パエリアと捕獲成功
また少し時間が戻ります。
いよいよ収穫祭の朝が来た。
今日も色々忙しい。特注で作らせていた鍋がやっと昨日届いて、一安心したがこれからレストランに行って食事の用意をしなくてはいけない。
「ではお母様、エスターお姉様、式典の方はよろしくお願いしますね。ミラお姉様と私はレストランの方で準備しますから」と私がいうと。
「式典では挨拶するだけよね。何か聞かれても、スピーチ以外のことは私は答えられないわよ」とお母様が焦っている。
「大丈夫ですよ。わからない事は秘密の製法なんですって言っておけばいいんですから」
「まあ質問が来るとすれば食事会でしょうから。そうそう、昨日町長のロブから聞いたんだけど、王宮から装飾品の担当職員がオズワルド宝石店の店主と一緒に来ているらしいわよ。舞踏会や誕生祭でアピールしたから、王妃様の耳に入ったのかもねえ」
王宮と聞いて、またエディの顔が一瞬浮かんだが。
まさかね。
でもこれはパールの事を王都で広めるチャンスだ。高位貴族や王族がパールをつければ、宣伝効果は抜群だ。
「ロブには、その方々達を私達の席の近くに案内するように頼んでおいたわ」
流石だわ、お母様。よくわかってらっしゃる。
私とミラお姉様は別邸からレストランへ向かった。この為に作らせた平たい大きな鍋はすでに運んである。前から頼んでいた食材も全て揃っていた。
「さあ、シーフードパエリアを作りますか!」
前世の記憶を思い出してから、お米がどうしても食べたくって。
市場で米を見つけた時は歓喜したわ。
今日は特別に作ってもらったパエリア鍋でシーフードパエリアを作る。そしてパエリアといえばサングリアよね。この辺りは気候も温厚でオレンジの木がたくさん生えている。
私はここでは一応成人だけど一応お酒は控える事にして、ワインのサングリアとブドウジュースのノンアルサングリアも作ろう。
パエリア鍋からいい匂いがして来た。
もうそろそろ式典が終わる頃かなと思っていたら、ロブさんがキッチンに帰って来た。
「レイチェル様、ミラ様、素晴らしい香りですね。食事会が楽しみです。このフルーツが入ったピッチャーは?」
「これはサングリアという飲み物です。フルーツの入ったワインですね。この色が薄い方はワインではなくジュースを使ってます。私はお酒が飲めないので」
「私も今日は接待という重要な仕事があるので、ジュースの方にしたいと思います。そろそろ皆様がいらっしゃいます」
「パエリアの仕上げをしてから、持っていきますので。蓋を開ける瞬間も楽しいので余興にしましょう。私とミラお姉様で持っていきますね」
「そうですか、お席はミレーネ様とエスター様の隣ですので」
「ありがとう、ロブさん」
私とミラはレモンやハーブをパエリアの上に乗せていく。見た目も可愛くなった。
「ミラお姉様、行きましょうか」
シャフに鍋をカートに乗せてもらって、ゆっくりと進んでいく。
鍋が思ったより大きく、慎重に進んでいったので、カートを凝視していた。
椅子がガタッという音が聞こえた様な気がした。
「お待たせしました。本日のメニューはシーフードパエリアです」と言ってシェフに鍋の蓋を開けてもらうと、蒸気と一緒に美味しそうな匂いが広がった。
私とミラお姉様はお母様とエスターお姉様の隣に座ろうとしたが、急に腕を掴まれた。
え?
振り向くと。美しい金髪と青い目が見えた。
「え。。。王。。」
「王宮の宝飾管理をしているエリックだ。宜しくな、アシュトン伯爵令嬢」
あーーーばれた。
「初めまして、レイチェル・アシュトンと申します。食事会へ参加していただきありがとうございます」
料理やアクセサリーの話が聞きたいと、私はエディの隣に座らされて、エディの側近らしい人は何故かお母様の隣に座っている。
3人の顔色が悪いのはエディが王太子殿下なのがわかっているからか。
「レイチェル様、パエリアも素晴らしいですが、このドリンクもとても美味しいです」
この人はオズワルド宝石店の店主アレクさんだ。隣でガツガツとパエリアを食べている人は前にもこの町で見た事がある、確かマシューさんだ。買い付けの仕事をしている。オズワルド宝石店との契約の時にロブさんに書類を持って来てくれた。
「ありがとうございます。お口にあってとても嬉しいです」
私の隣にいるエディは、優雅にパエリアを食べているが。テーブルの下でしっかり私の手を握っている。絶対に逃がさないという意思がみえる。
手を離して貰えないと食べられない。
「エリック様、後でゆっくりパールのアクセサリーについての話をしたいと思いますので、今はお食事を楽しみませんか?」というと、渋々という感じだが手が離された。
パエリアは美味しかった。
個人用に小さなパエリア鍋を作って貰おうかしら。
サングリアもなくなり、皆さんはワインを飲み始め、音楽が流れるとダンスを始める人達も出て来た。勿論、舞踏会の様な格式ばったものではなく、庶民が楽しむものだが。
ニルスさんと踊るお母様やお姉様達を見ていたら、エディが耳元に顔を寄せて。
「2人で話がしたいんだが」と言ってきた。
そうね、時間稼ぎはもうこれ以上無理ね。
私はレストランの2階にある個室にエディを連れていった。
そして部屋に入った瞬間、エディは私の事を抱きしめた。
「やっと捕まえた。レイは馬だけでなく、逃げ足も早いんだな」
「エディ、、ちょっと苦しいわ」と私がいうと少し力が緩まったが、抱きしめたままだ。
「もう今更逃げませんよ。本名もバレたことでですし」
「嫌だ、君は魔法の様に消えてしまいそうな気がするから、抱きしめてないと安心できない。座りたいならこうすればいい」
そういうとエディは私をお姫様抱っこしたままソファに座り、私を膝の上に座らせた。
「ちょっと!状況が悪化してます」
「悪化って。。。。レイは俺の事が好きじゃないのか?」と悲しそうにいう。
「嫌いなわけじゃないです。色々な事情がありまして、王太子妃になるわけにはいかなくて」
「じゃあ俺が王太子じゃなければいいのか?王位なんか継がなくてもいいんだ。ニルスは従兄弟だし、王位を押し付けるのもありだな」
「ぎゃーーやめてください。私の為に王位を捨てないで」
「じゃあ、どうすればレイは俺と結婚してくれるんだ」
うーーん、ここでこの世界は物語の世界で、家族が断罪されるのは嫌だからって言ったら、頭がおかしいわよね。
「私は自分の仕事をして、家族に幸せな生活をさせてあげたいだけなんです。将来王妃になるとか想像もつかないです」
「俺はお飾りではなく一緒にこの国を盛り立ててくれる人と結婚したいんだ。レイの考えたものはどれも斬新で素晴らしいものばかりだ、それを国の事業としても行って欲しい。勿論、レイの家族は俺が支援するし、不自由ない生活をさせてあげれる。それに俺の側近のニルスは君の母上に一目惚れしたみたいだ。だから何があっても守ってくれる」
あーーだからあんなにくっついていたんだ。
「少しはそれで安心できたかな。それともまだ俺じゃダメなのか」
なんだかエディがしょぼんとしている子犬の様に見えてきた。なんか可愛い。
やっぱり私は王子様と結婚する運命は変えられないのかな。
私はエディの頭を撫でながら。
「もう降参です。あなたの粘り勝ち」と言ってエディにキスをした。
やっと2人が会えました。ここまで長かった。




