サクラチル
「ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ…」
「どうしたセイヤ…ついに本性を現したのか?」
「本性?」
「やっぱり平安時代からの転生者だったんだな…つい桜を見て詠みたくなったんだろう?」
「もうおじいちゃんとか通り越して歴史上の人物になったのか?俺は…人生何周目なんだよ…」
「何でそんな隅っこで和歌なんて詠んでるんだ?」
「まあ、現実逃避だな。俺は今春の歌会に参加している」
「いや、入学式だから…」
4月になり中学生となった
まあそのままエスカレーターなのでメンツも余り変わらず校舎が変わった位で然程新鮮味も無く変わり映えも無いのだが
今日は大地の指摘した通り入学式だった
一応両親である韻と麻由も来ていたのだが…
そう、見たくない現実、入学式早々に韻が浮かれてはしゃいでうろちょろしていた
それを麻由が首根っこをひっ捕まえて叱りつけていた
周りはざわついていた
俺は他人だ
アイツらとは無関係だ
桜を愛でて散りゆく桜を慮って和歌を詠んでいた
「あれが噂のインくんか…」
「お前までそんな呼び方するなよ…」
どうやら大地にもアレが父親には思えなかった様だ
「やっぱり…医者の中でも監察医とかだと変わってるんだな…」
「いや、イン以外の監察医は皆立派だぞ?監察医の名誉の為に言っとくが」
「そうか…何かテルヒのお母さんと見た目はそっくりだけど…あの人もあんな感じ?」
そう言って大地は遠くに見える杏を指差していた
「いや、真逆だな。アンは暗殺者だ」
「いや、産婦人科医で院長やってるって聞いてたけど…」
「まあうちの家系はイカれた奴ばっかりだ。嫁に来たマユもやはりイカれてる」
「そうか?何かしっかりしてそうだけどな…」
麻由はエルの姿を見た時に呟いていた
「違う違う…そうじゃ…そうじゃない…」
「何ネットミームみたいな事言ってんだよ?」
「アレじゃ攻めじゃ無い…」
「腐れきってんな…変装しないと大騒ぎになるだろうが」
「やっぱり世論の通り受けなのか…」
「どこの世論だよ…頼むから本人の前ではそれ言わないでくれよ…」
一応釘を刺しておいたので一昨年ライブに招待して貰ったお礼を普通の大人として言っていた
韻も何とか大人しくしていたが…
「マユの方がおっぱい大きい!」
何かジロジロ青葉を見てるなあ…と思っていたら此方も腐ったドブみたいな事を言っていた
本人の前で口に出さなかったのがせめてもの救いだった
「クラスも離れちゃったけど、また皆で遊ぼうな」
「まあ遊びと言うより勉強会だったがな。学生らしく健全で何よりだ」
そう、俺達は決してラブホで4Pなどしない
「あはは、やっぱり先生みたいだな。それも学年主任クラスの」
「限りなくおじいちゃんに近いおじさんだと言いたい事は分かった」
「今年はテルヒと同じクラスだろ?」
「ああ、そうだな。まあ別に同じクラスだからと言って何か変わる訳でも無いがな。今まで通りだな。お前はシズカと同じクラスだろ?良かったな」
「まあ…そうなんだけど…」
「やっぱアレか。人目を気にしてって奴?」
「まあなあ…俺のせいでまたシズカが辛い目に遭わないように…気をつけないとな…」
「モテる男の悩みだな。俺には無縁だな」
「よく言うよ…そのメガネと髪型やめたら多分世界が変わるぞ?」
「世界を変える気は無いね。俺はモテたいとも思わないし、恋愛だの誰かと付き合うとか面倒な事をする気もないね。時間と労力の無駄だな」
「やっぱりおじいちゃんだなあ…」
「もうそれで良いよ…」
おじさんポジションはもう諦めた
今年は大地とクラスは離れて照陽と同じクラスになった
だからと言って何か変わる事も無いだろう
相変わらず照陽の元には月に一回通っていたが…お互い練習相手、それだけだ
大地は…
クラスが変わって交友関係も変わるのかも知れない
一緒に居てそれなりに楽しかったが、離れて行ったとしてもまあ仕方ないなと思う位だろう
俺にとって大地はそんな存在だった
大地だけで無くその他大勢…
皆に対してそう思っていた
誰かと特別仲良くなりたいとか独占したいとかそう言う風に思う事は無かった
以前に韻が子供の時から誰か特別な1番が欲しいとずっと思っていて麻由が1番になってくれたと言っていたが俺にはそう言う欲求は無かった
まあ韻は中学生まで地下施設で戸籍も無く隠されて育てられ親にも誰ともまともに関わっていなかったのでそう言う願望が人より強いのかも知れない
同じ親から生まれた杏との違いを目の当たりにしてやはり幼少期の環境は一生を左右するんだなと韻を見てよく分かった
そしてやっぱり俺は韻に似てないんだな!と安堵していた
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「今日はこれからお出かけするわよ」
「何処に…」
「カフェに」
「何しに…」
「会談よ」
「何か…この会話凄い既視感があるんだけど」
「以前とは違うから」
入学式も終わって少しした頃、麻由がまたふざけた事を言っていた
「言っとくけど俺もう演技とかやらないからね?何しに行くの…」
「会談よ」
麻由は同じ答えを2度言いやがった
まるで学習してねえな
「具体的に何の会談なのよ…」
「とりあえず現場で説明するわ」
俺はタイムリープでもしてるんだろうか?
「どうもお待たせしました」
「いえいえ、私も先程来たばかりですので…」
「お久しぶりです…」
「やあ、セイヤくん」
待ち合わせのカフェに以前と同じ様に北野が居た
「また会える機会が有って嬉しいよ」
「はあ…」
やはりそうだ。これは同じ時間の輪をグルグル回ってるんだ
そしてコイツはまた映画の出演の話を持ち出してくるんだ
今度こそビシッと断ってやるぞ
この先何が起こるかもう経験してるからな
最初が肝心
転生者を舐めるなよ
「いやあ、映画大好評でさ!セイヤくんのおかげも大きいよ!」
「はあ…」
あれ?タイムリープしてなかった…
時間がちゃんと進んでる…
などと下らない事を考えていた
「主題歌提供してくれたAラッシュの曲もまだシングルチャート一位でさ!」
「そうなんですね…」
あの映画はお正月映画として年明けに公開されたが主題歌もAラッシュでそちらでも話題になっていた
「でもやっぱり謎の少年ユヅキだよね!あの子は誰だって業界でも話題になっててさあ!」
「へー、そうなんですね」
「でね、色々オファーも来ててね!」
「へー、そうなんですね」
「アンタ同じ答え2回言ってるし…聞く気ゼロね」
マユにだけは言われたく無いんだが
「俺はもう役者はやらないですよ?今回も変装と偽名と声出して喋らなくて良いから引き受けたんですからね?」
「残念だなあ…でもさ?」
「?」
「声出して喋らなければ良いんだよね?」
「まあ…百歩譲ってそれなら…でももうそんな役無いと思いますよ?俺の役はもう死んだし…」
「大丈夫!映画やドラマじゃ無いから!」
「?」
「あの映画の公開期間が大好評につき伸びたからさ!今度amamでね、映画の番宣も兼ねてエルのグラビア撮るんだけどさ!セイヤくんもエルと一緒に撮影してよ!」
「えー!?」
「謹んでお引き受け致しますっ!」
「わあ!有難う!セイヤくん!」
「いや、何勝手に慎んでんのよマユ…」
「だってあのエルだよ!?断ったら一生セイヤを恨んで呪うから!」
「それ親が子供に言うセリフか?」
あのエルだな。入学式で麻由が違う違うって嘆いてたあのエルだよな?
健忘症か?記憶喪失になってるのか?
「じゃあまた詳細は連絡しますね!」
「ハイ!よろこんで!」
おいおい、まだやるとは言って無いが…
「何居酒屋チェーンの店員みたいなテンションで返事してるんだよ…」
俺の代わりに麻由が元気よく返事をしていた
なんだかまた俺の知る由もなく勝手に話が進んで決まってしまった
やはり俺は押しに弱い人間だ…
入学式に引き続き更に憂鬱な春が到来していた
星夜は中学生になった早々また厄介な事に巻き込まれた様です




