54話
「一人ずつ行ってみよう」
「俺が先に行く」
リュウが先陣を切る。二本の木を通過する間、一人きりで進行し、三人は待機する。三十分待って後ろから帰ってこなければ。
「…………」
「…………」
「…………帰って、こない!」
「当たりを引いたか」
「奇数なら三人でも大丈夫なのかしら」
「行けるかもしれないが、三人の中に二人組がいるという見方もできる」
「そうね……一人で上手く行ったんだから、一人ずつ行こうか。次、レナが行く?」
「うん!」
二人に見送られ、歩いていく。途中までは、さっき見た景色だ。だが、十五分経った頃、道が明らかに変わった。
「これが本当の道……」
登りや下りを行ったり来たり。息を切らしながら、山道を行く。
(あ、水の音……)
川とは別の方向に来たのだが、ループから出た先は、川と繋がっているのだろうか。せせらぎを聞きながら歩くと、前方に人影が現れた。
「リュウーー!」
「来たか」
「やった! 抜け出せたね!」
「おー。やったじゃねえか」
「ねー、良かった!」
「いや、そうじゃなくて、お前の手柄だろ」
「へ?」
「お前が読める文字だったから、解決策が分かったんだろ」
「いや、たまたま読めただけで何したわけじゃ」
そう言いつつも、リュウの言葉は、素直に嬉しかった。照れから視線を逸らす。リュウは口の端を上げた。
「素直に喜びゃいいのに」
「謙遜は日本のお国柄なの」
「あ?」
その後、トキとナシュカも合流し、四人は無事にループから抜け出すことができた。嬉しさの一方で、玲奈は疑問を深めた。
(なんで、日本語が……?)
* * *
無事ループを脱出し、前へ進むこと小一時間。次に四人の前に現れた障害物に、玲奈は上を仰いだ。
「これを登れってことか」
「二十メートルはあるな」
次の試練は、断崖絶壁の登頂のようだ。
「殆ど岩の凹凸がないな。相当握力がいるぞ」
「うん、つるつるだね……」
崖らしくない崖だった。ゴツゴツと出っ張りがあれば手や足がかりになるが、ポツポツと、僅かに指先がかかるような出っ張りしかない。
「魔術を使えば、私とトキは何とかなるだろうけど……二人ね。リュウはどう?」
「このくらいなら余裕。魔石は使わない」
「ええ!? この崖を?」
「……ろくな掛かりのない、垂直の崖だぞ。素の能力だけで行けるっていうのか」
「お前には無理だろうけどな」
「ちょっと、喧嘩しないでよ」
リュウの挑発にトキはかちんと来たようで、睨みつけた。すかさず止めに入ると、矛先は玲奈に飛んだ。
「で、お前は?」
「……自信はまるでないけど、躯術を使ったら……たぶん……」
サディの屋敷から迷宮に辿り着くまでに、崖下から振り落とされそうな瞬間があった。魔力で強化しても、自重を全て支えるにはかなり体力を消費した。それが、二十メートル続くのだ。正直、不安しかない。
「ネックはレナね」
「できるだけサポート体制を取る。上から落ちる可能性を考えて、下に二人待機。一人は上にいたら、引っ張れるはずだ」
「引っ張れるくらい上まで来れたらな」
リュウのぼやきは最もである。
「俺が上で待ってる」
そう言って、リュウは軽々と一歩目を踏み出した。
「え……えーっ!?」
一歩目で二、三メートル簡単に飛び上がると、わずかな突起に手や足をかけ、更に上へ登っていく。いや、登るというよりは、跳ね上がってる。
玲奈が目を丸くしてるうちに、ものの二、三分でリュウは登頂してしまった。
「嘘ぉ……」
「驚いた。あれで魔力使ってないっての?」
「人間離れしてるな」
トキとナシュカも流石に驚いている。そして玲奈はちょっと落ち込んだ。
(アイツ、魔術あんま使えないっていうから仲間意識持ってたけど……そんなの、関係ないじゃん……)
リュウの身体能力を見せつけられ、自分の落ち零れっぷりが強調されることとなってしまった。
「じゃあ、レナ」
「うん……」
しかし、落ち込んでいても始まらない。玲奈は魔石を地面に叩きつけた。
緑の光が舞い、体内へ魔力を行き渡らせる。
(まずは足。あそこの突起までジャンプ)
狙いを定め、崖に向かって飛び上がる。
「わっ」
飛ぶ方向がズレてしまった。飛んだ先には、掴めそうな石がない。飛んだだけで、結局地面に戻ってしまった。
(う、もう一回)
今度は方向は定まった。飛んだ瞬間、魔力を指先へ移らせる。
(掴める!)
狙った石に、手をかけた――が、握力が足りず、玲奈の身体は下にずり落ちてしまう。
「きゃっ……、っ、たた……」
「ちょっと、大丈夫?」
「うん……擦りむいただけ」
またも崖下である。
(全然握力が足りなかった。魔力の移動が、間に合わなかったんだ)
足から指へ魔力を移しきれず、握力の強化が足りなかったのだ。
(別ルートを探すか)




