星夜の事情
一方星夜は…
あの人の子供と友達に?
「セイヤは将来こうなりたいとか夢はあるの?」
「医者とピアニスト以外」
「むう!」
そう答えて生物学上の父、韻は膨れっ面をした
○○○○○○○○○○
俺、八神星夜は今年小学5年生となった
父と言う肩書きの韻と自称母と言う麻由の一人息子だ
韻は監察医と言う医者の中でも特殊な仕事をしていた
そのせいか否か韻は兎に角破茶滅茶な人間だった
韻の生い立ちも世間一般とかけ離れたものだった
韻は生まれつき多指症で指が6本有った
たったそれだけの理由で戸籍も無く地下施設に隠されて育てられていた
中学生になる時に漸く外に出られたらしいが、それまで同年代の子とも他人とも交流も無く小学校にも通って無かったので人格に難ありのまま大人になってしまった人だった
勉強だけは何故か出来たらしいので医者にはなれたが臨床医にならなくて本当に良かったと思う
あの調子なら下手したら医師免許剥奪だろう
三つ子の魂…と言う言葉が有るが、やはり幼少期の環境は一生を左右するんだなと理解した
麻由は音大を出て一応ピアニストとして活動しているが、自宅でピアノ教室をしたりYouTuberだったりBL漫画の原作者をしたりともう何がしたいのか謎で、何でもアリの韻を凌ぐ破天荒ぶりだった
こんな両親の元で育った所為かおかげか俺は色々冷めた人間になってしまったと自覚している
両親は俺にとって将来こうならない様に…の立派な反面教師だった
医大と音大は目指さない…これは鬼門だとこの歳で既に悟っていた
「なあ、セイヤ!」
「何?ダイチ」
「今日俺ん家来る?」
「うん、いいよ」
「良かった!今日父さん居るからさ。聞かせてやりたいんだよ!信じてくれないから」
「まあ良いけど…」
この山崎大地は数少ない俺の友達だった
大地は明るく活発で誰とでも仲良くなれる陽キャで所謂カースト上位の人間だった
今まで接点も無かったがひょんな経緯で仲良くなった
「あっ!これAラッシュだ」
「去年のドラマの曲だよね」
「良いよねー!」
昼休みの放送で曲が流れた
クラスの子がざわざわ騒いでいた
俺はテレビも殆ど観ないし流行りの曲も殆ど知らないから初めて聴いた
無意識に机の上で指を動かしていた
「セイヤ、ピアノ弾けるの?」
大地がその様子を見て話しかけてきた
「まあ…親がピアノの先生してるから強制的に習わされた」
「へえ!そうなんだ!この曲弾ける?」
「多分…初めて聞いたけど弾けると思う」
「スゲエ!演奏聞いてみたい!」
「まあ良いけど…じゃあ放課後音楽室で」
そこで放課後耳コピした演奏を音楽室で弾いた
「マジスゲエ!初めて聴いたんだよな!?」
「うん」
「何か小粋なアレンジとか加わってるし…お前只者じゃねえな」
「俺は地味な普通の小学5年生、八神星夜だよ」
「これ皆が知ったら驚くだろうなあ」
「やめてくれ。俺悪目立ちしたくないし。平々凡々に生きて行きたいから」
「そっか…まあその気持ちはよく分かる…」
「大地は目立つ部類だと思うけど」
「まあ…意図せずそうなっちゃってるけどな…」
「ふうん。でもこの曲好きなの?」
「まあ…好きってか…お前になら教えても良いかな。言いふらしたりし無さそうだし」
「?」
「これ、父さんが歌ってる曲」
「へえ!そうなんだ」
殆どテレビを見ない俺でもAラッシュのボーカル、エルは知っていた
歌も上手くてイケメン、かつ役者をやったり面白いキャラでバラエティにもチョコチョコ出ているマルチな人間だった
「まあ俺も…父親が有名人だから悪目立ちはしたく無いんだよな」
「成る程ね。でもまあ芸能人の血を引いてると言うか、やっぱり目立つ人間になるんだなあ。顔も派手だし」
「派手って言うなよ…母さんの顔が混ざってこうなったんだから…」
「成る程ね」
エルが結婚した相手は確か一般人と言う事で顔や名前は知らなかった
大地は整った顔つきだったが、映像等で知っている父親の顔より更に目鼻立ちがハッキリしていた
「まあ、そう言う事で…この事は皆には内緒な」
「うん、分かった」
この件が有ってから大地と話す様になった
大地は素直で誰にでも分け隔てなく優しい良い奴だった
そして年相応に無邪気な所も有った
「ダイチの親はミュージシャンなら何か楽器とか歌とか習ったりしてないの?」
「うーん、俺も一応ピアノは少し習ったんだけどな、サッカーやドッジしてる方が楽しいからすぐ辞めた」
「そうなんだ」
「因みに俺の父親は運動神経壊滅的。その手の番組呼ばれる時はお笑い要因。芸人になるのかな?」
「その内司会者やニュースキャスターとかになりそうだな」
「多分頼まれてやってくれって言われたらやるだろうなあ…基本お調子者だから…」
なんだか麻由みたいな人だなって思った
やっぱり音楽とかしてる人間は変わってるんだろう
「だからな、セイヤのピアノ聴かせて驚かせたいんだよ」
「接続詞の『だから』の使い方が何かおかしいぞ…話の流れに沿ってない」
「まあ、細かい事は気にするな。父さんの驚く所が見たいんだよ」
「なんで」
「面白いから」
「あっそ」
「じゃあ今度家に来てな!」
「しょうがないなあ…」
結局俺も押しには弱い様だ…
そんな経緯で大地の父親と対面する事となった
○○○○○○○○○○
「うっそ!マジで!?スゲエ!」
今や国営放送の年末歌番組の出場歌手にまでなっていたあのAラッシュのボーカルのエルが普通に驚いていた
「な!凄いだろ!?」
正直Aラッシュの曲は殆ど知らないので先程一曲流してもらってそれを耳コピして演奏した
「しかし…初見と言いつつ実は練習して来た…と言う疑いも拭いきれない…」
いい歳をして子供に疑いの目を向けている大人げ無い人だなあ…
「まあ、そう言われてしまうと違う事を実証するのは難しいですが…」
「父さんいい歳をして大人げ無いよ!」
大地が俺の心の声を代弁していた
「よし!じゃあまだ未発表の新曲のデモ!これを特別に聴かせてやるから弾いてみろ」
俺は一応頼まれて来ている立場の筈なんだが…
これはお願いでは無く命令だよな?
まあ仕方ないから大人しく言う通りにした
「うむ!セイヤは本物だった!」
エルは何故か満足して偉そうにそう言った
「そうですか、それは良かった」
「な!だから言ったろ!?セイヤは凄いんだって!」
まずは疑った謝罪だろう…
とも思ったがもう早く終わりにしたかったので大人しく黙っていた
この件で1番楽しんだのは大地だった様だ
「まあ、今回わざわざ赴いてくれたセイヤくんにお礼をしないとな」
「そうですか、有難うございます」
一応タダで楽しむ気は無く、謝礼する気は有ったらしい
まあ、疑ってゴメンね位言って貰えれば良いかなと思っていたが…
「今度のツアーにセイヤくんを招待します!関係者席で楽しんでね!」
「えっ!良いなー!俺も行きたい!」
「じゃあ仕方ないからセイヤくんを紹介してくれたダイチも一緒に見に来なよ」
「やった!」
「有難う…ございます…」
何か思ってたのと違うけど…
俺は大地とAラッシュのライブを見に行く事になった
大地は山崎の子の様です。結婚したんだね
山崎については「山崎くんと神崎さん」を参照下さい
星夜は八神家の使命とは関係無い所で生活していますが、はてさて星夜はどうなる事やら…




