


 ジロジロと鏡を見つめていたら頭の中に声が響いてきた。・・・ロリショタボーイの声だ。

 ちなみに、ショーコというのは私が「私」だった時の名前。翔子と書いて「しょうこ」。・・・・閑話休題


「なに」


『いろいろと「仙道 和樹」さんについての情報を纏めた本をリビングの方に置いておきました参考にしてください。』


「おぉ、意外と気がきくな」


 いそいそとリビングに戻ると、さっきまではなかった黒い表紙の分厚い本がデンッ!と机の上で幅を利かせていた。

 うわ、ちょっと触りたくないわ。


『害はありません。全然怪しくなんてないですよ』


 私の心の声を呼んだらしいロリショタボーイが憮然とした風にそう言う。いや、これを怪しまないやつがいるもんか!

 恐る恐る手に取ってみると、確かにただの本だった。まぎらわしい


 表紙には「仙道 和樹について」とまるで会社の報告書のような字が書かれていた。


「和樹クン、ごめんねー」


 君のプライバシー全部まるっと見せていただきます。パンッと手を合わせて謝罪してから私は本をゆっくりと開いた。




目次

○目次     1ページ

○はじめに   5ページ

○家系図    24ページ

○両親の出会い 30ページ

○誕生     52ページ

○0~1歳   89ページ

○1歳~2歳  138ページ

・・・以下略。




 ‥‥‥‥‥なっげぇ。え、最後のページ4378ページ?読めるかこんなもん!!

 ずっしりと重たい本にうんざりだ。え、これ読まないとだめ??


『・・・・しょうがないですね』  

 

 にらめっこすること数秒、ロリショタボーイの呆れたような声がそう言った。元はと言えば誰のせいだと思ってやがる!

 

 私の手から本がポンッと音を立てて消え去り、代わりと言うように頭の中に膨大な情報が波のように襲ってきた。

 見た事のない男女が仲睦まじく歩く光景、出産シーン、子供が歩き始めたシーン、初めて喋ったシーン。

 まるで映画を見ているような気分で私は仙道 和樹という少年と青年の狭間にいるような年齢の人間の一生を見ていた。

 それは感情も伴い、まるで自分が体験しているような気すらしてくる。他人の過去をまるっと見てしまうなんて最低だ。と今更ながらに思った。

 本の方がまだマシだったかもしれない。ホントにごめんね、和樹クン。





 私は彼が何を苦しみ、何を辛いと感じていたかも全部分かってしまった。

 他人を信用できなくなってしまったのだ。だって彼の記憶の中では仲良くなった者達、知り合った者達そのほとんどが彼を裏切っていく。

 お金、地位、名声、見栄、快楽。

 仙道 和樹(かれ)に近づいてくる者達はそんなドロドロな感情しか持たない人間ばかりだった。


 彼は、良くも悪くも優秀すぎたのだ。……そして、有名になりすぎてしまった。

 私が見る限りでは、彼を本心から大切に思ってる者達も確かに居た。でもその人たちが信じられなくなる程に和樹(かれ)は追い詰められてしまったのだ。

 

 で、服毒自殺。

 大量の睡眠薬を飲んで、彼は自らを殺してしまった。

 「辛い」、「苦しい」と誰にも言えないままに。


 頬を涙が伝った。もし私が彼だったら耐えられるだろうか?

 親友だと思った人に自分が売られる事に。

 兄のようだと慕っていた人に利用される事に。

 大好きな両親に馬車馬のように思われる事に。


 何も知らないままにくだらないと馬鹿にしてしまった少し前の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。

 ほんっと、サイテー



 あまりにも辛すぎた。哀しくて苦しくて彼は孤独だった。

 信じられるものがあまりにも少なすぎて、本当に信じられるものが分からなくなってしまう寂しさ。

 そしてそれを誰にも言えないもどかしさ。


 身を引き裂かれるような感情に襲われて、私は身体を抱きしめるようにして泣いた。

 ごめんね、ごめんね。

 何に対して謝っているのか自分でも分からなかった。だって、もう頭のなかグチャグチャだった。


『………僕の為に泣いてくれてありがとう』


『あっ、コラ!出てきちゃダメだって‥‥!!』


『五月蠅いな。出てこなかったら男じゃないだろ』


『もうっ!僕が怒られ‥‥』


『黙ってろって』


 そんなグチャグチャな頭の中で誰かが喧嘩してる。片方はロリショタボーイ。ちょ、五月蠅いんですけど。

 え、てかもう一人誰?


『初めまして。和樹です』


 ‥‥‥仙道 和樹その人だった。

 ‥‥‥‥‥泣いてもイイですか?






「‥‥‥‥ごめんなさい」


『事情は色々聞きました。翔子さん、謝らないで良いんです。

 その身体も僕が持っていた物も全て貴女の自由に使って良いんですよ。


 あんなに想ってくれる親友たちが居たのに、信じられなくなってしまった大馬鹿者の身体ですけど。

 ‥‥‥死んでから知るなんて馬鹿ですね』


 思わず謝った私に彼はクスリと自嘲気味に笑う。

 歳的には私の方が上なハズなのに、思いっきり逆転している。


 彼も私と共に自分の記憶を見ていたらしい。

 いろいろ思う所があったのか、哀しそうに言う彼は『それに』と囁く。


『改めていろいろ過去を見直してみて思ったんです。

 僕は色々な事が見えて無かったなぁ・・・って。

 表層ばっかり見て、逃げてばかりだったな、って。


 ‥‥‥だから僕の代わりに、生きてくれませんか?

 辛い事だとは思います。酷い事を言っているとも分かっています。

 でも、僕は、僕を大切に思ってくれていた大事な人達を自殺なんているバカな行為で泣かせたくないんです。』

  

 ホントに17歳か?なんて大人びた子なんだろうかと胸が痛んだ。

 

「酷くなんて無いよ。‥‥‥ごめんね。身体、貸りるね和樹クン。」


 私には生きて、見届けなきゃいけない事がある。だから死ねない。

 ごめんね、ごめんなさい。貴方の優しさに甘んじてしまう事をどうか赦して。


『楽しく生きてくれたら嬉しいです。僕は、‥‥‥楽しめなかったから』


「うん。ありがとう、ごめんね」


『いいえ。たまに見にきますから。楽しんでないと怒りますよ?』


「ふふっ、その時には驚かせてあげるから!」


『はい、楽しみにしてます。』


 何所かスッキリとした声でそう言った彼は『じゃあ』と言って去っていった。

 遠ざかっていく気配に心をこめてお礼を言った私は、さて、じゃあ宣言通り楽しみますか!と気合を入れて立ちあがった。


 第二の人生は始まったばかりよ!





『・・・・僕まだ居るんですけど』


 虚しそうな声が頭の中に響いたけど無視しておいた。

 



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