結婚式前夜
マールの町から帰ってきて半年が過ぎた。
私は帰ってきてからすぐに国王陛下にエディと共に謁見をし、婚約の承諾を得た。
妃教育の為に王宮に通う事になったが、伯爵令嬢としての知識に上乗せするだけなので、週に2回で十分と言われて、領地の仕事をする時間も十分もあったので安心した。
パールのアクセサリーについてはオズワルド宝石店に顧客の販路拡大など全てお任せする事になり、私の仕事も減った。
その代わりに前世であったサービスをビジネスのアイデアとしてアレクさんに提供してとても喜ばれている。中でも記念日に合わせて自分でカスタマイズできるチャームブレスレットは貴族だけでなく、庶民にも人気で売り上げがかなり伸びているそうだ。
そして明日は私とエディの結婚式がとり行われる。
王族の結婚式を半年で準備すると言うのは前代未聞らしいが。エディがごり押ししたので半年になった。
準備に追われている方々に本当に申し訳ない。
そして先月お母様とニルスさんは結婚した。
エディの言う通りに外堀をガンガン埋めて行ったニルスさんは、やっと取り付けた初デートで一緒に住む屋敷を買うという暴挙に出て、なし崩しで同棲生活をスタートしてそこから3ヶ月のスピード婚だった。
理由は。。。なんと。。お母様が妊娠したからだ。
まあギリギリ30代だから可能性はあったけど、お姉様達がこの歳で弟か妹ができるなんてって遠い目をしている。
お姉様達は私の従兄弟が成人して、いよいよ伯爵家を継ぐ事になったので、私が王宮に引っ越すタイミング、つまり明日ニルスさんの家に引っ越すそうだ。
私も婚約中に王宮に引っ越してもよかったんだけど、エディがそろそろ我慢の限界らしく。
「夜にここで見かけたら襲う自信がある」と恐ろしい事を言っているので、ギリギリまでアシュトン家にいる事にした。
マールでプロポーズされた日の夜はかなり危なかった。。まあ色々されたけど、最後まではしていない。
まあなんと言っても生まれた時から住んでいる屋敷だし、名残惜しいのもあった。
なので私達にとってはアシュトン伯爵家での最後の日ということで、家族みんなで晩餐会をした。エディは王宮で国王陛下夫妻と過ごしている。
食事会の後はお母様はつわりであまり体調が良くないとの事でニルスさんと家に帰り、私とお姉様達は王宮にある私の部屋にやってきた。
結婚式のドレスやアクセサリーなどはもう私の部屋に用意されているがとにかく準備に時間がかかるらしいので、早起きしてアシュトン家の屋敷からここにくるより、ここにみんなで泊まれば時間を気にしないで済む。
この人数でいればエディが襲ってくる事もないだろう。
なので今日は寝不足にならない程度に姉妹で恋バナだ。
「で。エスターお姉様は最近、宝石店主のアレクさんと出かけているらしいですね」
「え?どこからその情報を」
「マシューさんです。あの人は秘密を守るとか相手の気持ちを考えるとかそんな機能はついてません」
「アレクさんはちょっと歳上なんだけど、独身だし。エスコートも上手なの」とエスターお姉様の顔が赤い。
「いいじゃないですか。エスターお姉様は人の扱いが上手いので、商人のお家とかが向いてると思っていたんです」
「そう言う、ミラは。。あの人よね」
「え?ミラお姉様も誰かいるんですか?」
「そんな、まだ私達はデートもした事ないし。今は友達だから」
「えーー誰ですか聞かせてほしい」と3人で大騒ぎしていた時。
突然、部屋の中に屈強な男達が入ってきた。しかもドアからではなく、壁から。
「え?なんで?幽霊」
その男達の後ろから甲高い声がした。
「幽霊とは失礼な!」
派手なドレスの金髪の女性。えっと。。あ、公爵家のエリザベス様だ。
「えっとなぜエリザベス様が壁から出てこられたのですか?」
「私は王太子妃になる為に小さい時から王宮に出入りして、この部屋の隠し通路の事も知っているのよ。全くこんな小娘に王太子妃の座を奪われるとは。エドワード様はあなたに呪いをかけられているに違いないわ。だから私が可哀想なエドワード様の呪いを解いて結婚する為にやってきたの」
「ちょっと待ってください、意味が。。呪いなんてかけていないですし」
「まあこの際なんでもいいわ。この女を連れて行きなさい」とエリザベス様が言うと男は私を掴んだ。
「え、やめて!!」叫ぼうとしても口が塞がれる。
お姉様達は部屋の外にいる護衛を呼ぼうとしたが、他の男達に捕まった。
「貴方達が騒いだら、この女はすぐ殺すわ。私は慈悲深いから、魔女は塔に幽閉するぐらいで済ませるけど。貴方達も塔に連れて行こうかと思ったけど、貴方達には私とエドワードの結婚式に参列してもらうわ。今からブライドメイドを探すのも大変だしね」
エリザベス様はニヤリと笑った。
私は口を布で塞がれ、そのまま秘密通路から外に連れて行かれた。
これは大変まずい状態なのでは。
シンデレラの話では。。。王子様がガラスの靴を履ける女性を探して、家にまでくるけど。どこかに閉じ込められるんだっけ。
私はそのまま馬車に詰め込まれ、王都の外れにある古びた教会の塔に連れてこられた。
「命があるだけでも運がいいと思うんだな。エリザベス様は王太子妃になる為に妨げになるものは全て排除してきた方だから、お嬢ちゃんには恨みはないが、家族が人質に取られてるんだ悪いな」と言って男は出て行った。
悪い人達ではなさそうな。
さて。。どうしようとキョロキョロ周りを見てみる。
塔の部屋は窓とドアしかない。
窓から下を覗いたが、暗くてよく見えない。
ドアは鍵が閉められている。
「うーーん、明るくなるまでどうしようもないわね」
ちょっと埃っぽいがベットもあるので、寝ることにした。
朝日が顔に当たり、眩しくて目を覚ました。
「アン。。カーテンが開きっぱなしよ、もう少し寝させてよ」
でも誰も返事はしない。
ガバッと起きたら、見慣れない部屋だった。
あ、そうだ。誘拐されたんだ。
しかも余裕で寝てしまった。自分でも思うけど結構図太い性格みたいだ。
さて。。。どうやって逃げ出しますかね。
窓から外を覗くと、まあまあな高さの塔だ。塔といえば。。あの髪の毛の長い姫の話だと髪の毛を使って塔を登るんだっけ?
。。。足りないな。ベットのシーツも1枚しかないし。
じゃあドアね。
確か鍵がかかっていても蝶番を押し上げればドアって外れるはず。
テコの原理で。。あの椅子をまず壊してとか考えていたら。
ドアが開いた。
昨日の男がご飯を持ってきてくれたようだ。
「飯だ。お姫様の口に合うかわからんが」
「あらありがとう、お腹が空いていたの」
質素なご飯はきっとこの人の善意で持ってきてくれたんんだろう。
「貴方はなんでエリザベス様に従っているの?家族が人質に取られたって」
「ああ、1年前に起こった水害で家を無くして、家族を養うために王都に出てきて、仕事を探していたんだ。怪しい仲介役に紹介された仕事はエリザベス様が王太子妃になるために、他の令嬢を脅して王太子殿下の前から排除する事だった。何度も逃げ出そうと思ったが、俺は知りすぎていてエリザベス様には都合が悪いんだろうな。家族を公爵家に誘拐されて、良いように使われているんだ」
「何それ。貴方は何も悪くないわ。貴方の家族は海とか好きかしら?マールという町で漁師とかどう?仕事と住むところぐらい紹介できるわよ」
「お嬢ちゃんは誘拐されているんだが。。」
「それもそうね。貴方の家族に危害が加えられないように考えないとね」
「。。。。お嬢ちゃんはきっといい王太子妃になってたんだろうな。あの女が将来の王妃じゃこの国は潰れる」
「過去形じゃないわよ。王太子妃になるのよ!」と私が笑うと、彼もつられて笑った。
「さて、貴方の名前は?一つお願いがあるんだけど」
「アダムだ。残念だが、お嬢ちゃんを逃すことはできない。俺にも監視がついているからな」
「大丈夫。ちょっとお使いに行って貰うだけだから」と私はアダムににっこり笑った。




