55話
もう少し、着実なルート。崖の端に向け歩いていくと、少し跳ねたくらいの高さに手が届きそうな突起を見つけた。
(あれならいける!)
最初から握力を強化し、その岩に飛びつく。
(よし、次は……あそこなら、何とか届くか……)
リュウがポンポン飛んで行ったのを見て、引っ張られてしまったが、そのやり方は玲奈には分不相応だった。時間がかかるものの、手の届く範囲で、僅かな出っ張りに指を引っ掛けて進む。躯術があれば、それは可能だ。苦戦しながらも、少しずつ少しずつ、着実に上に進んでいった。
その様子を、ハラハラしながらも、地上からトキとナシュカも見守る。
「時間はかかりそうだけど、この調子なら何とかなりそうかな」
「ああ。躯術をフルで使えば大丈夫そうだな」
直射日光が玲奈の全身に振り注ぐ。汗で滑りそうになるのを時折、服で拭きながら、崖の中腹頃まで到達した。
次の一歩を踏み出した瞬間。
(――え?)
階段を登っていて、あると思っていたもう一段が無かったような。スカッ、と足が空振る感覚に、玲奈は呆けた。
そして。気づいた時には、玲奈は崖下のスタート地点に戻っていた。
「……えっ!? な、なんで?」
「レナ!?」
「どうなった!? お前、急に消えてっ……なんでそこに!?」
「……オイ、どうなってんだ」
「ええっ、リュウも!?」
玲奈だけではなかった。上で待っていたはずのリュウも、玲奈の横に戻っていた。四人で顔を見合わせる。
「私、崖を登ってたよね」
「ああ、急に俺らの視界から消えた。で、ここに」
「……迷宮によって戻された、と考えるのが自然かも」
「戻された? 何かしちゃったってこと」
「分からない。同じ場所に戻ってくるという意味なら、さっきと同じ現象になるけど……」
「……太陽は戻ってない。時間は経過してる」
リュウが高度を確かめて言う。
「私たちだけ、スタート地点に飛ばされたってことだ」
「まだ原因が掴めない。無駄足かもしれないが、もう一度やるしかないか」
条件を少しでも変えてみようと、今度はナシュカが先に崖を登っていった。
「魔力は大丈夫なの?」
「多少は消費するが、躯術ならそこまで心配しなくていい。環術を使うとなると魔力量が一気に跳ね上がるから、使い所は考えないといけないけど」
トキの説明を聞きながら、ナシュカの危なげない崖登りを見上げる。リュウよりは時間がかかっているが、玲奈よりは断然速く、十分かからずに登頂した。
「次ー、レナおいでー」
「うん!」
そして玲奈もまた登り始める。時間はかかるが、ゴールできる道筋は見えている。焦らずに、一歩一歩登っていき――
「あれっ!?」
また、戻された。
「そんな……」
今度はさっきより、更に下の地点までしか登っていない。ナシュカも戻ってきていた。
「何だってんだ」
その答えと思わしきものは、リュウが提示した。
「恐らく、時間制限だ」
「時間制限?」
「太陽の角度が、最初、俺が登り出してからコイツが昇って戻された時と、今回。全く同じだけ低くなってる」
「一人目が登り出してから……」
「リミットは、三十分てとこだ」
「三、十分……」
「タイムオーバーしたら、皆揃って崖下に飛ばされるわけか」
「四人が、三十分以内に登頂しないといけない……」
最初、リュウは二、三分で頂上まで行った。玲奈が残り時間で辿り着いたのは、半分がやっと。
(私が、三十分以内に登りきらないといけない)
皆の視線が、玲奈に向けられた。
* * *
その後、玲奈は崖登りの時間を短縮すべく奮闘するが、いずれも時間制限によって中腹で戻されるに終わった。
(多少は速くなったと思うけど、天辺まではこのままじゃ無理だ)
三人も同じことを思ったようだ。
「俺が横でレナのサポートしながら登ってみるか」
「……うん、トキがいいなら、試してみたい」
その言葉に甘え、一緒に登頂を目指してみるも、上手く行かなかった。トキが玲奈を引っ張って上げようと試みたが、安全を考えれば慎重にならざるを得ない。余計に時間がかかるだけだった。
「一人じゃ登れないってのを手助けするのはできそうだけど、スピードを今以上に上げるのは難しいな」
「うん……私が、自分でどうにかするしかないね」
「……あんま気負うな」
「うん、ありがとう」
そう言ってもらっても、現状、玲奈が足止めしているのは事実。
(何とかしないと)
最初のチャレンジを思い出した。足を強化し、思いっきり跳ねて、すかさず岩に手をかける。
(魔力の移動をできるようにならないといけないんだ)
「皆、足引っ張ってごめん。暫く、一人で練習させてほしい。必ず登れるようにするので!」
頭を下げた玲奈を責める人間はいなかった。
「うん。それでいいと思う。その間、私たちは別の方法がないか探したらいい」
「一人でって、大丈夫なのか? 落ちたらどうすんだ」
「高いとこには登る時は声かけるよ。一回、躯術の練習したいと思って」
トキは難色を示したが、結局は頷いてくれた。リュウは興味なさげで、好きにしろという風だった。




