時よ戻れ
「ゴメンゴメン、お待たせ!」
「全くだ。家にはグズリの殿様が居るんだから勘弁して欲しいよ」
撮影が終わってエルに付き添って待ち合わせの場所に着いた
待ち合わせ場所はカフェと言われたがそこは何処かの会社のビルの中で食堂…と言うよりカフェの様なちょっとオシャレな感じだった
「まあカフェだろ?」
とドヤ顔でエルにそう言われた
そこで待ち合わせていた男はメガネにスーツで地味なサラリーマンみたいなおじさんだった
仕事関係の人だろうか?
北野みたいなプロデューサーとか、はたまたマネージャーか…
エルに対して対等な感じなのでその辺りかなと思った
しかしカメラマンがノリノリだったので撮影が長引いて予定より遅くなってしまった様で待ち合わせの男はどこか不機嫌だった
家にまだ小さい子供でもいるのだろうか?
何だか申し訳ない気持ちになりかけたが、俺のせいでは無い
悪いのはあのカメラマンだ
「じゃあサクッと終わらせようか」
「そちらは?大地…じゃないな?」
男が後ろにいた俺に気づいてエルに尋ねていた
大地とも知り合いなんだろうか?
俺はタクシーの中でウィッグを外してメガネをかけていつものスタイルに戻っていた
勿論大地とは似ても似つかない姿だった
「ああ、この子はダイチと小学校の時からの同級生の友達で…」
「八神星夜と申します。○○学園中等部1年生です」
そう言ってお辞儀をして自己紹介した
「○○学園…そうだったな、大地も通ってたな…」
「まあ、まだ先だろうけど…いずれ…ねえ。ははは」
何だろう?エルも苦笑いをしている
この学校に何か因縁でも有るのだろうか?
「今日は君は職業見学か何かでここに来ているのかな?」
何だか先生みたいな口調で尋ねられた
「いえ、先程までお仕事を一緒にしていて、この後ダイチの家にお呼ばれしたので同行しているだけです」
「お仕事…て事は雑誌の撮影の?」
「はい…そうです」
あ…学校の先生みたいなオーラに押されて思わず本名を名乗ってしまった…
エルが撮影を一緒にする相手は誰かこの人は知ってそうだ
まあ、多分この人はエルの仕事関係の人だろうし何だか気難しそうで口は堅そうだしいっか
「ああ、成る程、君が…結月か…」
「はあ…まあ…」
やっぱり一緒に撮影する相手が誰か知っていたか
「あ!この子素性隠してるから口外禁止ね!」
「心得てるよ。目立って騒がれたく無いんだろう?そうじゃないとこんな格好してないだろうしね」
皆まで言わずとも察してくれて何だか物分かりの良さそうな人で安心した
「じゃああの映画では此方もお世話になったから自己紹介を。僕はprofessor八性と言います。エルと組んで音楽活動をしています」
「あっ…そうだったんですね…」
エルの仕事関係者ではあったが思ってたのと色々違った…
「やっぱりライブで直に見たセイヤにも分からなかったか。教授の化けっぷりは流石年期が入ってるな」
「まあエルもセイヤくんも中々の物だけどね」
ステージで見た姿からは想像できない風貌でエルや俺以上に変装の達人だった
しかしエルと同い年位に思ってたけど意外に歳食ってたんだな…
「まあ見た目こんな感じだけどそれ程エルとは歳は離れてないんだよ?」
「いえ…落ち着いているので…」
思ってた事が顔に出てしまっていただろうか…
考えてる事を見抜かれてしまった様だ
やっぱり先生だな。エルも教授って言ってるし
「あはは、まあ俺も教授ももういい歳だから」
確かプロフィールではエルは43歳だったか…
こちらは奇跡の43歳だな
八性は…これ以上考えるのはよそう
また顔に出て墓穴を掘りそうだ
「じゃあ…」
そう言ってエルと八性は何やら打ち合わせを始めた
俺は聞いていても良く分からなかったのでその様子をぼんやり眺めていた
「所でさ!」
話し合いがひと段落してエルが切り出した
「映画で使った劇中歌…まだMV作って無いじゃん?」
「まあこの後作るだろうね。アレも評判良かったみたいだからな」
「あれさ、キララとセイヤに出て貰えないかなあ?」
「えっ!?」
「ふむ…そうだな。映画のイメージに合わせて作ったからね。良いんじゃないか?」
いやいや、良くないだろ
キララは知らんが俺が良くない
「じゃあ早速!北野さんに提案!」
おいおい…
俺の意見は…
「もしもし、北野さん?エルです、お疲れ様です。今度…ええ、ええ…」
俺が言葉を発する前に北野に連絡を入れて話が進んでいた
「本当に!?わあ!それは嬉しいなあ!」
何が嬉しいんだ?詳細教えろ…
「それは大丈夫!喋らない役ならやるって言ってたんでしょ?」
多分それ今俺の事言ってるよな?
何が大丈夫…詳しく…
「じゃあまた詳細は打ち合わせで!はい、はい、宜しくお願いします」
そう言って会話を終了させていた
俺の口を挟む隙が全く無かった…
「行動早いですね…一応俺はまだやるとは一言も言って無いですが…」
「思い立ったら即行動!もう撮影決まったから!宜しくね!また星川と再会出来るよ!」
「いや、俺もう死んでるし…」
「いやあ…俺達の曲で!ifの世界線…感動だなあ…!」
「まああの映画のファンは喜ぶでしょうけど…」
大泣きしてた静風とか…
「これも立派なファンサだね!」
「いや…しかし…俺は出るとは言っては…」
「諦めろ。これが芸能界と言う奴だ」
八性は冷静に俺を諭していた
「芸能界って…恐ろしいな…」
「そうだぞ、正に伏魔殿だな」
「布袋監督に撮影頼むって!楽しみだなあ!あの作品の1ファンとして近くで撮影見学出来るなんて贅沢だなあ!」
「僕とエルも別撮りで撮影有るだろ…一応MVなんだから」
「あっ!そっか!でも共演とかさせてくれないかなあ!?星川と!ついでにセイヤも!」
俺はついでかい
まあそれは良いが…
結局エルはこの映画に星川ことキララと絡んで共演したかっただけなんじゃ無いか疑惑が急浮上して来ていた
このMVは恐らく麻由に引けを取らないエルの妄想2次創作になりそうな気がしてならない…
「さあな。演技やるならエルだけでやってくれ。僕は演奏以外では出ないからな」
八性はちゃっかり自己主張し、エルはただのミーハーとなってはしゃいでいた
何故こんな事態に…
あの時エルに誘われて家に行くのを断っていれば…
まさかこんな展開になろうとは誰も予想出来まい
自分の選択が悔やまれてならない
なんだかまたいつもの様に俺の知る由もなく勝手に話が進んで決まってしまった
やはり俺は押しに弱い人間だ…
時を戻したい…切実に
一難去ってまた一難…
中々星夜に穏やかな生活は訪れませんね
そして八性こと井上登場です
井上とエルの経緯は「山崎くんと神崎さん」を参照下さい
井上は当時からおっさん枠でしたが意外に山崎と年も近く若かったみたいです
当時は新卒一年目…位かな?




