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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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69話

(うまく行った……!? いや、油断はだめ……強い人間の佇まいをしなきゃ……)


 先程首を絞められた、森の中へ。柔らかな土を踏みしめていく。やがて川が見えてくると、待望の人影が目に入る。


「リュウ!」

「ぅおっ、びびった……声でけえよ」

「う、ごめん」


 色々な感情が溢れて声に出てしまった。


「……なんで二人がここに?」

「……ギドリー、ちょっと話がある」


 玲奈の視界になるべく入らないように身を縮こませ、アルガンがギドリーの腕を引いていく。ギドリーもリュウも驚いているが、その心情はかなり違うはずだ。


 リュウが不思議そうに距離を詰めてくる。


「なんかあったのか」

「……」


(なんて説明しよう)


 とにかく逃げることに精一杯で、何も考えていなかった。二人に万一聞こえないよう、耳元で囁く。


「……待ってる間、アルガンが魔力を溜めてるのに気づいたの。もしかして私の魔石を狙ってるのかもと思って、カマかけたら当たってたみたいで」

「ああ?」


 リュウは怪訝な顔をしていたが、構わず続ける。問題は、今の状況だ。


「一級魔石を持ってるから凄い実力者の振りして、仲間にならないかって持ちかけたの。戦って勝てる気しなくて」

「よくそんな機転効いたな。もっとアホだと思ってた」


(……今はコイツと口喧嘩してる暇ないから聞き逃そう)


 嫌味は聞かなかったことにして、先ほどの会話の詳細を続けると、リュウはふむと頷く。


「で、アイツらはその相談中てわけな。どうすんだよ、んなハッタリかけて」

「一緒に考えてよ〜どうしよ〜」


 リュウは溜息をついた。


「隙見て逃げるか? 別に魔力なくてもあんぐらい問題ねえけど」

「え、戦わなくても強さ分かるの?」

「大体な。お前はどうしたい」

「……逃げられるなら、それに越したことはない」

「おし」


 話が固まったところで、ギドリーとアルガンが消えていった方を見る。まだ戻ってこなそうだ。安堵、疲れ、恐怖……色々な感情が溜息になった。


(まだ全部解決はしてないけど、とりあえず一安心)


「頑張ったな」

「え……」


 横を見上げれば、リュウが口を緩ませていた。その笑顔に、思わず涙腺が緩んだ。


「っ」

「馬鹿、泣いたらあいつらに怪しまれる。引っ込めろ」

「うん」

「分かってんだろうが、暫く俺から離れるなよ」

「……うん。ありがとう」


 頼もしかった。リュウがいるだけで、さっきまでの心細さや不安は溶けて消えるようだった。しかし、まだ終わったわけではない。トキとナシュカがいない中、リュウと二人で、この危機を脱さなければならないのだ。


  ギドリーとアルガンが戻ってきた。二人は玲奈の提案通り、仲間と合流した際には、組み合わせを変えることに頷いた。休憩を取って、再び湖を越えようと歩き始める。逃げるなら寝静まった時と決めた。それまでは、緊張感を抱きながら彼らと共に歩いていく。丸半日かけると、湖はようやく越えられそうになった。


「ふう……流石に疲れたなー、しんど」

「いやー、良かった。こんな危険なモンの近くにいたくねえよ。落ちたら死ぬだろ」


(アンタは人を突き落としてたけどね!)


 アルガンへの文句は胸に留める。


「少し湖から離れて、今日は休むか」

「だな。また飯探すかー」


 ギドリーは最初のうざいほどの絡みからするとだいぶ大人しい。あれは、油断させるための演技だったのだろうか。それとも、玲奈にビビってるだけか。


「つってもあんま食えそうなもん見当たんねえか」

「……草原だね」


 湖の先では、草が一面に生い茂っていた。木や川は見当たらない。さっき取った、小さい木の実はポケットに少し入ってる。


「それで凌ぐしかなさそうだな」

「まあ疲れてるし、腹減ってても寝れるわ」


 そして陽は暮れた。




 真っ暗闇の中、ギドリーとアルガンが入眠したのを感じる。そこから更に十分ほど待って、リュウが玲奈の肩にとん、と指を触れた。音を立てないように、慎重に起き上がる。


(……起きてない)


 二人の寝姿を確認し、静かに歩き出す。五分ほど歩くと、リュウが小さく囁いた。


「付いてきてる」

「っ」


 真っ暗で玲奈には分からなかったが、リュウが言うのだから間違いないだろう。どうやら気づかれてしまったらしい。


「戦いたくないんだよな」


 こくりと頷くと、リュウは腕を引っ張り、茂みの深い場所へ連れて行かれる。


「我慢しろよ」

「え?」


(えっ!?)


 気付くとリュウの胸がドアップにあって、背中には大きい手が回っていた。


 要は、抱きしめられている。


「なっ――」 


 咄嗟に出てしまった声は、手のひらに遮られた。そのまま、顎に手が伸びて、頬を親指で擽られる。


(ヒゃッ……)


 恥ずかしさに、体温が急速に上がる。


「嫌か」


 その声は先程より大きい。聞かせるための言葉だ。玲奈は首を振った。


「嫌じゃないけど、恥ずかしい」

「俺しか見てない」

「……汗かいてる」

「昼に水浴びしたろ」


 リュウはこめかみに唇を落とす……振りをした。肌には触れず、リップ音だけが鳴る。耳元で鳴り響く、生々しい音。目をぎゅっと瞑って羞恥に耐える。リュウはまた小声で呟く。


「まだいる。大人しくしてろよ」


 リュウに促され、その場に座り込んだ。上からリュウが覆いかぶさるのを見上げる。


(下から見てもかっこいいんだ……いや待って、なんか雰囲気に流されてる!)


 演技だというのに、このシチュエーションに胸の高鳴りが抑えられない。リュウにキラキラとエフェクトがかかってるような気もしてきた。


 本人は無意識だが、玲奈の瞳はとろんと熱っぽくリュウを見つめていた。


「かわいいな」

「っ……」


 顔中にリップ音が降っていく。リュウは一度体を起こすと、上衣を脱いだ。その体は、彫刻のように綺麗な筋肉が全身についていた。



「私と全然違う」

「そらそうだろ」

「……かっこいい」

「あ?」

「あ、いや、ごめん」


 思わず口から出てしまった。今のは演技ではなかった。


「……んなこと言わないでいい」


 リュウは照れているようで、暗がりでもよく分かった。その表情をきょとんと見つめる。


(これも演技……?)


 恥ずかしくなって顔を下に向けると、逞しい上裸が目に飛び込み、ますます胸が波打ってしまう。きゅっと目を閉じると、甘い声色が囁く。


「あんま可愛い顔すんな」


 喉からきゅっと変な音が鳴った。


(今のは確実に演技。平常心平常心……)


 また、距離がゼロになる。今度は、布一枚減った。より明確に、リュウの体温を感じる。


(ひーーっ! 無理無理無理っ! 心臓爆発する!)


 体をカチンコチンに固まらせる玲奈を解すように、手が背中を上下する。逆の手は髪を掬っては落とし、感触を楽しんでいる。そして気まぐれに、その髪先にもキスを落とした。


(そこも振りでいいじゃん! 髪にっ、キッ、キスしてるっ……!)


 今にも沸点を越えそうないっぱいいっぱいの玲奈だったが、終わりは呆気なく訪れた。

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