黒い感情
「これで肩の荷が降りたね」
「そうだな。結局セイヤの独壇場だったな…」
「何聞いても答えられるし…何気にセイヤって頭良いよね?」
「そうだなあ…」
「そしてやっぱりテルヒは良いお母さんだったね」
「もう今回は何も言わずにそれぞれに飲み物出してたなあ…」
星夜はこの後照陽と親戚の集まりがあるからと居残って、俺と静風は照陽の家を出て並んで話しながら帰っていた
もしかして気を遣われているのかも知れない…
そう思うと少し気恥ずかしい気持ちになっていた
しかし静風とはクラスも違うし周りの人の目も気にして昔の様に2人きりで気軽に仲良く話す機会もそうそう無いので色々話したいと思っていた
近くで目が届かないので近況も気になっていた
「最近どう?」
「うん、まあ平和だよ」
「そっか、良かった」
前に静風は孤立していた時期が有り、今年は近くに照陽も居ないので少し心配していた
一応星夜も同じクラスだが基本星夜は他人に干渉しないし、何か有っても傍観してそうだ
助けるとか普段から仲良く話しかけてあげるとかそう言う自分に関係ない場合の気遣いや頼りにはならなさそうだと思っていた
「まあテルヒとクラス離れちゃったのは寂しいけどね。ダイチが羨ましい」
「何かウチのクラスの女子みたいな事言ってるな…」
「あー…ウチのクラスの…サトエも…最近テルヒの事あれこれ聞いてくるんだよ?好きな物や食べ物は何だとか趣味とかさー」
「あはは、そうなんだ」
「前にあんな意地悪した癖に…テルヒと仲良いでしょってさあ。調子良いよね?」
「まあ、そうだよなあ…」
「でも不思議なんだよね。ダイチの事好きだった筈なんだけど…ダイチと仲良く話したりしてるテルヒを嫌うならまだ分かるんだけど…どう言う事だろ?」
「あー…何だろうなあ…」
「何か知ってるでしょ!?」
「えっ!?」
「顔に書いてある!」
「何を!?」
そう言われて思わず顔を触っていた
「ほらやっぱり!何隠してんの!?」
「隠して…は…」
「白状しなさい!」
「何か…凄いな…刑事みたい…」
以前星夜に使った手口をまんま静風にされてしまった
「どんだけ付き合い長いと思ってんのよ。ダイチが何か隠し事してる時はすぐ分かるんだからね!」
「どの辺りで分かるんだろう…」
「それは秘密よ!言ったら対策されるからね」
「はいはい…」
そう問い詰められて、一連のキス事件の説明した
「テルヒ…確かに初めては大切だって言ったけど!何か私が言った事の解釈間違えてる…」
「まあ…そうだな」
「どうしよう…止めなきゃ!これ以上被害者が増えない内に!」
「まあ、俺やセイヤも忠告したから…多分もうしないと思うぞ?テルヒも納得してくれたし」
星夜にはまだ確認していなかったが、この後きっと忠告するだろう…と思う
自分にも降り掛かる災いだしな…
普段は我関せずだが、自分に影響を及ぼす様な場合は星夜は行動する奴だ
「でも…テルヒはどうやってキスの仕方覚えたんだろう?」
「さっ…さあ?多分ドラマとか映画とかじゃ無いの?ネットで検索したとかかもだし…」
「ふうん…」
なんだか静風が何か知ってるだろうと言う様な疑いの目を向けていた
流石に星夜と練習していた…とは言えなかった
星夜にも誰にも言わないって約束したし、バラすと折角出来た唯一気の置ける大切な友人との友情にヒビが入る。こればっかりは口が裂けても言えない、言わない
「あっ!そうだ!テルヒがな、シズカにも練習してあげなきゃって言ってたぞ?」
「えっ!?私と!?」
「そう!だから俺は絶対ダメって言ってやったぞ?」
「うん、有難う…危ない所だった…」
「あはは、そうだな。ファーストキスは大切だからな。事前練習なんておかしいよな」
静風はファーストキスに色々理想が有って思い入れが有ると照陽が言っていたと星夜が教えてくれた
その夢を練習などと下らない事で壊す様な事は全力で死守した
「そうだよ!まあ…テルヒならされても…構わないかもだけど…」
「えっ!?」
「友達だし?ノーカウントでしょ?」
「なんだ…ビックリした…」
「あはは」
「テルヒと本当に仲良いんだな」
「そうだよ?しっかりしてるし、正義感も強くて色々相談にも乗ってくれるし。その癖ちょっとズレてる所もあったりして…可愛いんだあ」
「そっか、頼りにしてるんだな」
「そうだね…友達でもありお姉さんみたいに思う時もありって感じかなあ」
「そうなんだ」
「うん。それに…何かダイチのファンを手懐けて逆に虜にさせて…やっぱ凄いなあテルヒは。流石私の見込んだ友達って感じ!大物だね!まあ私には到底出来ない芸当だわ」
「あはは、シズカのお眼鏡にかなってるんだな。でも…テルヒってセイヤには我儘言ったりするみたいだな」
「そうなんだ…」
「セイヤがたまに愚痴を言ってるぞ?」
「あはは、何かやり取り想像つくなあ…セイヤって無駄に大人びてるって言うか達観してるって言うか…」
「そうだなあ」
「あのしっかり者のテルヒが唯一子供みたいに出来る相手ってのうなずける」
「そっか」
「うん、セイヤって冷めてる感じの癖に結局は世話焼きって言うか…色々周り見てるよね」
「そうだなあ…」
「前に…3年生の時…女子に意地悪されてさ」
「うん」
「私意地っ張りで負けず嫌いじゃん?誰にも見られない様に…皆に隠れて泣いてたの」
「うん…」
「たまたま通りかかったセイヤがさ、ほれって言って飴くれたんだあ」
「あ…前に言ってた梅味って奴か…」
確か…去年の運動会で静風が転んでリレーで最下位になって落ち込んでた時…
星夜が静風に飴をあげて、前は梅味だって言ってたっけ…
「うん…塩分もこれで取れて一石二鳥だって。あはは」
「そっか…」
そんな事が有ったなんて…
全く知らなかった
俺は…周りを見れて無かったんだな…
リレーで転んだ時も見ていなかった
3年生の時に泣いてる静風を見つける事も
慰める事も出来なかった
「まあ…それだけなんだけどね。何か言葉を掛けるとか…事情を聞いたり慰めるとか同情とか一切無かったんだけどね。でも…根掘り葉掘り聞かれずそっけない態度が逆に有り難かったって言うか、救われた気持ちになったって言うか…まあそんな感じ!」
「そっか…まあセイヤらしいよな」
「そうだね、あはは」
静風と今星夜は同じクラスだ
その事を思うと何故か急に違う意味で不安になって来ていた
俺ならそういう場面に遭遇したらどうするだろう…
色々問い詰めたり…
慰めたり元気付ける言葉を掛けたり…
気にするなとか味方だからとか…
そんな事しか思いつかなかった
きっと星夜の様な静風の本当に望む行動は出来なかっただろう
運動会の時も…
俺の行動は何か間違っていたのかも知れない
そう思うと胸がチリっと痛んだ
そして何だかモヤモヤとした感情が湧いていた
俺は星夜に対して今までどう思って居たんだろう
友達…
気を許せる唯一の相手
今まで隠していた事も話せる相手
親や人に言えない相談も出来る頼りになる相手
たまに子供っぽい可愛い所もある相手
敢えて目立たない様にしてる俺に似た所のある相手
そして…
俺を脅かす事の無い安心出来る相手
俺より格下の相手…
無意識にそう思っていた事に気付いて愕然とした
それと同時に突如湧き起こったこの黒い感情に戸惑っていた
大地も何やら新たな自分に気付いてしまった様です
星夜との友情はどうなる事やら…




