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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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50/62

50話

「むしろ、サディの本音を知れて、良かった。何も知らないまま、サディにお母さんの能力を話してたら……」


 取り返しのつかないことになっていたかもしれない。他人に自分の運命を委ね、なすがまま、自身の命運を握られていたかもしれない怖さを想像し、ぶるりと震える。


「私は私の意思で、生き抜いていきたい」

「そうだな」


 その先に、またサディが協力してくれることもあるかもしれない。全てを委ねる気はないが、意固地を張って変に遠ざけることだってすべきではない。当初のショックから落ち着いた今は、そう思う。


「サディのところを離れたのは、正しかったと思う。あそこにいたまま、私が自分の未来を選択できたとは思えない。サディの操り人形になるだけだった。でも、またいつか……、会えたらいいな」

「ああ」


(その時は、お礼を言いたい。それと、勝手に出ていってごめんなさいと、謝って)


「謝らなくても良いんじゃないか。お前だって傷ついたんだ、お互い様だろう」

「なによ、主人にそんなこと言っていいの?」

「俺は生憎、お前の心の中にしか存在しないんでな」

「う、そうだった」

「だから失恋の恨み節くらい、ここで吐いておけ」


 サディを恨んでない。しょうがないことだった。でも、少しくらい、傷ついた心の吐露をしても、ここなら誰も聞いてない。


「怒ってることがあるだろう」 


 彼にはお見通しだ。なんたって、このヤザンは玲奈の心の鏡。ヤザンに促され、玲奈は振り絞るように吐いた。


「気持ちを勝手に推し量られるのは、いくらサディでも、嫌だった」

「当然だ」

「なによ、すぐ消える泡のようなものって、馬鹿にして」


 ヤザンは黙って頷く。


「そりゃ、好きな人のために国を滅ぼそうって思う人からしたら、ままごとみたいに思えたのかもしれないけど、でも」


声が震えだし、涙が滲んだ。


「好き、だったのに……」


 彼に救われた。姿を見たら元気が湧いて、話せたら嬉しくて。そんな思いを踏みにじられたようで、悲しかった。


 しゃくりあげると、ヤザンの手のひらが頭に乗る。それは玲奈の願望が現れた姿に他ならなかった。


(……私、ヤザンにこうして貰いたかったんだ)


 その体温は、馴染み深く、心にすっと溶けていった。

 ヤザンに、暫く頭を撫でてもらってる内に、涙は収まっていた。


「……落ち着いたか」

「うん。ありがとう」

「俺に礼を言う必要はない。俺はお前の心の鏡。レナ自身」

「それでも、あなたの前で吐き出せてよかった……なんか、凄くスッキリした気分!」

「それは何よりだ」

「……」

「さあ、もう行け」


 気付けばミトラは消えて、辺りは、元のひんやりした壁だった。ただ、先程のように閉じられてはいない。前方から、光が差し込んでいる。


「開いてる……」

「お前は試練を達成した。よって扉は開かれた」

「……試練ってなんだったの?」

「今の自分を認めること。レナは冷静に己の今を認識し、悲観することなく、歩みを進めていた」

「魔術にそんな判断ができるの?」

「判断をしたのは魔術じゃない。お前の心の鏡である、俺だ」

「……でも私、自分に自信なんて全くない」

「そんな自分の現状を受け入れられているということだ。これから、多くの困難に行き当たる。どう乗り越えていくか、楽しみにしてるよ」

「……うん」


 ここを出ても、迷宮は続く。困難が待ち構えているのは必然だ。壁の中にいるヤザンへ、さよならを告げる。


「ありがとう。現れてくれたのがヤザンで良かった」

「ああ……いつか、本物に礼を言えるといいな」

「……うん! じゃあね!」


 手を振って、光の射すほうへ歩みを進めた。






「ぅ、眩しっ……」

「……レナか?」

「っ、トキ!」


 出口の先には、トキがいた。


「トキだけ?」 

「ああ。二人はまだ中だ」

「中……皆、バラバラに閉じ込められてるの」

「恐らくな。後ろを見ろ」


 トキが背後を指差す。歩いてきた道を振り返ると、四つの扉が並ぶ。左から二番目、右端の二つは空いていて、残り二つは閉じている。きっと、閉じてる二つの扉の中に、二人はいるのだろう。


「こんな隣同士にいたんだ……」

「ああ。俺は一番後ろにいたが、突然お前らの姿が見えなくなって、見渡したら閉じ込められていた」


 どうやら、皆同じように閉じ込められたようだ。


「レナも自分を認める試練を出されたか」

「うん、それも同じ」

「てことは、あいつらもだろうな……リュウはまだしも、ナシュカが時間かかってるのは意外な気もするが」


 確かに、高い能力を持ち、美人で快活な彼女が、この試練からまだ出てこないとは不思議だ。しかし。


「心の中で何を思ってるかなんて、端からは分からないからね」

「まあ、確かにな……」


 脳裏には、サディとミトラが浮かんだ。それを切り替えるように、また振り返った。出口の先から細い道は消え、先程覆われていた金属の壁もない。


「森……だね」

「二人でロメールに逃げたこと思い出すな」

「確かに」


 辺りは木で覆われており、天から木漏れ日が差し込んでいる。さっきまでの肌寒さは消え、汗ばむくらいだ。


「向こうに川もあった。二人を待つ間、食糧取ってくる」

「分かった。私もこの辺で木の実探しておくよ」

「ああ」


 トキは左に折れていく。耳を澄ませれば、川のせせらぎがした。玲奈は扉が見える範囲を動きながら、二人を待った。



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