52話
テクの実を食べて(酸味に悶絶しながら)暫く座って待っていると、トキとリュウが戻ってきた。
「後ろから……」
「……てことは、リュウの言う通りか」
「そのようだ」
トキも頷く。進んだはずが、元の場所まで戻されている。さっきも狭い一室に閉じ込められてたばかりだというのに、またも脱出しないといけないようだ。
「さ、どうする」
「左の川の方から行ってみる?」
「川幅が百メートルはあって、流れも速かった。俺とナシュカならまだしも、二人は厳しいと思うが」
「うん。危険に飛び込んでくよりは、まずここを突破する術を探した方がいいと思う」
ナシュカがそう言って、方針は決まった。
「二人で同じ道を歩いた時、最初と違う所はあった? リュウは一度見たら景色を記憶できるのよね?」
「ああ。最初と比べながら歩いてたけど、木や地形そのものは変わらなかった。けど、落ちてる枝や葉の位置は多少変わってた」
「太陽は?」
「変わってない。この場所の太陽高度は四十五度。三十分歩いてる内に五度くらい落ちてたけど、この場所に戻ったらまた四十五度まで登ってる」
「高度が戻ったと気づいたのはいつ?」
「十メートル前……あのデケェ木を潜った所だ」
リュウが指差す先には、周囲のものより、一際太い幹の樹木があった。
「あれか」
ナシュカが木を睨んだ。
「あの木に何かあるの?」
「強力な禁制魔術は、自然物を依代にして効力を高めんだよ。あのデカさなら千年近くの命力が溜まってる。それを崩すのは並大抵の力じゃ厳しい」
「命力?」
「生命の動力のことだ。木は動かねえだろ? 動かない分、生きただけの命力が蓄積されてる。この禁制魔術は、恐らくあの木の命力を利用してる」
魔力とはまた違う力があるようだ。ふうんと頷くと、トキとナシュカも興味深そうに聞いていた。知らなかったのは玲奈だけではないようだ。
「やっぱり、胡の方が魔術の研究は盛んなのね。導士じゃなくても禁制魔術について詳しく知ってるんだ」
「まあ……スラジよりはな」
女子たちが関心する中、トキは一人、リュウへ胡乱げな目を向けていた。
一行は、手始めにその巨木を調べることにした。木の付近を行ったり来たりしたが、特に何かを感じることはできなかった。
「大きいだけの普通の木にしか見えない」
「枝でも折ってみる?」
「え、なんか怖いな」
「コイツが原因なら壊すまでよ。やってもいい?」
待ったをかける者はおらず、ナシュカが魔力で強化した腕で枝を掴む。随分しなって抵抗した枝は、やがてパキン――と折れた。
「とりあえず折れたけど」
「もう一周歩いてみる?」
「次は私とリュウで行きましょ」
ナシュカとリュウが歩き出すのを見送る。
「何か変わるのかなあ」
「……」
「トキ?」
「……アイツをあんま信用しない方がいい」
「アイツって、リュウのこと?」
トキは頷いた。
「え、なんで?」
「アイツ……相当手練れの空気を感じる。七級持ちと言ってたが……その程度の実力だとは思えない」
「手練れの空気って……」
「俺は迷宮に来るために、金を貯めてた。魔石は極力使わずに荒事をした。自分より格上と会ったらすぐ退避が鉄則。おかげで、実力を見定める腕はかなり付いた。リュウは、相当できる空気を感じる」
「でも、環術は全然使えないって言ってたよね」
躯術は魔術の初歩。その上級に当たる環術は、使えるようになるまで、訓練は勿論のこと、訓練するために使う魔石がなければできない。低級魔石しか持っていないと、そもそも環術を扱うための練習ができないのだ。
「だから、それが嘘だと思ってる」
「……なんで嘘つく必要が?」
危険な迷宮で自分の実力を低く提示することなど、百害あって一利なしのはず。
「分からないから、信用できない」
「トキの勘違いなだけって可能性も」
「感覚だけで言ってない。禁制魔術の知識も、いくら胡王国の出身だからって、平民が知ってる範疇を越えてる。権力者、導士に近い立場の可能性がある」
「胡王国の、導士……」
「レナにとっては、敵の可能性もある。気を許すな」
「……うん」
心配して言ってくれてるのが伝わり、トキに対しては一旦頷いた。しかし心の内では、リュウへ警戒心を持つということに、乗り気にはなれなかった。
(リュウが何か企んでるとは思えないんだけど……トキの勘違いじゃないの)
勿論、無闇にリュウを信頼し、玲奈の事情を打ち明けようとは思っていない。トキに伝えたのは、やむを得ない状況だったからであり、なるべく素性は隠したい。
しかし、トキに反発心を覚えるほど、玲奈は既にリュウへ心を許しきっていた。




