逃げる令嬢
ニルスは口を開けたまま固まった。
そして動き出したら一気に質問をして来た。
「え?王太子妃?あの孤児院の令嬢ですか?なんでそんなに話が進んでいるんですか?あの方は何処の家の方なんですか?」
「返事と家名を聞こうとしたら、お前が来たんだ。とっとと挨拶をして、レイを迎えに行くからな。あのバルコニーにまた戻って来てくれる事になっている」
「え?結婚したいのに、まだ本名知らないんですか?向こうは殿下の事は知っているんですか?」
「いや。。まだ。。。」
「何やってるんですか?殿下」
俺はすぐに父上が待つ広間の壇上に行った。
「父上、私が間違っていました。この仮面舞踏会を開いてくださりありがとうございます。父上のおかげで私が結婚したいと思う女性に出会えました」と言うと、父上は椅子から飛び上がった。
「そうか、その女性は何処にいる、名前は、何処の家の者だ?」
「落ち着いて下さい、父上。挨拶を終えたら、すぐにこちらに連れて来ますのでお待ちください。彼女を待たせたくないので、早くこの会を終わらせましょう」
俺は父上と共に舞踏会に参加してくれた人達に感謝を述べた。
広間の奥の方でレイが誰かと話しているのが見える。
そしてまた1人で何処かに行ったので、バルコニーに戻ったのだろう。
俺もまた控えの間に戻り、エディになる。今度は仮面の代わりに眼鏡をかけた。
カツラを被ったが、鏡でチェックしなかったので収まりが悪い。しかし早くレイの所に行きたい。
バルコニーに戻るとレイがいる事にホッとした。
「レイ、、ごめん待たせた。ご家族は大丈夫だったかい?」
レイは俺の方を振り向いた。もうマスクはつけていない。レイの綺麗な緑の目がよく見える。
「エディ、大丈夫よ。貴方こそ用事は終わったの?」
「ああ、そうだ、レイ。折角の舞踏会だったのに踊らなかったな。曲はないが少し一緒に踊らないか?」と俺は右手を差し出す。
レイは少し顔を赤くして、小さな手を俺の手に乗せてくれた。
俺はレイの腰にそっと手を置き、ゆっくりと踊り出す。
「レイ。。さっき俺が提案した事だけど、考えてくれた?」
「本気なのエディ?」
「ああ、俺は一目惚れとかは信じていなかったが、結婚するならレイが良い。レイもそう思ってくれると良いんだけど」と顔を覗き込むと。
顔を真っ赤にしたレイが。。小さく頷いた。
今、頷いたよな。本当だな。
「レイ、君の口からちゃんと返事が聞きたい」と耳元で囁く。
するとレイは俺の目を見つめて。
「エディ、私。。。」
その時、突然強い風が吹いた。
「きゃあ!!」とスカートを押さえるレイ。なんか乗馬服のズボンが見えた。だからドレスで馬に乗れたのか。
俺は大笑いして、
「なんだそのズボン。。」と言いかけたが、目の前に見えるのは、顔が真っ青なレイ。
「え。。貴方。。もしかして」
「レイ、気分が悪いのか大丈夫か?」
「エディ。。貴方の髪」とレイは床に落ちたとカツラを指差す。
「レイ、今から言おうと思っていたんだ。俺の名前はエドワード」しかし、レイが俺の言葉に被せるように言う。
「エディはエドワード王太子殿下。。。?」と言った瞬間、レイはいきなり靴を脱ぎ出した。
え?
そしてすごい勢いで俺の横を走り抜けた。
「え?レイ。待って!!!」
しかし俺の声は真夜中を告げる鐘の音でかき消される。
なんだレイ、馬でも速かったが、走るのも早すぎるだろう。
俺が階段を降り終わった時には、レイは馬に跨って走り去って行った。
残されたのは、レイのポケットから落ちた布巾とその周りに落ちるキラキラした小石のようなもの。
「レイ。。本当に王太子妃になりたくなかったんだな」
俺は布巾で小石のようなものを包んだ。
「面白い。レイ。。俺から逃げ切れると思うなよ」
…………………………………………………………
やばいやばい。
私は行きと同じように全速力で馬を走らせる。
なんでエディが王子なのよ!
なんで王子が街で肉を目当てにレースしてるの?もっと良いお肉食べてるでしょ!
あぶなかった。行きにイメージトレーニングしておいてよかった。
このヒールの靴であの階段は降りれなかった。
シンデレラはあそこで靴を落としたから、見つかっちゃったわけで、私はしっかり靴を持って帰って来た。
だから大丈夫。
何が私のやりたい事をして良いよって、王太子妃になったらそんな暇ないわよ。
まあ。。お金はあるから、家族の支援とかできるんだろうけど。
私は自分でお金を稼いで、自分でそのお金を勘定したいの!
一瞬、時代劇に出てくる悪徳商人の姿が頭に浮かんだがそうじゃない。
とにかく、エディはカッコよくて、話も合うけど。私に王太子妃は無理無理。
森を抜けて、家が見えて来た。
家族の乗った馬車もちょうどついた所みたいだ。
家につき馬から降りると、お母様がギョッとした顔で私を見る。
「レイチェル。。どうしたの、裸足に頭が乱れて。貴方。。まさか、誰かに襲われたの?私達にレイチェルにこんな事をしたのは誰よ!!」
こんなに怒っているお母様を見たのは初めてだ。
「ち。。違うんです。お母様。慌てて馬で帰って来ただけで、髪がボサボサになって。この靴だと馬に乗れなかったので裸足にしただけで。ほら、スボンも履いてますし」とスカートの中を見せると、お母様の顔が今度は泣き顔になった。
「良かった。。。だから1人で帰させるのは嫌だったのよ、貴方は女性なんだから、襲われたらお終いよ」と私を抱きしめながら言う。
「レイチェル、とりあえず着替えて足を洗いましょう」とエスターお姉様が私の手をとる。
「私はお茶を淹れてくるわね」とミラお姉様がキッチンへ行く。
この3人に王太子殿下に求婚されたから逃げ出したなんて言ったら、どんな顔をするかしら。
まあうちの家名は言わなかったし、靴も落として来てない。
まあ念の為、パールの加工品の話と収穫祭の準備もあるし、明日から領地に向けて出発しよう。
私は手ににぎりしめていた靴を見る。
靴の上についていた、装飾のパールが取れてしまっている。
アクセサリーにできないパールを使ったので、そこまでの価値はないが。落ちてしまうのは困るし勿体ない。。ビーズのようにして縫い付けた方が良さそうね。
私はお風呂の後、家族とお茶を飲みながら、明日、領地に行くことを伝えた。
「随分急ね。。本当に今日は何もなかったのよね」とお母様が疑わしそうに私を見ている。
「元々、舞踏会には出ないでパールの工場に行くつもりだったでしょ。試作品に不備が見つかったのでそれについても話したいし、収穫祭の事も進めないと間に合わないから」となるべく平静を努めて言う。
「明日は朝早くから出るので、もう寝ますね。収穫祭には来てくださいね」とわざとあくびをして、部屋に戻る。
しかし、今日の出来事のせいで目は冴えている。
「ああ、エディ。なんで貴方は王太子殿下なのよ。貴族じゃなくて、一般市民の方がよかったわ」
私が走り出した時のあのショックを受けた顔が忘れられない。
海に行って、美味しいシーフードを食べたら気分が晴れるかしら?
そんな事を考えていたらいつのまにか眠ってしまったようだ。
ついにバレちゃいました。原作の強制力には抗えないものなのか?




