先生との再会
「何か…サーセッシタァー!」
テメェ舐めてんのか…
と言う言葉をグッと飲み込んで俺は無言で…
もう無の境地でその様子を傍観していた
今日は照陽の毎度のお願い事を聞いて仕事でも無いのにわざわざウィッグまでつけて麻由と伴って事務所に赴いて居た
俺の所属している事務所の人と俺にサラがあの事件の謝罪をすると言う事でその場に立ち会っていた訳だが…
アレは謝罪なのか?
どうやらサラも照陽に促され嫌々というのがあからさまに態度に出ている様に見えるのだが
「まあ…大体経緯は麻由さんから聞いてるから…気持ちも分からなくも無いけどね…」
事務所の人も苦笑いをしていた
結果的に大した騒ぎにもならず未遂に終わり尚且つサラが撮影した捏造淫行動画は削除し、もし密かに保存してあり後日流出などさせた場合は多額の違約金を払うという誓約書にサインさせられていた
多分クビになった事務所ともその手の誓約はさせられてるだろうから違反した場合は二重に請求されるのだろうか?
そうなれば恐らく一家離散、孫の代まで借金を背負う事になりそうだ
嗅ぎつけた週刊誌等から話を持ちかけられたとしても微々たる謝礼金では全く割に合わないだろう
一応謝罪の場だった筈だが、なんだか別の案件になっている様だった
まああの空っぽの頭ではあの動画を別媒体に隠して保存などと小賢しいことはまず無理ではと思っているが
撮影したスマホは事務所を解雇された際に取り上げてクラウド等に保存してないか調べて中身を初期化させた上で廃棄させた様だ
容赦ないな…
その後解約させて番号なども変えたらしい
なので今はアドレスには親と照陽位しか入って無い様だ
まあこれで綺麗さっぱり過去とも芸能界とも縁を切ったのだろう
「もう十分制裁は受けたと思うから…ちゃんと反省してこの先同じ過ちを繰り返さない様に…」
「ハイ…」
「まだ10代だしこの先の人生は長いから…自分が伸び伸びと生きていける世界を見つけて頑張って欲しい」
「ハイ…」
「今まで経験した辛い事やこの世界で頑張ってた事は決して無駄じゃないから。同じ年頃の子が経験しない様な事を…何倍も大変な思いをした分、その子達よりも何倍も経験値があるんだからね。それを強みにして新たな世界で活躍して欲しいな」
「ハイ…有難うございます…」
「そして幸せになって…僕達を見返してね?手放さなければ良かったって後悔させる位にね」
「ハイ…この度は本当にご迷惑をおかけして大変申し訳有りませんでした…」
そう言ってサラは深々とお辞儀をした
やはりこの業界でタレントの手綱を握って叱咤激励をし、やる気を出させ掌で転がしてるだけはあるな…
恨まれず立つ鳥跡を濁させず揉める事も無く上手く纏めて謝罪を引き出させた
やはりこの世界のゲームマスターは人の掌握術に長けているな…と感心していた
「緊張して疲れたでしょ?ちょっと休んで行こっか」
事務所を後にする前に麻由がサラにそう言った
「ハイ…有難うございます」
サラもすっかり大人しくなっていた
あの薬もやめて抜けてきたのだろうか?
まだ相変わらずガリガリでは有ったが…
「ここの食堂ね、カフェみたいでオシャレだから」
「へえ…やっぱり大手は違うなあ…」
そう言って以前エルと入った食堂の様なカフェの様な所に入った
「サラは何にする?」
「あっ…じゃあ私は炭酸水で…」
「まだダイエットしてるの?もう十分ってか痩せすぎなんだから!何か甘いのとか飲みなさい!」
麻由が母親モードを炸裂させていた
「じゃあ…コーラで」
「よしよし!若者らしくて結構!」
「いや、コーラなんて爺さん婆さんでも飲むだろ…いつの時代の話してんだよ」
「うっさい!私はカフェオレにしよっと」
「俺にも聞けよ…」
「アンタはどうせコーヒーでしょうが。聞くまでも無いわ」
「違うかもしれんだろ?このカフェモカとか選ぶかもしれんぞ?」
「じゃあカフェモカで良いのね?」
「いや、コーヒーで」
「マジこのガキムカつくんだけど…」
「ただのコーヒーじゃねえぞ?キリマンジャロな」
「何気取ってんだよ」
サラまで参戦してきやがった
「気取ってねえし。サッパリ酸味が強めなのが飲みたい気分なんだよ。胃もたれ気味だからな、誰かさんのせいで」
「はあ?お願いされて来てやった人間に対して言う事か?」
「俺がお願いされて来てんだよ」
「アンタ酸味がとか言ってるけどどうせミルク入れるんでしょ?」
「酸味のあるコーヒーとミルクは相性良いんだよ。無知が」
「結局ガキ舌じゃん、アホくさ」
「うっせえ。コーラ飲んでる様なやつに言われたくねえな」
「おい、お前達注文するのか?しないのか?しないならさっさと譲ってくれ」
そう後ろから声をかけられて振り返ると…
「何だ?このオッサン…やんのか?」
サラが何故か威嚇していた
多分オッサンに良い思い出がないのだろうが…
その人はヤバい…
「君は元気が有り余ってるようだね。無駄に声が通るし耳障りだな」
「アン?」
「あっ…すみません…」
麻由が慌てて謝罪していた
もはやサラの保護者となりつつあるな
「あれ?君は…」
「お久しぶりです…ユヅキです…」
相手の名前を出して良いのか迷って挨拶だけしたその相手は
変装している八性だった
「アンタこの方と知り合い?」
Aラッシュの追っかけをしてる麻由ですら気づいていない様だった
「あー…まあ…以前ここで…」
俺は八性に目配せして自分から名乗らせる様に仕向けた
「僕は…まあ、Aラッシュのマネージャーみたいな事をしてます、井上といいます」
「そうなんですか!私Aラッシュの大ファンで!」
まあ麻由の場合は腐った目で愛でてるんだがな…
しかし八性の本名は井上と言うのか…
いや、それも偽名の可能性もあるな
「そうですか、有難うございます」
「騒がしくしてすみません…私はユヅキの母で麻由と言います…」
一応周りの目もあってか苗字は伏せた様だ
「ふむ…て事は…大地の親とも知り合いかな?」
「まあ…そうですね…」
「ふむ…」
俺がエルの息子の大地と友人なのは知ってるので、その母親がAラッシュのファンって変だなと言う様な顔をしていた
うん、確かにその通りだ
俺は無言でその疑問に相槌を打っていた
「ねえ!コーラ!」
蚊帳の外のサラが痺れを切らして声をかけて来た
「あっ!ハイハイ…」
麻由はレジに注文しに行った
「君は…タレントか何かか?」
「そうだったけど!クビになったよ!コイツのせいで!」
そう言って俺を指差していた
「いや、お前が自滅しただけだろうが…」
「何か分からんが…複雑な事情と因縁がありそうだな。まあ詳しく聞く気もないし興味も無いが」
「あー、そうですか!」
サラは吠えていた
「でもその細さでその声量は何だか奇跡だな」
確かに。コイツ無駄に声が通るんだよな…
「よく聞いてみたら声質も悪くない…いや、特徴あるな」
「声質?」
「上手く鍛えれば化けるかもしれんな…お前…」
「私の名前はサラ!」
「サラ、お前は歌のレッスンとかはしてないのか?」
「昔研究生の時に少しやったけど、モデルになりたかったから殆どしなかった」
「じゃあどうせクビになったんなら試しにちゃんと習ってみろ」
そう言ってアドレス帳を出してその中から連絡先をメモをして渡した
「ここはちゃんとした所だから試しに行ってみろ」
「ここは?」
「歌手なんかが発声や歌唱の基礎のレッスン受ける教室だ」
「へえ…うん…どうせ私失業中で暇だし…試しに行ってみる」
そう言ってサラは渡されたメモをじっと見つめていた
「今日はここは騒がしそうだから場所変えるかな…」
そう言って八性はテイクアウトにして立ち去った
「ありがとう…」
サラは大人しくお礼を言っていた
八性はただ片手を上げて立ち去った
「何か…先生みたいな人だった…」
「俺もその意見には同意だな」
やはり誰が見ても先生に見えるらしい
流石自分を教授と名乗るだけはあるな…
その後暫く話をして解散となった
八性については本人も名乗らなかったのと、麻由がAラッシュの腐ったファンで変な夢を見てる事も有ってとりあえず麻由にも伏せておく事にした
「何だか…やっぱりちゃんと反省した子には新たな出会いが…やり直す機会が訪れるんだね」
麻由がしみじみそう言っていた
「まあ…そうかもな」
この先サラはどうするのか、どうなるのか分からない
また挫折や酷い目に遭うのかもしれないし今度は成功して有名人になって椎那達を見返すのかもしれない
それは分からないが、きちんと過去を清算して新たに前に進み出した様だ
これも照陽が言い出さなければ恐らく部屋に引きこもったままだったのかも知れない
照陽は強引で我儘で周りの人間…俺も含めて振り回しているが同時に太陽の様に強い引力…光で人を惹きつけて導く様な力もある様に思える
正に名前の通り陽の光…道を照らす陽の様に
まさかのお久しぶりの八性との再会でサラに新たな道が開かれそうです
サラの周りから迷惑がられていた特徴が武器になるのか…
やはり井上は元高校教師なのでこの年頃の子の面倒見が良いのかも知れませんね
サラはやり直せるのかな?




