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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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85/99

85話


 四人の前に、何度目かの、大きな扉が立ちはだかる。

  

「さ、何が出るか……」

「俺が先に行く」

「私も」

「ありがとう、お願い」


 リュウが先頭に立ち、玲奈が続いた。魔術を使えないトキとナシュカをフォローできる力はついたと思いたい。目配せをするリュウに頷いた。リュウが扉を開ける。


「ッ伏せろ!!」


 その声に反応する前に、後ろから玲奈の腹に腕が回り、身体が引っ張られた。


「きゃッ!?」


 目前に、鱗のような物が迫っているのを認めた瞬間、突風によって四人は後ろへ吹き飛ばされた。


「〜〜〜っ!」

「ぐっ……」

「いっ……たた……」


 玲奈の体を引いてくれたのは、ナシュカだった。突風に押し戻されるまま、玲奈の下敷きになっている。


「っナシュカ! 大丈夫!?」

「大丈夫、ちょっと打っただけよ」

「トキは」

「俺も打ち身程度だ。問題ない」

「……ごめん」

「何しょぼくれてんのよ。大丈夫って言ってるでしょ」

「それより、今のは何だ。俺の位置からじゃ分からなかった」

「正確には分かんねえが、長い胴体と尾の生物だった。全長は約二十メートル。奴の視界に入ったと同時に、尾を奮ってきた。飛ばされたのは尾の風圧だ」

「尻尾の風圧だけであの威力……?」

「それから、一瞬しか見えなかったが、あの化け物の奥に、発光する扉が見えた。おそらくあれがゲートだ」

「じゃあ、ここを突破すれば……!」


 これが最後の試練というわけだ。皆の顔に希望が灯った。


「といっても、その最後がまた難題ね」

「どう攻略するか……」


 風圧により、扉は独りでに閉じられている。あの中に足を踏み入れた途端襲ってくるようだ。


「戦略をよく練らないと、あっという間に全滅ね」

「俺ら二人は魔術もろくに使えない状態だしな」

「いきなり全員突っ込むのは無謀だ。まず俺だけ行って、情報を持ち帰る」


 リュウの提案に、玲奈は目を剥いた。


「一人だけって、何かあっても誰も助けられないんだよ!?」

「俺を助けられる状態の奴はいねえだろ。三人のお守りするより、一人の方が効率がいい」

「……そうかもしれないけど」


 玲奈には、時を戻す力がある。リュウ一人で行けば、それを使うべきか否かも分からない。


(いや、私が生きてさえいれば時を戻せるんだから、リュウがもし致命傷を負ってもそこで巻き戻せば……多分大丈夫……)


 それは、以前も疑問に思ったが、試せないので疑問のままだった。リュウが大怪我を負っても、時を戻せば元通りになるはず。保証はないが、リュウはそうそう死なないだろうという信頼もある。


(もう、これしか道はないんだ) 

 

「……分かった。気をつけてね」

「ん」


 トキとナシュカも異論は無いようだ。距離を取っておけと言われ、吹き飛ばされた位置で待機する。リュウが扉を開け突入した。またも風が吹き荒れる。


「ひゃあっ」

「っ、この距離でも凄いわね」

「リュウ……」


 扉は既に閉じた。本当に大丈夫なのだろうか。彼は無事に戻ってくるだろうか。状況が分からないことへの恐怖が渦巻く。


(まだ戻らない……私も入った方がいい? 巻き戻しても手遅れだったら……)


 どの時点に戻るのか、玲奈の意思では決められないのだ。不安に後押しされ、歩みを一歩進めたとき。リュウは戻ってきた。


「リュウッ!」


 雪崩込んできた男は、大きな怪我を負ってるようには見えなかった。閉じた扉を背にして、座りこむ。


「無事?」

「ああ」

「よ、よかった……」

「何でお前が腰抜けてんだ」

「だって……」


 玲奈も力が抜けて座りこむと、口の端を上げて笑われた。


「無事なのは何よりだが、収穫はあったのか」

「そりゃ手ぶらじゃ帰れねえだろ」


 リュウは、扉の中で起こったことを回顧した。




 扉に入った途端、長大な尾が襲ってくるのを、リュウはしっかりと見極めて上へ跳躍し、躱した。赤黒く、鋭い眼がリュウを追う。


(俺は余裕でも、あいつらは躱せねえ)


 支柱の僅かな出っ張りに足をかけ、バランスを取る。化け物は羽がついていたが、飛んでリュウを追う気配はない。ただじっとりと睨みつけているだけだ。


(飛べねえのか、飛ぶ気がねえのか)


 身体の大きさからは、小さな羽だ。常識的に考えればあの巨体を支えられるとは思えない。だが、そもそもあれは常識を逸した生物。いや、生きてなどおらず、全てが魔術により構成された幻覚のような物の可能性もある。


 距離を保ったまま、観察する。化け物の腹の下から、光が漏れ出ている。あそこがゲートに違いない。


(こいつを倒さなくても、あそこに全員入れば勝ちか?)


「……ま、そんな簡単には行かせてくれねえか」


 近づこうにも、ろくに武器もない。ほとんど素の力でここまで来たようなリュウだが、流石にあの大きさの生き物には通用しないだろう。


「ン……?」


 部屋中へ目を凝らし、突破口を探していると、柱と天井の境目に、煌めきを見つけた。石だ。しかも、あの輝き方は、恐らく。


(魔石?)


 一つではない。天井近くに埋め込まれた数は、部屋の四隅にそれぞれ埋まっていた。


「使えと言わんばかりだな」


 軽く跳ねて、それを掴み取った。


(試しておくか)


 砕いた魔石からは、黒に近い、濃紺の光が現れた。リュウがそれを吸収すると、みるみる力が増大していく。そして、彼の上腕を覆う布が、どくんと盛り上がった。


「っ……、これは……」


 それは、ここにいる誰も知らない、リュウだけの秘密だった。右上腕が、熱く高鳴る。当て布の下で、姿を隠した刻印が、ドクドクと鼓動する。


「ぐっ……」


 リュウの額に汗の玉が浮かぶ。


(収まれクソ……!)


 その念に応えたのか、やがて熱は引いていった。化け物は動かないで、じっとリュウを見つめていた。


(攻撃意思がない……わけねえよな)


 しかし、入ってきた時は、叩き潰さんと言わんばかりに尾を奮っていたというのに、とんと大人しいのはどういう訳か。


(ひとまず、魔石の回収だ)


 取り込んだ魔力は潤沢だった。一度の跳躍で、簡単に部屋の四隅を飛び回る。残り三つの魔石も取り外すと、化け物の隙を見て、脱出に至った。


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