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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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95/98

95話

 リュウが二つの時。両親が流行病に倒れた。まずは父親が床に伏せ、看病している内に、母親の調子も悪くなった。はっきりと覚えてることは少ない。迎えが来たことだけは覚えてる。


 家の戸を叩く音に、リュウは反応した。母が重い体を引きずって戸を開ける。そこには、男が一人立っていた。感染対策だろう、布を口鼻に当てている。


「座っていろ。旦那の方は大分進行しているな」

「……ええ。意識がはっきりしている日のほうが少ないです」

「……そう長くない。覚悟しておきなさい」

「……」


 母は憔悴していた。男は、リュウを見つけると近寄ってきた。


「では、この子は預かる」

「はい。どうか……どうか、宜しくお願いします」

「分かってる」


 男に抱き上げられると、リュウはそのまま家から連れ出された。幼い子供が親と離されば、当然泣き叫ぶ。理由もわからぬまま、ただ母を呼んで、小さくなる家を見つめた。





 男は、国の官吏だった。病のためリュウの面倒を見れなくなった親は、同僚にその世話を頼んだのだ。男の家にまだ子はいなく、男も、その妻も、優しくリュウを育ててくれたように思う。


 しかし、それも長くは続かなかった。リュウを引き取った夫婦もまた、流行病に倒れたのだ。


「あの子でしょ、例の」

「子供のほうが罹りやすいと聞いたぞ。何であの子だけ」

「親を身代わりにして、自分が助かる術を持ってるのかも」

「まさか……」


 ひそひそと囁かれる噂話は、リュウの耳にも入った。この時、リュウは四才。実の両親は二人とも、既に亡くなっていた。


「疫病神」


 そう言われ出した頃、養子先の両親も病が重くなり、リュウの面倒を見れなくなった。だが、代わりにと手を挙げる人間はいなかった。


 リュウが耳を塞いで、座り込んでいた所に手を差し伸べた人物こそ、九垓だった。


「これが例の子か」

「いかがしますか、殿下」


 当時、まだ九垓は王子の身だった。


「いいね、実に興味深い。早速、宮殿に連れてこう」

「面倒は誰が見るのです」

「僕の侍女にやらせたらいい」

「……陛下の説得は殿下がして下さいよ」

「うんうん。父上のお説教くらい聞きますよ。さあ、行こうか。名前を言えるかい」

「……流雨(りゅう)

「いい名だ」



 そう言って、九垓はリュウの手を引いた。九垓に連れられて行ったのは、中央省庁の一つ。胡王国が誇る魔術の研究所だった。


 国を蔓延る疫病をものともしなかったリュウの体は研究された。といっても非人道的なものは一切なく、リュウは助けてくれた九垓に感謝し、やがて、恩返ししたいと思うようになった。六つになった頃、九垓へ意思を伝えた。


「俺が殿下にできることはありますか」

「できること?」

「俺の体はとびぬけて丈夫なんでしょう。何か役に立つと思います」


 研究の結果は、幼いリュウには理解しきれるものではなかったが、自分の体は特別だということは分かった。決意を目に灯すリュウに、九垓は提案した。


「じゃあ、魔術を覚えてみるかい」

「魔術……」

「きみのお父さんも優秀な研究者であり、使い手だった。きっと、きみも才能がある」

「俺にも……」


 その言葉は、現実になった。リュウは八歳にして、そこらの大人よりよっぽど魔術を上手く扱えた。導士の血は流れてないため、上位魔術にあたる幻導術は使えないが、導士をして「魔術の才能がある」と言わしめるほどだった。


 環術を自在に操り、水の弾丸を放ったかと思えば、氷の矢を射出する。炎焼を起こして作った火球を、操った風と合わせて遠くへ飛ばす。リュウはイメージしたことは大体できた。紛れもなく、魔術の天才だ。


「すげー!」

「リュウ、かっこいい!」

「こんくらいヨユー」

「俺もリュウみたいに火の矢撃ちてえ!」


 官吏の子供たちがリュウを囃し立てる。親から低級の魔石を手遊びに貰った者たちは、皆リュウを真似し、憧れた。


 いつものように取り巻きたちを適当にいなしていると、皆が、リュウの後ろを見て固まった。何かと振り返る。


「これは凄いな」

「……へ、陛下」


 九垓の父親――当時の胡王、慧燿(けいよう)が評判を聞きつけやって来たのだった。リュウは、直ぐに跪く。王は子供たちをよそにやると、リュウに語りかけた。


「既に、魔術の使い手できみの右に出る者はいなくなったようだ」

「……いえ」

「子供の身で謙遜など、大人びた子だ。確か、九垓が連れてきた孤児だったな」

「はい」

「そうか……。きみは、王家への恩はあるか」

「勿論です」


 この恩を九垓へ返したいと、リュウは魔術を使い始めたのだ。

 

「ならば、私の護衛部隊に入りなさい」

「……護衛、部隊」

「首護隊だ。王を守るため、危険な任務も付いてくる。幼いきみには酷かもしれぬが……だが、それで躊躇うには、きみの才は有り余る」

「……身に余る光栄です。誠心誠意、陛下に尽くします」


 首護隊に指名されたリュウは、嬉しさで体中が熱く燃えていた。拾ってくれた、九垓の役に立てるという喜びが、小さな胸に溢れていた。

  

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