44話
せっかくの再会だ。玲奈は、気になっていたことを尋ねる。
「あのさ、最初に会った時、私が生きてたほうが都合がいいって言って、逃げるのに協力してくれたよね」
「ああ」
「あの時は必死であんまり気にしてなかったけど、あれってどういうこと?」
トキは大したことじゃない、と断ってから、とつとつと語る。
「俺は早くに両親を亡くして、貧乏生活の中、何とか生き抜いてきた。似たような境遇の仲間と助け合って、汚い仕事をやって。生活苦で薬も買えず死んでいった奴もいる。一方、貴族たちは庶民から金を巻き上げて贅沢三昧……あんな国、無くなったほうがいい」
トキの声には、温度を感じなかった。
「だから、お前がその力を持ってんなら、助けようと思った……。それで、貴族たちが居なくなれば、何か変わるかもって……。それだけだ」
「そっ、か」
(スラジの権力者たちに、恨みを買ってる人は多いんだ……)
それを利用し、クーデターを起こそうとしていたサディのことを思った。玲奈が思考し、二人の間に沈黙が落ちる。それを切り裂いたのは、快活な声だった。
「そこのお二人! 私も一緒に行っていいかしら?」
「ん?」
玲奈たちに向けられた、女性の声がけに振り向く。そこには、桃色の髪の美少女がいた。
(わ、めっちゃかわいい……しかも、スタイルすご……)
背中まである髪をポニーテールに結い、青い瞳は大きくぱっちり。そして何より目を引く、身体のライン。強調された大きな胸部、と対照的に引き締まったウエスト、腰から太もものS字ラインが艶めかしい。
(目のやり場が……)
同性でありながら彼女を直視するのが憚られる。目を逸らせば、周りの男たちは皆彼女に見惚れていた。
(そりゃそうなるわ……)
「なんで俺らに声かけた?」
「まずはあなたね。かなり腕が良いでしょ。私、鼻が利くのよ。何等級?」
「……三等だ」
「やっぱりね。私も三等持ち」
「へぇ……、凄いな」
「それに男だらけの所に行くのは気が引けてね。女性もいたから、好都合だった」
そう言って玲奈にウインクする。その理由は納得だ。この子を男性だけの群れに入れるのは危険すぎる。
「彼女の腕前は?」
「あー、コイツは魔術はからっきしだ」
「えぇ……? 大丈夫なの?」
「あっトキ! 私、少しは魔術使えるようになったの」
「そうなのか?」
「うん、躯術なら。使えるようになったばっかだけど」
「環術は全く?」
「やったことない」
「それでよく迷宮に来ようと思ったわね。声かけるとこ間違えたかな」
「あぅ……」
彼女の目は、はっきりと玲奈の実力不足を責めている。
「コイツには事情があるんだ。フォローは俺がする」
「そこまで言い切るんだ。二人は恋人なの?」
「そうじゃないが、成り行きでな」
トキが一歩前に出て、庇ってくれた。何から何まで助けられてばかりだ。
「……分かった。二人がよければ、私も一緒に行かせてほしい」
トキが玲奈を窺うので、もちろんと頷く。
「玲奈です。こっちはトキ。よろしく」
「私はナシュカ。よろしく」
三人目の仲間――ナシュカは、周りの人を魅了するような笑顔で、玲奈と握手した。
「じゃあ、あと一人だな」
「そうね……余ってる子は……」
辺りはもう大概チームを組み終えている雰囲気だ。歩きながら探していると、一人、片隅で座り込んでいる少年を見つけた。彼も、玲奈たちと同じ年頃に見える。
「……あの子」
「うん?」
「ちょっと声かけてくる!」
「あっ、レナ!」
二人の呼び止めは、耳に入らなかった。
「あの、まだ誰とも組んでないの?」
「……ア?」
(うわっ、めっちゃ睨まれてる!)
「私、あと一人を探してて。あなたが、一人で座ってたから」
「俺は七等の雑魚だから、ろくに組んでもらえねえんだよ」
「あっ、ほんと? 私もろくに魔術使えなくて、仲間だね」
「何喜んでんだ。嫌な仲間だな」
「えへへ」
「照れるとこじゃねえわ!」
明るい茶髪の少年は、口も目つきも悪いのだが、不思議と怖さを感じなかった。それどころか、話しやすさすら覚える。
(……何でだろ、男子に自分から話しかけるタイプじゃないんだけど)
玲奈にしては驚きの積極性だ。何故かは分からないが、彼にはシンパシーを感じたのだ。
「ちょっとレナ! 先行かないでよ、もう」
「あっ、ごめん」
「こいつにするのか?」
遅れてナシュカとトキが寄ってくる。三人で少年を取り囲むと、少年はますます目つきを悪くした。
「えっと、私はいいかなって思ったんだけど」
「おい、勝手に話進めんな」
「でも一人あぶれてたんでしょ?」
「ッセエな! そうだけどよ!」
「等級は」
「七級だって」
「ふうん……私は別にいいよ。三等が二人いれば何とかなるでしょ」
「選り好みしてる暇はない、か」
「やった! いいって!」
「ああ!? さっきから馴れ馴れしいなお前!」
思わず少年の腕に飛びつくと、ブンブンと腕を振られ振り落とされた。
「え、私たちじゃだめ?」
「チッ……そうじゃねぇけど」
「ホント!? 私、玲奈。あなたは?」
「……リュウ」
「リュウ!」
にこにこと笑顔の止まらない玲奈に、トキとナシュカがヒソヒソ耳打ちする。
「なんか彼のこと凄い気に入ってない?」
「波長が合ったんじゃないか。分かんねえけど」
こうして、とりあえず頭数は揃ったのだった。
「よし、じゃあ早く行こう!」
「レナ、まだ無理よ」
「え?」
「迷宮が開くのは日が一番高く登るとき。まだ暫く待たないと」
「えっ……そうなの?」
「お前、ンなことも知らねえで迷宮に行くってのか?」
(どうしよ、その間にサディたちが追ってきたら……)
呆れ声のリュウの言葉も、右から左に抜ける。顔面蒼白で慌てていると、トキが口を開く。
「追手か」
「……うん」
「追手? なに、レナヤバいことでもしたの?」
「したっていうか、これからするかもって感じで……ぅ〜」
「何言ってんだお前」
「つまり、迷宮が開くまで、身を隠せればいいのね? それなら私に任せて」
「え?」
ナシュカは魔石を砕いた。桃色の光が舞う。
「わっ」
レナの周りを、風が取り囲んだ。目を瞑って衝撃に耐えると、一分程度で風は収まった。
「なんだったの……」
「おお、凄いな」
「完璧な擬態か……相当手練れだなアンタ」
「まあ、この位ちょろいもんよ!」
「えっ、なになに」
「レナ、自分の体見てみろ」
「体……えっ!? 透けてる!」
下を見下ろすと、胴体が消えていた。胴体だけじゃない。目に映る限り、身体の全てが透明になっている。
「私を透明人間にしたの?」
「魔術は他人に使えない。これは環術の応用で、空気や細かい塵、砂を操ってあなたの身体を覆い、周りの背景に溶け込むようにしたのよ」
「すご……」
「お前、本当に凄さ分かってんのか? 止まってる物体ならともかく、動いてる対象をこんなに自然に隠せる奴、早々見れたもんじゃないぞ」
リュウの言葉に、トキも頷く。
「……ナシュカって、めちゃくちゃ凄い人だった?」
「ふふ、もっと褒めてくれてもいいのよ。私と組めてラッキーね、あなた達」
それに反論する者はいなかった。




