来たる勝負の日に
「今日はセイヤは居ないの?」
今日は麻由の元へピアノのレッスンを受けに来ていた
中学生になり定期レッスンはやめたが、星夜曰く無駄だと分かってて続ける強い意志に則って不定期に習いに来ていた
相変わらずそれ程上達はしなかったが、良い気分転換になっていた
ピアノを弾いている時はただ目の前の楽譜や指使い等演奏する事に集中して余計な事を考えずに済む
多分私はしないが気分転換に凝った料理などをする人も同じ感覚だろう
「セイヤは今日はメンズエステに行かせてるわ」
「メンズエステ?」
「そうよ、来たる勝負の日に備えてね。準備は怠らないわ。お肌ツルツルぷるぷるの小顔にさせるから」
そう言って麻由は星夜がエルと雑誌の撮影をするという事を聞かされた
「わあ!何か凄いなあ…流石にそれは私真似できないなあ…」
「まあそうね。昔からテルヒはセイヤの真似してたけど…」
「うん、セイヤにはウザがられてるけどね」
「私は可愛いと思ってたわよ?人を羨ましがってその人に並ぼうと努力する事を素直に出来る事がね。私は捻くれ者で意地っ張りだから子供の頃はそういう所人には見せられなかったもの」
「へえ!そうなんだ」
「いつも周りの目を気にして人に自分の弱い所を見せたり悩んでる事とか話せなかったし…まあカッコつけしいだったのね。今思い返すと黒歴史だわ…」
「今のマユさんからは想像出来ない…」
麻由は思ってる事をズバズバ言い、人がどう思おうが自分のやりたい事を素直に行動する人だと思っていたが…
「でもまあインに出会ってそう言う所は粉々に破壊されたけどね」
「あはは、やっぱりインくんの事が好きなんだなあ。今のマユさんはインくんの影響が大きいんだね!」
「まあ、それは置いといて。だからあの捻くれ者の可愛くないセイヤと素直で可愛いテルヒが朝起きたら入れ替わっててテルヒがうちの子だったら良かったのにって思ってたわよ?」
「えへへ、そう思ってくれてたのは嬉しいなあ」
「しかしまあ今回の件はやっと親孝行を果たしたわ。お手柄ね、あのエルと共演なんて!」
「エルって…この人?」
ピアノの上に置かれているぬいぐるみを指差した
「そうよ、イケメンの方ね。八性は顔が良く分からないわ」
デフォルメされたぬいぐるみなんで何方もイケメンと言うより可愛いのだが…
八性と呼ばれる人の方はサングラスに顔が隠れる位の長めの髪でニット帽を深く被っていた
「この人どんな顔なんだろ?」
「良く分からないのよね。メディアに殆ど出ないし…噂ではイケメンだとか目が点だとか色々言われてるけど…私は可愛い顔だと予想してるわ。何せ受けだもの」
「受け?」
「まあその辺りはテルヒがもう少し大人になったら追々説明してあげるわ」
「うん?分かった」
なんだろう…まだまだ私の知らない事は世の中に沢山あるんだな
中学生になったしもっと勉強頑張らなきゃ
そうだ、来週…
「来週はマユさんとインくんどっちが来るの?」
「来週?」
「うん、授業参観。うちは今回お母さんが来るよ?」
「授業参観!?」
「うん…そうだよ?」
「アイツ…何も言いやがらなかった…」
「えっ!?そうなの?大分前にお知らせのプリント親に渡す様に配られたけど…」
「あのガキ…舐めた事しやがって…」
「えっ!?でもなんで教えなかったんだろう?」
「多分…入学式の影響ね。インが騒いで目立ってたからうちらを学校に来させない魂胆ね」
「でも…今更?もうあの時結構目立ってたよ?皆マユさんとインくんがセイヤの親だって知ってると思うけど…」
「こうなったら意地でも行ってやるわ!」
「まあ、そうだよね…学校での様子をちゃんと見といた方が良いだろうし…セイヤプリント捨てちゃったのかなあ?」
「それは無いと思うわ。あの子は計算高い子だから、もしこの事が露呈した場合渡し忘れていたとしれっと出してくる筈だから」
「あはは、さすがセイヤのお母さん!よく分かってるんだね」
「どこに隠したのか…あの子の部屋何も無いからなあ…常日頃持ち歩いてんのかしら…」
「そこまでするかなあ?…じゃあ私セイヤの部屋探してきてあげるよ」
「多分出てこないとは思うけど…あの子の部屋からはエロ本一つも出てこないから…まあ好きにして良いわよ」
麻由から許可が降りたので星夜の部屋を物色しに入った
先ずはスタンダードに机から…
引き出しを開けて行って中を確認していたがプリントらしき物は見つからなかった
ノートとかの間に挟んでるのかも…
そう思って手に取ってバサバサと振ってみた
すると一枚の紙切れが落ちてきた
「なんだ、意外に簡単に見つかった」
そう呟いて二つ折りにされていたその紙切れを開くと…
『20○○年 ○月○日 13:00 カフェプロソト○○店にて植咫こと田所と会う 俺が帰って来なかった場合はこのメモを持って速やかに警察に連絡する事。もし俺のスマホが何処かで見つかった場合のロックを解除するパスコードは154649 八神星夜』
「何これ…」
記された日付は去年の確か…星夜に植咫…田所の事を教えた少し後位だった
確か話した時星夜は私に渡された名刺をスマホで撮影していた
それを元に連絡をして会ったのだろう
星夜は私に田所と会った事を教えてくれなかった
一体何を話したのだろう…
何か私の知らないお母さんの事とか教えて貰ったのだろうか?
私の出生についての詳細は恐らく田所から教わった事だろう
しかし、今だにお母さんと田所が会っている理由…
もう私は生まれたのだから田所は用済みの筈なのに…
他にまだ何かあるのだろうか?
その事については星夜は何も話さなかった
教えてくれなかったと言う事は恐らくこの事を問い詰めても星夜は何も話さないだろう
なら…
いっそ私が直接田所に聞いた方が早いな…
櫂にも星夜にも田所には近づかない方が良いと言われているが…
私の出生について知った時もそれ程ショックでも動揺もしなかった
ただ、お父さんが可哀想だとは思ったが…
だから多分他に何を知ってもどんな現実を突きつけられても大丈夫、そう思えた
私はただ本当の事が知りたい…その思いに突き動かされていた
とりあえず星夜のメモはスマホで撮影して元に戻して星夜の部屋を出た
「うーん、やっぱり何も無かった…」
「ご苦労様」
「とりあえず家に帰ったらプリントの詳細メールで送るね」
「助かるわ」
「それじゃあ!またレッスン宜しくお願いします」
「またいつでもいらっしゃい」
家に帰って参観日のお知らせのプリントを探して撮影して麻由にメールで送った
そして机の引き出しの奥にしまってあった鍵付きの小物入れを取り出した
この中に他には大したものは入っていないが、一応お母さんに見つからない様に入れていた田所の名刺を取り出した
そして田所にメールを送った
中学生にエステに行かせるとは麻由も案外親バカなんでしょうか?
照陽を同じ道に沼らせようと画策しているのかな…
あの星夜のメモを照陽が見つけてしまいます
星夜、処分し忘れるとは意外にうっかりさんなのね…




