93話
玲奈から離れたリュウは、九垓のところへと戻っていた。入れ替わりで、リュウを睨みながら紅那が出ていく。
「そんな仲悪かったか?」
「さあ……あの男との記憶は殆どないです」
「それが気に入らないんじゃない? 自分は意識してるのにって」
「八つ当たりですか。子供じみてますね」
「お前だってまだまだ子供だろう」
それに返すこともできず、リュウは黙った。
「本題に移ろうか」
「……アイツは何を抱えてるんです」
「本人から聞かなくていいの?」
「それはそれで、口を割らせます」
「おお、怖い」
九垓は愉快そうに口の端をあげ、真実を囁いた。
「彼女はスラジで悪名名高い、『破滅の子』だ。知ってるだろう」
「……はい。例の……成程」
「驚かないのか?」
「驚いてます。ですが……そう思えば、腑に落ちる点はあります」
「というと?」
九垓は前のめりになった。
「異常に常識がない。迷宮に挑むにしては実力もまるで足りない。なのに、一等魔石を持っている。手立てをした権力者がいるということです」
「十中八九、スラジの第三王子だな。境遇からして動機は十分。長兄との折り合いも悪い。彼女が国に捕らえられる前に、いち早く助けられるとしたら、彼くらいだ」
「手を組むのですか」
「それは時期尚早かな。暫くは様子見だ」
「アイツの処遇は」
「とりあえず、周りと同じく下働きにしていいよ。お前だけでなく、首護隊に交代で監視に当たらせよう」
「……しかし、首護隊の役目は陛下の護衛です」
「大丈夫、昨日言っただろ。お前の穴を埋めるどころか、前より充実してるよ」
リュウは昨夜、今の首護隊の構成について聞いていた。以前よりも、手練れの実力者が任に当たっている。リュウがその情報を与えられた理由。胡王国を出ていく以前、リュウが首護隊の一員だったからに他ならない。
「ならば、俺が首護隊の任に戻る意味もありません。俺は今は、役立たずです」
「魔術が大して使えなくても、お前は十分戦える」
「アイツの監視に他の首護隊員を使うのは勿体ないです。俺一人で」
「いや、リュウには戻ってきてもらわないと困る。何だ、そんなにあの子と離れたくないのか」
「…………」
リュウは渋い顔で唇を噛み締めた。九垓は目を丸くをして面白がった。
「これは驚いたな。まさか、お前が恋慕を覚えるとはね」
「……そんなんじゃないです。からかわないでください」
「じゃあ何か。俺への忠誠は捨てたか」
九垓の口調は面白がる音を乗せているものの、眼光は鋭く、リュウの本意を見極めようとしていた。
「ありえません。ただ、アイツは何をしでかすか、分かりません。それこそ、始末しなければならない事態になる可能性も。俺が近くにいれば、そうなる前に対処ができる」
「随分大事にしてるじゃないか」
九垓はくつくつ笑いながらからかった。
「お前にそんな余裕ができたのが嬉しいよ」
「……」
「だが、その淡い気持ちを応援してやれるほど、あの子の存在、それがもたらすものは軽々しく扱えない。『破滅の子』がもつ意味を、分かっているだろう」
「……」
「想いまで捨てろとは言わない。でも、あの子がお前と結ばれることはない。肝に銘じておけ」
「……アイツを好いてなどいません。何度も言わせないでください」
九垓は眉を上げて応えた。




