64話
翌日。四人で戦略を共有し、水壁の下に佇む。
「レナ、準備いい!?」
「うん、行けます!」
四人はまとまって集まっていた。この水壁を攻略するには、一人ずつ挑戦しても無理。そう結論づけたのだ。
玲奈は魔石を砕くと、突風を起こす。
「突っ込むぞ!」
風に押されるまま、四人は一塊になり、水壁へ突っ込んだ。左から、リュウ、玲奈、ナシュカ、トキの順だ。風の力と、リュウの力強い泳ぎに引っ張られ、体が前へ進む。
(順調……!)
この作戦は、玲奈が考えた案を元にしている。成功のカギは、玲奈にあった。
昨晩、トキと和解したあとのことだ。
「水を越えるんじゃなくて、突っ切ることができないかと思って」
「突っ切る?」
返したのはリュウだ。
「中を泳ぐってことか? 三十メートルの水圧がかかってる。水が重くてそう簡単に進めねえぞ」
「私が突風を起こして、それで後ろからと、水の中で上に向かって吹かせればどうかなって」
「水分中の空気を操る? できんのか」
「うん、今日ナシュカに練習付き合ってもらったの」
状態変化は全くセンスが無かったが、水中の気体を操ることは、何度か練習したら感覚を掴めた。
「いいんじゃねえの。お前、息はもたせられんのか」
「何度かやったんだけど……そっちは無理そう」
水中で呼吸をする方法は、ナシュカたちが見つけていた。魔力で血中の酸素濃度をあげる方法だが、玲奈には、すぐにできそうになかった。
「それは私が口移ししたらオッケーよ。リュウも魔力はなるべく節約したいでしょ。トキに口移ししてもらったら?」
その発言に二人はげっ、と表情をシンクロさせた。
「死んでもごめん」
「こっちの台詞だ」
「あらそう。じゃあ自力で頑張ってね」
ナシュカは、最初からそう言われるのを分かっていたようにさらっと返した。
「で、問題は水の手ね」
「水の中にいれば襲ってこないんじゃない?」
「壁を抜ける時は引き留めようとしてくるだろ」
「あ、そっか」
「壁を越えるにしても抜けるにしても、結局あれをどうにかしなきゃならない」
四人は意見を出し合い、最適解を見つけた。
(今の所は、順調に進んでる。あとは)
すいすいと水中を進んでいき、あと一メートルを切った所で、玲奈の体がぐんっと後ろへ引っ張られた。
(来た……! これが)
玲奈の腹に、水の手が絡みついていた。同時に、耐えてきた息がいよいよ苦しくなって、隣のナシュカの手を握った。二人の目が合う。ナシュカの顔が近づいてくる。
(……やっぱり、美人だなぁ)
そんなことを言ってる暇はないのだが、玲奈の頭にはそんな感想が浮かんだ。唇が触れ合って、ふに、と柔らかい感触にびくりと跳ね上がった。
触れ合ったところから、酸素が流れ込んでくる。もっと欲しいとナシュカに縋り付くと、それに応えるように彼女の唇は深くなって、暫しそこは、二人だけの世界だった。
バチっ、と破裂音が近くで鳴って、玲奈のぼんやりしていた意識は現在に戻ってきた。トキが、水の手を破裂させた音だ。
(うまくいってる!)
ずっと手こずっていた水の手を撃破する方法。環術により高温の蒸気を吹き込んで、手を形どっている水を蒸発させようというものだ。方法自体は上がっていたが、リュウと玲奈は、魔力量と技術的にこの方法を使えないので、どうしようか考えあぐねていた。
しかし、四人揃って進めば、それは解決する。トキとナシュカが、続いてリュウと玲奈を引き止めていた水の手も破裂させた。
水の手が苦しむように水中を彷徨ううちに、玲奈は止まっていた風を再度起こした。
(――行ける!)
水越しに、明るい空が透けてみえた。
「レナっ! 大丈夫!?」
「っ、うん……っ」
ゴホゴホと噎せる玲奈の背を、リュウが擦ってくれる。玲奈は、水面に手と膝をついて大きく空気を吸い込んだ。玲奈が膝をついているのは、滝壺。四人は水壁の向こう側にたどり着いたのだ。
息が落ち着いてきて、じわじわと達成感がやってくる。
(やっ、た……!)
「やったな」
見上げれば、トキが朗らかな笑顔を浮かべていた。
「……うん!」
「レナのおかげだよ。助かった」
「ええ? 私が皆に助けてもらったのに」
「四人で行こうっつったのはお前だろ。それが正解だったな」
「そうね。レナのおかげ!」
「…………ありがとう」
それを真っすぐ受け止めるには、玲奈の実力は不十分で、三人にフォローされっぱなしで。それでも、この試練で初めて、『玲奈にしかできない役割』を果たせた。このチームに、貢献できたという手応えを、初めて感じられた。いつも自信のない玲奈が、一歩前に進んだ瞬間だった。




