サイレン
15分短編です
うちのアパートは、壁が薄い。
深夜、お隣さんが帰ってくるとすぐにわかる。お隣さんは、時々深夜に帰ってくる。できる限り静かに足音を立てない様に配慮するような足音がする日もあれば、焦っているような階段を駆け上がる足音が聞こえることもある。
部屋に入って鍵を閉めると、何やら笑っている。結構不気味。引っ越しの挨拶とかをする文化が少なくなっててよかったなと内心胸をなでおろしているのは秘密にしておきたいところだ。
今日もお隣さんは、深夜に帰ってきた。お仕事大変なんだなぁ。私もいつまでも起きてないで、ちゃんと寝ないと。時計を見ると深夜3時を過ぎていた。大体この時間に帰ってくるよなぁ・・・。
翌朝、サイレンの音で目を覚ました。くそう、遅くに寝たから寝不足だ。このアパート大通りに面してるから、救急車とかパトカーの音、めっちゃ聞こえてくるんだよね。あー、せっかく良い気持ちで寝てたのに。仕方ない、起きるか。
目を擦りながらPCを開く。
昔は小説家に憧れていたけど、ずっと家の中に籠ってPCと睨めっこをするだけの、さもしい商売だ。でも、外出が苦手な私にとっては、有難い職業ではある。
お隣さんも起きたようで、物音がする。あんな遅くに帰ってきたのに、もう出かけるんだ。でもよく考えると、お隣さんって、夕方一回帰ってくるんだよねぇ。
朝と夕方、夜と深夜、このタイミングで必ずドアの開け閉めの音がする。ソレも毎日。昼間は仕事だろうけど、夜は何してるんだろう。
小説家の妄想脳が、勝手に回転を始める。
深夜の仕事と言えば、パブとか、キャバクラ?でも男性だし・・・ボーイさんとか?かな。でも決まって3時に帰ってくるものかな?あの手のお店って、明け方まで営業してるイメージがある。あ、でもバイトなら短時間の勤務もあり得るか。
もしくは病院勤務とか!?この辺大学病院あるし、そこのお医者さんなのかも!それなら変な時間に家を出るのはうなずける。でも、医者も時間が固定されてるわけじゃないから、必ず3時頃に家に帰ってくるのもなんだか引っかかるなぁ。
あ、またサイレン。救急車と、パトカーだ。やだやだ、最近変な事件多いよなぁ。
TVをつけると、傷害事件と殺人事件のニュースを取り上げていた。朝からショッキングなニュースだなぁ。しかも結構近所じゃん、怖い怖い。家から出ないと外の情報全く入ってこないし、執筆に夢中になると、TVもほとんど見なくなるから本当に情弱になる。いけないなぁ。小説家たるもの、情報はしっかり手に入れておかないと。
テレビを見ていると、チャイムが鳴った。
「はーい」
「あ、警察ですが」
警察から事情を聴かれるようなことはしていませんが!?
話を聞くと、さっきTVでみた近所の傷害、殺人事件に関する聞き取りだった。私はほとんど家から出ないから、あまりめぼしい情報は伝えられなかった。
「お隣の方と面識はありますか?」
「いえ、ほとんど」
「そうですか、何か気になることなどあれば、教えてください」
そう言って警察は帰って行った。小説家として、もう少し、警察から情報をもらえたらよかったのに。なんて思いながら、仕事に戻った。
その日の夜、お隣さんがチャイムを鳴らしてきた。
「あの、昼間に警察が来ませんでしたか?」
「えぇそうですね」
「何を聞かれましたか?」
「TVでやってた殺人事件の話でした。お恥ずかしながら、私、仕事柄ほとんど家から出ないので、全然お力にはなれなかったです」
「そうですか」
そう言ってお隣さんは帰って行った。お隣さん、そう言うの気になる人なんだなぁ。
ってか真夏にコートなんて着込んで怪しいなぁ・・・まさか殺人事件の犯人!?・・・・なんてねぇ~。職業病だなぁ。
三日後、TVにお隣さんが映っていた。
——なぁんだ、わいせつ物陳列罪かぁ・・・——
後日、下の階の人が殺人容疑で捕まった。




