仰せのままに
「だが断る」
「うーん、こう言うのって普通何に書くんだろう?色紙?持ってる?」
「持ってる訳無いだろ。よく見ろ、俺は手ぶらだ」
「手ブラ?」
「なんで俺が手で乳を隠す必要が有る。全く会話が噛み合わねえな」
「あっ!そうだ、セイヤ習字が上手かったよね!」
「習字もな!」
そう言って照陽はクローゼットから書道セットを出してきた
今日は練習に付き合わされている恒例のお宅訪問日だった
部屋に入って早々にサインを書けとふざけたお願いをされていた
「シズカが欲しいって…お願いされて…」
「確か断ったよな?ハッキリと」
「ただ名前書くだけじゃん、勿体ぶらないでさっさと書いてよ」
「それお願いする態度とは思えないんだが…」
「お願いしてるのはシズカだよ?私はシズカのお願いを聞いてるだけだから」
「やっぱり会話が噛み合わねえな」
「ほら、準備出来たから」
そう言って俺の前に黒いフェルト素材の下敷きの上に文鎮を置かれた半紙と傍に墨汁を入れた硯と筆が置かれた
もう断るのも面倒になって来たのでさっさと書いて終わらせよう
八神
星夜
「はい、書いたぞ」
「やっぱ字上手いね…でも達筆過ぎて可愛くないなあ…シズカ可愛いのが好きだからなあ…」
「知らん!書道に可愛さは必要無いだろ」
「じゃあさ!名前の間に星入れて!」
八神
☆
星夜
「ほれ、これで良いか?」
「うん!多少マシになった!」
こんなもの貰って嬉しいか?
よく分からなかったが、結局また言われるまま照陽のお願いを聞かされていた
やはり俺は押しに弱い人間だ…
「奥…」
「んっ…はあ…はあ…」
こちらもまた言われるままお願いを聞かされていた
「ポルチオ…何で知った?」
前回に湧いた疑問を聞いてみた
杏や櫂からならいきなり前回からでなく最初から要求してた筈だ
しかも前回は櫂が不在の後だった
「雑誌…セイヤが出てた…次のやつ…シズカの家でみせてくれて…」
「ふうん…」
あの次回予告にあった奴か
照陽はまだしも静風に悪い影響がありそうだ
まだ童貞だろう大地に無駄に高度な要求しそうだな
もう有害指定図書だなありゃ…
そして今回もまだ照陽は奥ではイけなかった
○○○○○○○○○○
「セイヤ、歩く練習するよ!」
「何言ってんだ?俺はもう歩けるぞ?」
秋から冬へ変わる頃、また麻由がおかしな事を言って来た
「姿勢が悪い!姿勢の乱れは心の乱れ!」
何だかよく分からない理由を述べて連れ出された
「ホラ、これ被って」
タクシーに乗せられてウィッグを渡された
嫌な予感しかしないんだが…
「はい!じゃあ本番まで1か月切ってるから!詰め込みでやるよ!」
どこかのレッスン場の様なスタジオで先生らしき人がパンパン手を鳴らして強制的に歩かされ補正されていた
「顔上げて!目線は真っ直ぐ!軸がブレてる!」
これは何かの健康法なのか?
本番?1か月切ってる?
とりあえず言われた通りやっていた
「どう言う事?」
帰りのタクシーでウィッグを外して麻由に尋問していた
「来月のTGSの練習よ」
「TGSて何…」
「確か…トウキョーガールズセレクション…だったかしら?」
麻由もイマイチ良く分かって無いらしい
「俺ガールズじゃねえし…そもそも何それ」
「何かウォーキングの練習させといてって言われたから」
麻由だとイマイチ詳細が分からなかったのでスマホで検索した
「これか…」
動画に有ったものは所謂ファッションショーだった
たまに男が隣で添え物の様にメインのモデルに付き添って歩いていた
「いつの間に決まったの…初めて知ったんだけど…」
「そりゃ今日初めて言ったんだもの」
開き直りやがった…
「まだ俺やるとは言って無いけど…」
「今日歩く練習したんだからオッケーしたって事でしょ。やる気漲る素晴らしい練習だったわ!」
「ウォーキングな!てか詳細聞かされずに勝手にやらされてたんだが…」
確かに言われるままやらされキャンキャン注意されるのが面倒だったのと早く終わらせたかったので頑張っていたのかも知れない
「まあこの様子だとさしずめ幕内弁当の桜漬け大根って所だから下手でも気にしなくて良いわね。やる気を出してる所申し訳ないけど」
「いや、やる気を出してる訳じゃなく…また勝手に決めて来て…」
「今回も喋らなくて良い仕事なんだから。他に何が不満だってのよ。アンタの為に大人が色々画策してくれてるんだから」
「いや画策してくれなんて頼んで無いし…」
確かに喋らない仕事ならやるとは言ったが…
意外に有るんだなと自分の迂闊さに後悔していた
「アンタは医者とピアニスト以外なら良いんでしょ?ちゃんと条件満たしてるじゃ無い」
「…」
麻由はまだあの言葉を根に持ってるらしい…
そしてまた流されるまま当日を迎えランウェイを歩かされていた
やはり俺は押しに弱い人間だ…
今回は南野の時の様なイカれた格好ではなく比較的実用性が有りそうな格好だった
なんでも観客は気に入った服が有るとその場で注文出来るらしい
とは言え俺のこの頭のせいか普段着…と言うより上から下まで黒のレザーで何やら銀色のスタッズというのがギラギラ付いた…
普段の俺は絶対着ない様な所謂パンクな格好をさせられていた
「ユヅキくんだね!一緒に歩けて嬉しい!宜しくね!」
「ども…」
そしてリハーサルの時に無駄にハイテンションに挨拶して来た俺の隣を歩くこの女はガリガリだった
この女も俺に似た様な格好をしていた
この骨川筋右衛門は川辺沙羅と名乗った
「サラって呼んでね!」
「はあ…」
「ユヅキくん中学生なんだよね!?」
「そうですね…まだ中1ですね…」
「そっかあ!私今16だからさあ!お姉さんだねっ!」
「そうですか…」
高校生か…
痩せ過ぎているせいか身体つきは歳より老けて見えたが顔だけ身体に対してアンバランスな…異様にふっくら張りが有った
何か美容系の注射か施術でもしているんだろう
「ユヅキくんの隣歩けて超ラッキーだなあ!今注目株だもんね!あやからなきゃ!」
注目するな。俺にあやかるな。自力で頑張れ
「これを機会に私も注目されてドンドン売り出して貰わなきゃ!頑張るぞー!次は単独で歩ける様にっ!」
「そうですか…頑張って下さい…」
まあ俺を踏み台にしてのし上がってやると言う決意表明と言うか宣戦布告なんだろう
これ位の気概が無いとこの世界ではやっていけないんだろう
やる気の無い俺よりよっぽど向いてるな
「なんかテンション低いー!あはは!まあ思春期少年だもんねっ!お姉さん相手に緊張しちゃうよね!あはは!」
「すみません…」
貴様のテンションが異常だ
長期に渡って空腹を耐えてる飢餓状態でランナーズハイに近いのかはたまた何かヤバい薬でもやってるのだろうか?
なんでこの女が…とも思ったが、体型だろうか?
他のモデルが着てる様なフワッとした可愛らしい服は似合わなそうだ
顔もメイクのせいかもだが可愛いと言うより尖った感じだった
よく分からないまま連れ立って歩いていると途中サラが手を繋いで来て繋いで無い方の手を振っていた
腕や掴まれた手の甲を見てまるで老婆の様な…本当にガリガリだなと思った
そして後日このショーの様子の動画を見ると…
見事にカメラは俺に焦点が合わせてあってサラは見切れていて桜漬け大根となっていた
これでサラは俺を踏み台にして注目される事が出来たのだろうか?
次から次へと星夜の元へお願い事が舞い込んでますね
そしてまたクセ強な新たな人物と出会いますが…
星夜はこのまま芸能人にでもなってしまうのでしょうか?




