47話
シャロフは丸三日、牢に入れられた。最低限の食事は運ばれていた。シャロフを殺した所で何の利もないのだから、当然か、と分析する。待つのは尋問だ。
三日ぶりに牢の鍵が開き、薄暗い密室に通された。部屋の椅子に再度拘束されると、ロアンが足早に入ってきた。
「サディの護衛だな」
「……ハ」
「時間がない。単刀直入に問う。奴が破滅の子を匿っているのだろう」
「……は」
シャロフはぽかんと口を開けた。ロアンに対し、率直に馬鹿な、と思った。一呼吸置いて、否定する。
「殿下がそのような事をされるなどあり得ません」
「何も知らされていないか。まだ奴の手に落ちてる訳ではないようだな」
ロアンは意見を変えるつもりは毛頭ないようだ。シャロフとしては、サディに野心があるのは会話の節々から認識しているが、かつて王制審で決まった罪人を匿うという、突飛な行動に出るとは思えなかった。
(しかしロアン殿下の口ぶりは、サディ様の心の内を知っているかのような)
「お前に取引を持ちかけよう」
「……」
「今回、王宮への不法侵入は見逃してやる。その代わりに、破滅の子を俺の元まで連れて来い」
「そう仰られましても、その者がどこにいるか、私には」
「転移から数刻経っている。ここまで見つからないなどあり得ない。必ずサディが手を引いている」
ロアンは迷いなく続けた。
「お前がサディの元にいれば、そう遠くない内にその女と見合うことになる。俺の元へ連れて来い」
シャロフは何も知らない。だが、ここまで言われると、サディが本当に破滅の子と繋がりがあり、ロアンはそれを掴んでいるのかもしれないと思える。
(そうであっても、ここから出れば関係ない。サディ様のお心に従うのみ)
「俺に隠し事をすれば、妹の命はないと思え」
「っ」
「マリカ、だったか。気立てがよく、自慢の妹なんだろう」
(なんで、マリカを)
サディの護衛になるにあたり、シャロフの家族の情報は秘匿された。家族は新地へ引っ越し、やがて結婚した妹も、嫁入りした地でシャロフの血縁であることがバレないよう、サディが手を尽くした。
「破滅の子には印が付いている。条件が揃えば、あの女の居場所は知れることになる」
「条、件……」
「サディに忠義を立て、黙っていてもいずればれるということだ。そしてその時は……分かるな」
(印というのが実在する証拠はない。けど本当だったら、黙っていたらマリカは……)
シャロフには、頷く選択しかなかった。
「で、レナが居なくなって血相変えてると……」
「……申し訳ありません…………俺は、あなたに、報告できませんでした。こちらに戻り、妹に連絡を取ったんですが……既に音信不通で、行方不明となっていました」
「退路は封じられていたわけだ。それで、レナをロアンの元へ連れて行くつもりだった」
「……はい」
「俺の屋敷にいたと証言つきで」
「っ、いえ! サディ様のお名前は絶対に出すつもりはありませんでした。この付近で見つけたと言い張れば……追及は免れなくとも、サディ様の関与を確証できることはない、と……」
「……そうか」
「……どんな処分も覚悟の上です。ですが、サディ様」
「分かってるよ。妹のことだろう」
「……はい。こんな事を申し出る立場ではないと分かっています。でも、家族は、家族だけは」
「当然、お前の家族も、お前自身も、切り捨てなどしないよ」
「え……」
「家族を人質に取られては当然の選択だ。シャロフにそういう選択をさせないよう、家族を隠したんだが、ロアンが一枚上手だった。これはシャロフの失敗でも、まして裏切りでもない。俺の失態だよ」
「……しかし、俺は」
サディは腕組みしながら、目を瞑り思案した。
(あの程度の規制は甘かったか……シャロフの妹は既にロアンの手の内……ロアンは俺の計画をどこまで知っている……もう、終わりなのか……)
弱気になる心に、想い人の顔が浮かんだ。嬉しそうな笑顔。楽しげな姿。彼女を諦めることは、できなかった。
(まだだ……まだ、これから。俺はロアンに負けてない。まだ、何も始まってすらない……!)
ミトラが一年前に結婚してから、ロアンへの嫉妬、対抗心は日に日に募っていくばかりだった。サディは炎を目に灯した。
「とりあえず、ロアンの所へ行くしかない。何を吹っ掛けられるか分からないが、お前の言った通り、確証はないんだ。何とでもなる」
「……ハ」
「レナはヤザンが追っていったが、一度戻した方がいいな。こうなれば、破滅の子など知らない、関与していないと押し通すのみだ。あの子はもう、ここに居ないほうがいい」
シャロフはこくりと頷いた。そして、あの少女――玲奈のことを思った。彼女と良好な関係を築いていた、ヤザンのことも。
(口にはとても出せないけど……レナがここを去ってくれてよかった)
ロアンに差し出せば、玲奈はそう遠くない内に、死刑になっていた。
(そうなれば、ヤザンが……とても、悲しむだろうから)
シャロフは、義理堅い同僚を想った。




