72話
細い道はますます細く険しくなっていき、上には草木に蜘蛛の巣、下はぬかるんだ土とかなり悪条件だ。
「……間違えたか」
「待って、判断するには早い! この先に凄く快適なオアシスが待ってるかもしれない!」
「本気で言ってるか」
「うっ……」
恨めしげに猫を見るも、すました表情で顔を洗っている。可愛いけれど、今の状況では憎らしさも感じる。
蜘蛛の巣地獄に顔を顰め悪態をつきつつ進むと、少しずつ道が大きく、平坦になっていく。開けた先に、リュウはある姿を見つけた。
「おい、あれ!」
「えっ……あーーーーッ!」
二人の視線の先に現れたのは、トキとナシュカだった。
「トキ! ナシュカっ!」
「え!? レナ!? リュウもいるじゃない!」
背を向けていたトキとナシュカは、玲奈たちの呼びかけに振り返り目を見開いた。ナシュカが駆け寄ってくる。
「どこに行ってたの!? 探したんだよ!」
「こっちの台詞だわ」
「私とリュウからすると、元の場所に戻ったら二人がいなくなってたんだよ」
「……私たちは、二人を待ってても一向に来なくて、辺りをくまなく探したの。それでも見つからないから、迷宮の力かもって話して、ゲートを目指した」
二人はあの場から動かず待ってたという。やはり、迷宮の何らかの力が働いたようだ。
「合流できてよかったー」
「本当だよ、もう〜! そりゃ、レナたちのせいじゃないけど、心配したんだから! もー!」
「いたた」
ナシュカが肩を激しく揺さぶるので、首がガクガクと振れた。そしてようやく、ナシュカは肩の生物に気付いたようだ。
「うわっ、何この子」
「……お前、気付くの遅くないか」
再会して初めて喋ったトキは、どうやら猫に最初から気づいて、それに気を取られていたようだ。猫の話題になり、ようやく声を発した。
「分かんないんだけど、私の魔石から出てきたの」
「魔石から?」
「うん。魔石が熱くなって、割ってないのに発光して」
「魔石が熱くなるなんて聞いたことない。こいつが原因だったのか?」
「うーん、多分」
「ただの猫じゃないわね。翼がある」
「少し前、この子が小さい横道に行けって言って、それを辿ったら二人がいたんだ」
「そういや、合流できたのコイツのおかげか」
四人の視線を一身に浴びた猫は得意げに胸を張り、顎を上げた。愛らしい表情だ。
「くっ……っ……」
「トキ? 大丈夫?」
何やら胸を抑えているので心配すると、「何でもない」と返される。
「猫苦手とか?」
「……違う。何ともないから放っといてくれ」
「……そう?」
ナシュカは玲奈と目線を合わせると肩を竦めた。
(まあいいか)
「幸運の導き猫……魔石から産まれた……うーん」
「なんか知ってる?」
「心当たりはないなあ。迷宮の力が魔石に働いて、この子を産み出した……って仮説を立てるしかないかな」
正体は分からないが、とにかくトキたちに会えたのはこの猫のおかげだ。感謝すれど追い払う理由はない。
「道を教えてくれてありがとう。この先も一緒に進む?」
「マ!」
良い返事を貰い、猫の顎を擽るように撫でる。目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らす姿はよく懐いた家猫そのものだ。
「ぅう……」
再びトキが呻いていたが、気にしないことにした。
四人が合流し、一匹プラスして、ゲートに向かい進んでいく。途中で遭ったギドリーとアルガンとのハプニングも共有した。
「そいつらが追ってきてるってこと?」
「気配は無い。仮に追ってきても返り討ちにできる程度の奴らだ。追ってくる気概があるとも思わねえな」
「一級魔石を直に見といて喧嘩売るのは、相当度胸がないと無理だろうな」
「しかしこの猫、レナの肩から降りないのね。重くない?」
「うん。綿みたいに軽いんだよね」
「本当に実在してんのか、そいつ」
「迷宮が見せてる幻?」
「あり得なくはないな」
猫の謎で盛り上がる中、皆に言えない疑念が玲奈の中で膨らんでいく。
(やっぱり、この子から、お母さんの力と同じ感覚がする。肩に触れてると余計に)
迷宮も絡んでいるのかもしれないが、玲奈からだけこのような生物が出てきたのは、母の魔術が原因になっている気がしてならない。
「ミャ」
猫が玲奈にだけ向けて、小さく、だがはっきりと鳴く。正解だと言われた気がした。




