船
「美香の髪はお母さん譲りね」
母はそう嬉しそうに言いながら、小さな頃から毎日髪を結ってくれた。
豊かな長い黒髪を三つ編みに、ポニーテールに、編み込みに。キラキラとした髪飾りからお手製のシュシュまで、様々な装飾を着けて完成する髪型は一種の作品と言って過言ではなかった。
「美香の目は父さん譲りだな」
父はそう照れくさそうに言いながら、私の頬に手を添えて目を覗き込むのが好きだった。
純日本人にも関わらず茶色に近い少し色の抜けた黒い瞳。アップで撮る写真で必ず目立つそれは、無邪気に笑う同級生達の中では少し浮いて見えた。
「美香と私って本当にそっくりよね」
姉はやや呆れたように言いながらも、本当は嫌ではない事が言葉の裏に見え隠れしていた。
華やかな服の好みも一緒、好む化粧品も一緒、好きな食べ物も一緒。ずっと妹を欲しがっていたらしい姉は、5つ下の私をとても可愛がってくれた。
「美香ちゃんの肌は本当に綺麗ね」
祖母は私にはめっぽう甘く、些細な事でもどんな時でも褒めてくれた。
大きな怪我の痕も無く、吹奏楽部だった為日に焼けることもなく、白く傷一つ無い私の身体。祖母はそんな私の手を取って、しわしわの優しい手でいつまでもいつまでも撫でていてくれた。
お母さん、ごめんね。
私本当はずっと髪を切りたかったの。男の子みたいに、短くてサッパリとしたベリーショート。黒髪もとっくの昔に飽きてしまって茶色に染めました。
お父さん、ごめんなさい。
私はこの目があまり好きじゃなかったの。都会ってすごいよ、どんな事をしても目立たない。だから思い切って派手な色のカラコンを付けて過ごしてる。
お姉ちゃん、ごめん。
私とお姉ちゃんの好みって本当は正反対なの。可愛い服もお化粧もガラじゃない。ラフな格好が好きだしかっこいいメイクが好き。食べ物もパンケーキより焼肉が好きなの。
おばあちゃん、おばあちゃん。
私の耳には穴が開きました。背中にも小さな小さなタトゥーが入りました。傷一つ無かった身体に穴を開けて、絵を描いて、私って親不孝者なのかな。
私が地元を飛び出して7年。
20歳だった私は27歳になりました。
人間の細胞って7年で入れ替わるって知ってた?
私の細胞は7年前とまるきり入れ替わってしまって、
髪も
目も
好みも
身体も
あの頃の私と同じものは何一つない。
そんな私はみんなの思う"美香"のままなのかな。
これじゃあまるで
これはまるで
私はまるでテセウスの
「船」




