89話
城に着くと、文字通り身包みを剥がされた。剥がしにかかったのが女性だったのは幸いだが、同性だろうが恥ずかしいものは恥ずかしい。魔石も取り上げられて、代わりの服を渡される。無防備な姿で待機室へ行くと、トキとナシュカが先に座っていた。
「リュウは?」
「早々に別の場所に案内されてた。この国の官吏ならこんなことする必要もないしな」
「そっか……」
「これきりってわけでもないでしょ。その内会えるよ」
「うん」
そう待たない内に、部屋の戸が開いた。河肖が入ってくる。
「不審な物はなかった。明日王都――正黄街へ行き、陛下の秤を受けてもらう。秤を通れば、魔石はお返ししよう」
「はかり?」
「なんのことだ」
「陛下が迷宮からの入国者の人となりを、心眼で見ることを、秤という。危険人物か否かを見極め、問題なければこの国へ招き入れ、ここでの生活が認められる」
「心眼……?」
「魔水晶を媒介し、人の心の在り方を見るものが心眼。代々、胡王の系譜が受け継ぐ力だ」
「なにそれ。王様が気に入らなければ追放ってこと」
「心眼の力は確かだ。陛下の気分で決まるような代物ではない。心眼が危険とみなした者は、詳しく調べれば、みな危険思想を持っていた。他国との内通者を炙り出す目的だ」
「そんなことが分かるの?」
「迷宮程の強い魔力があれば可能だろうが、一個人にそんな力が……」
「胡はそれだけ、魔術の研究に力を注いできた。その成果だ」
トキとナシュカはとりあえず納得したようで、頷いた。しかし、玲奈は心中穏やかとはいかなくなった。
(心を見る力って……私、追い出されるんじゃ)
破滅の子に、心眼はどのような審判を下すのか。胡王国に危害を加える気など毛頭ないが、スラジでは立派な犯罪者、指名手配中の身だ。
「明日、馬車で正黄街までお連れしよう。迷宮の試練で心身共に酷使されたことだろう。食事を取ったらゆっくり休んでくれ」
翌朝。相変わらず、リュウの姿はなかった。三人で馬車に乗り、二時間程度揺られると、王都へ到着した。降りると、そこには巨大な木造りの門が聳え立っていた。
「大きい……」
「ここからは歩いてもらう」
門の扉は既に開いていた。その向こうは、小砂利の敷き詰められた舗道になっていて奥に建物が見えた。
「あれが王宮……」
「流石にでかいな」
王宮まではまだ距離があるが、ここからでもかなりの存在感を放っていた。それに見惚れていると、鋭い声がかけられた。
「貴様らが此度の秤にかけられる者たちだな」
そこにいたのは、上等な召し物に身を包んだ、文官だった。歳は三十そこらだろうか。黒い短髪をかき上げた無愛想な様相は、玲奈に懐かしい気持ちを思わせた。
(少し、ヤザンに似てる)
男は明らかにこちらを見下した態度で、トキが眉間に皺を寄せた。
「私は紅那。胡王国文官長の任にある。貴様らは今は客人でも、秤が済めば全員私の部下だ」
「……分かりました」
「いい心がけだ。早速、枢晶宮へ行く。陛下を待たせるな」
そう言って紅那はさくさくと歩き出す。入れ替わるように、河肖は立ち止まった。ここでお別れらしい。頭を下げると、「ご武運を」と人の良い笑みで返ってきた。




