7話
「出口……」
這いずり出た先は、薄暗い。サディが言ってた通り、路地裏だ。明るい方へ、と言われたことを思い返せば、すぐに進む方角は分かった。駆け足で行けば、賑やかな声が聞こえてくる。
四、五分も走らないうちに、大通りに出た。そこは市場のようで、ガヤガヤと人で溢れかえっていた。果物や野菜、香辛料を売り買いする人達を横目に、人の波に沿って進んでいく。
(まずは、ロメールに行く。全く分からないわけだし、とりあえず行き方を聞いて)
適当に、前から歩いてきた老婆を捕まえる。
「すみません、ロメールに行きたいんですけど、どうやって行ったらいいですか」
「……あ、ああ。ロメールなら、ここを北東に行って王都から抜けた先だけど……」
「北東……ありがとうございます」
お礼を行ってそそくさと去ろうとしたが、呼び止められた。
「お嬢さん……それ、見ない服だね。どこから来たのかい」
「あっ……えっと、遠くの方から」
そう返した時、辺りがシンと静まり、玲奈を見つめているのに気づいた。
(やばい、不審がられてる)
この制服は相当目立つようだった。「すみません!」と言って足早に駆けていく――玲奈の腕は、太い手に捉えられた。
「痛っ……!」
「悪いねお嬢ちゃん、城からお触れが回っててなあ。見慣れぬ服の若い娘を発見したら捕らえよってね」
髭を蓄えた壮年の男性が、しかめっ面で話した。
(っ、城の外まで情報が回ってるんだ……!)
「あっ衛兵さん、こっちこっち!」
「いたぞ!」
その間にも誰かが衛兵を呼んできていたようだ。
「捕らえよ!」
「縄持ってこい!」
こうして呆気なく、再び玲奈は捕まった。
(どうしよ……)
捕らえられて連行される間、玲奈は思考していた。
(私は時間を戻せる。どうせ捕まったんなら、情報を増やして、整理してからがいいのかも)
ここに飛ばされて、巻き戻した時間も含めて体感では二時間程だ。牢屋に入れられた時よりは、今の状況を飲み込めてきた。
(私に、この国を滅ぼすという予言が出た。国に捕まれば、一年後に死刑。この世界のお母さんが、生き抜くために時を戻す力を授けてくれた。王城も、街の人も敵。でも、助けてくれた人もいる)
サディの姿を思い浮かべる。彼が何者で、どういう理由で助けてくれたのかはまるで分からないが、とにかく、助けてくれたことは事実。今は、彼の言葉を頼るしかない。
(ロメールに行くのが先決……だけど、これからまたあの処刑場に行くなら、王族から情報を得られる)
玲奈の予想は正しく、連れて行かれたのは王城の、処刑場だった。
「この子が、宣告の大悪女、『破滅の子』か」
「母親にはあまり似てないな」
「すぐに捕らえられてよかった。見た目では追いきれなかったかもしれない」
「でも、印がついてるという話では?」
「あれを追えるのは条件がある。満月とノアヴェルの重なる時のみだ」
(デジャヴ……)
玲奈がここに留まる目的は、情報を聞き出すため。今はまだ同じことしか喋ってない。こちらから会話の流れを変えなければいけないのだろう。
「そなたは十七年前、この国で産まれた。母親は導士の家系の中でも、極めて優秀な女性であった」
母の情報は、もっと聞きたいことの一つだ。
「……この国を滅ぼす大悪女。破滅の子になるとの告げだ。すぐに王制審が開かれ、そなたが十八の成年を迎えたら、斬首刑とすることとなった」
「あの……母は、今は」
「おや……もっと取り乱すかと思ったのだが、冷静だな。この状況をもう受け入れたというのか」
「いえ……、何もかも、分かりません」
「そうか。うむ……現実とは思えないのだろう。自然なことだ。母親のことだったな、彼女は残念ながら、亡くなっておる。そなたを異界へ送り出し、一年ともたなかった」
「子が大罪人となれば心痛も一入。母親を殺したのは貴様だ」
割って入ってきたロアンは玲奈へ侮蔑の眼差しを向ける。
(……この人、私を憎んでる……?)
ロアンの当たりの強さからは、罪人だからという理由に留まらず、玲奈個人へ向けられた憎悪を感じる。
「これから牢に入れ、一年後、刑を執行する」
「私は一年、ずっと牢屋で刑を待ってるんですか」
「一年の間には、克己の儀式を行う。その身から、罪人の邪を祓うものだ」
「生温いものだと思うなよ。死刑の前に、貴様の罪に相応しい苦役を体へ与えるものだ」
「苦役って、どういうものですか」
「フン、いい度胸だ。教えてやろう。始めに体を焼き、次は腕を切り開き、鞭打ちにして、舌を抜く。そして水に沈めて、もがく姿をじっくり眺めてやろう」
(っ……牢屋に入れられたら、終わる)
捕まった後、牢屋から脱走を目指すのは避けた方が良い。
「……陛下。これ以上は、話すほど、彼女に辛いことになります」
「母上、俺が面倒みますから辛いことなんてないですって。ね、一年牢屋に入ってるだけじゃつまんないでしょ。仲良くしようよ」
(っ、こいつはこいつで何なの……)
アデルに笑みを向けられて、玲奈の腕には鳥肌が立っていた。さっきもそんなことを言っていたが、どこまで冗談なのか、掴みどころのない男だ。いかにも厳格そうなロアンとは正反対の男だった。
そして、ここで玲奈には別の懸念も浮かんできた。
(いつの時点に戻れるのか、分からないんだよね……)
もし、戻せる時間が決まっているなら、捕まってから悠長にしていると取り返しのつかないことになる可能性があった。
(大して分からなかったけど、もう戻した方がいい)
玲奈は目を瞑った。




