海辺の町マール
あーーやっぱり海の近くはいいわね。
私はマールの町にあるアシュトン伯爵家の別邸のバルコニーから海を眺めた。
パールの養殖場もここからよく見える。
パールの収穫祭まで後1週間。仮面舞踏会の後、すぐこちらに来て正解だった。
お母様とお姉様達も、国王陛下の誕生祭に出席したら、こちらに来てくれるそうだ。
今日からパール貝を収穫して、港に作った生け簀に移動させる。今年は量が多いから楽しみだ。来年の分はもうすでに海で育て始めている。
収穫したパール貝を使ったサンプル料理の試食もしないといけないし。
忙しくて大変だが、余計な事を考えなくて済むので好都合だ。
「エディが王太子殿下なんてね」
レースで負けた時は肉が貰えないって事しか考えていなかったが、肉を譲ってくれて、孤児院で手伝ってくれたエディは貴族とは思ったが、とても気さくで、話していて楽しかった。
まあハンバーガーを食べた事がないって所で気がつくべきだったが。
やっぱり物語の強制力には敵わないのか?
物語のままいけば、私は王太子殿下と結婚して、お母様やお姉様達が断罪されてしまうかもしれない。
私が皆んなを守って幸せにするんだから。
私はバルコニーから部屋に戻り、今日の仕事を始めた。
必要な書類に目を通し、港に向かうと町長のロブさんが声をかけて来た。
「レイチェル様、収穫が始まりました。貝の生育も良さそうなので期待できますよ」
「それは楽しみね。貝柱の試食も含めて、養殖場の区画毎に貝を開けて行きましょう」
「はい、すでに用意していますので、アストリアレストランに来て頂けますか?」
アストリアレストランはこの町で私の1番のお気に入りのレストランだ。
シーフード料理が絶品で、波の模様が入ったお揃いの食器や布巾もかわいい。
お弁当を頼んだら、波の模様入りの布巾が付いてくるので家にはここの布巾がたくさんある。実用的な物をオマケでつけるっていい戦法よね。
今回のお祭りでも、このレストランと共同でシーフードチャウダーを作り、お土産にできるマグに入れて販売する事にした。
レストランに行くと、5個の木のバケツが並んでいて、バケツには1-5までの番号が書いてある。
私はテーブルに着くと、レストランのシェフが1のバケツから大きく育った貝を開けてくれた。貝の中にはパールが10個ぐらい入っている。どれも美しくひかり、綺麗な球状になっている。
順番にバケツから貝とり開けてもらい、私はパールの大きさを測り、数を記録する。
「貝は養殖場の5ヶ所からとりました。レイチェル様のいう通りに南側は発育がいいのですが、手前の方は貝が小さいままでした」
町長さんは地図に書かれた番号を見せてくれる。1番南に1番と書かれているので、この貝はそこから来たのだろう。
私は生育が悪いと言われている場所の貝を見せてもらう。
確かに貝は小さく、パールも丸いものもあるが変形しているものも多い。貝柱も小さいので食用には向かない。
これってあれに似ているわね。水族館とかで良くやっている。
「小さい貝はそのまま売るのはどう?お客様に貝を選んでもらって、出て来たパールをその場でアクセサリーにしてもいいわね。どんなのが出てくるかわからないから、宝探し気分で楽しいと思うわ」
「それは素晴らしい考えですね。ネックレスやブレスレットならすぐ作れますし、是非しましょう」とロブさんは大喜びだ。
そんな事を話しているとレストランのオーナーが貝柱入りのシーフードチャウダーを持って来てくれた。
オリジナルのマグもかわいい。
「すごく美味しいわ。マグ付きスープを買ってくださった方にはマグを入れる袋を必ず渡してね。マグを洗える場所もあると良いわね」
「レイチェル様、皆さんがすぐ食べてくれてばいいのですが。お持ち帰りの場合はスープがこぼれてしまわないか心配で」とシェフがいう。
そうね。。マグだから蓋がないし。。あ!
「それならこんなのはどうですか?パイ生地を上に被せてマグごと焼くんです。マグは陶器なのでオーブンに入れても大丈夫ですよね」
私はアップルパイ用のパイ生地を持って来てもらって、スープが入ったマグに被せる。そしてオーブンで焼いてもらった。
パイ生地がドームの様になっていて、綺麗に焼けている。
「レイチェル様、これはどうやって食べるんですか?」
「スプーンでこうやって割って食べると、パイ生地にチャウダーが付いて美味しいのよ」
シャフもロブさんも一口食べて目を見張った。
「素晴らしいです、このパリパリしたパイ生地とチャウダーが絶妙です」
「今までパイを作る時に無駄に余っていた部分が再利用できてとてもいいです。これならチャウダーも保温されるし、溢れる心配がない」
私は再利用という言葉を聞いてニヤッとしてしまった。つい守銭奴根性が出てしまう。
収穫祭が楽しみだわ。
収穫祭の2日前に、お母様とお姉様達がマーレにやって来た。
「長旅ご苦労様でした。今日も収穫祭で出す食事の試食があるんですが一緒に行きますか?それとも休まれます?」
お母様は休みたいらしいが、お姉様達はお腹が空いているとの事で一緒にレストランにやって来た。
パイ乗せチャウダーも貝柱の串揚げも好評。1番喜んだのは自分でパール貝を選んでのアクセサリー作りだ。
「なんか世界に1個の私だけのアクセサリーって感じで、すごく特別感がある」とミラ姉様は大きなパールが出て来て大興奮。ネックレスにしていた。
エスター姉様のは小さいが発色のいいパールが5個出て来たのでブレスレットにしていた。
職人がその場で作ってくれるので10分もあればできてしまう。
発育の悪いエリアの養殖はやめようかと思ってたけど、これはこれで良いわね。
試食を終えて、私達はカフェにやって来た。
「そういえば、国王陛下の誕生祭。すごかったのよ。公爵令嬢のエリザベス様が」とミラ姉様が面白そうに言う。
「ミラ、エリザベス様は真剣だったんだから、面白おかしく話す事ではないわよ」とエスター姉様が嗜めるが顔は笑っている。
「まあ、パールのいい宣伝にはなったんだけどね」
「え?パールが?エリザベス様がつけてくださったのですか?」
「ええ、ネックレス、イアリング、ブレスレットとすごかったわよ」とその姿を思い返しているのか、まだエスター姉様が笑っている。
「それには理由があったの。王太子殿下かどうやらオズワルド宝石店からパールの指輪を買ったらしいのよ」
私は食べようとしていたケーキを落としてしまった。
「きゃ、レイチェル大丈夫?口が開きっぱなしよ」
エディがパールの指輪を買った?エディは私がパールに関わっている事を知っているの?でもそれなら、きっとお母様に確認しているはずだ。
黙っているとミラ姉様は話を続ける。
「それをエリザベス様が聞いたらしく、自分に買ったと思ったのか、オズワルド宝石店でパールのアクセサリーを全て買ったらしいわ。そしてそれを全部つけて、王太子殿下が誕生祭でプロポーズしてくれるのを待っていたの。そうしたらエドワード殿下もエリザベス様とダンスされてね」
それを聞いて私は胸がチクっと痛くなった。私にプロポーズして、ダメならすぐ違う女性に行くのね。。まあ私は断ったんだけど。
「エリザベス様がもう有頂天で、エドワード殿下にダンスの後に抱きつこうとしたら、エドワード殿下はそれに気が付かずに離れてしまって、エリザベス様が転んでしまったのよ、それをみてエドワード殿下がなんて言ったと思う?」
「そんな貴重なアクセサリーをしているんだから、転んで壊れたら大変だから。もう今夜はダンスはやめた方がいいんじゃないかって言って去っていったの。
あの時のエリザベス様の顔が忘れられないわ」
エディ。。鬼だな。でもちょっとほっとしてしまった自分がいる。
エリザベス様に渡す為じゃないなら、誰の為に指輪を買ったのかしら。




