43話
「ハァ、ハァ、ハァ……」
覚えたての魔術を使い、一晩走りきった。一晩足を動かせるなんて、凄い効果だ。こんなこと言うのも可怪しいが、シャロフに襲われたのが、躯術を習得した後で本当に助かった。
(今頃、ヤザンが気づいてるかな)
玲奈を起こしに来て、いないことに気づき、サディに報告してるだろうか。玲奈の部屋は、ヤザンが警備している入口以外に出入りするところはない、玲奈が自ら抜け出したと気付くはずだ。すぐに探し始めるかもしれない。迷宮を目指したとすぐに確信をもたれることはないだろうが、行き先の候補としては思いつくはずだ。
(ゆっくりはしてられない)
見つかって連れ戻されたら、全て話すまで納得はしてくれないだろう。そして、もう玲奈は、サディに全てを委ねることはできない。
「っ! あれだ……!」
高台に昇ると、まだ距離はあるが、その先に巨大な立体物が目に入った。日が昇ったことで、はっきりとその姿が見えてくる。
「あと少し……!」
その目は、スラジの巨大迷宮が、聳え立つ姿を捉えていた。
「ここが……」
再び魔術で強化し、走り抜くこと一時間ほど。迷宮の目前まで辿り着いた。近づくほどに、その大きさに圧倒され、畏怖すら覚えた。
(なんだか、空気も変だ……)
無機物相手に可笑しいと思いつつも、この立体から、威圧感を感じる。慎重に足を進めていくと、だんだんと人のざわめきが耳に入る。
(人が集まってる……)
「俺は四等持ちだ。腕には自信アリ」
「いいじゃねえか、一緒に来てくれ」
「おし!」
「私は五等よ。環術は苦手だけど」
「誰か、あと一人欲しいんだがー!」
(この人たち、皆迷宮に挑戦するのね……結構いるんだ)
迷宮の扉の前で、二、三十人が声を掛け合っている。殆どが、玲奈と同年代の若者に見える。その中で、思いがけぬ姿を見つけた。
「えーー!? トキ!?」
「は……レナ?」
「な、なんでここに」
「……こっちの台詞だが」
そこには、約一ヶ月前、ロメールで別れたトキがいた。何でいるのか分からないが、先に感情のダムが決壊した。
「うぅ~~〜っ、トキ、トキーー!! 無事で良かったぁ……っ」
「そう簡単に捕まるほど軟じゃない」
「うっ、うぅ……」
「聞いてるか」
「うん……! あの時は、本当に、本当にありがとう」
「もういい。それより、何でここに」
「あー、うん。逃げ込んだ先で色々あって……迷宮に挑戦して、国外に行くことにしたの」
「お前が……迷宮に?」
「うん。トキは?」
「俺は前から、迷宮に行くつもりだったんだ。お前を助けた日も、金稼ぎであそこにいた」
「金稼ぎ?」
「迷宮に挑戦するには魔石がいるが、高級品だからな。荒仕事で金稼いで、等級の高い魔石を買うんだよ。皆、等級を見せびらかしてるだろ。良い魔石を持ってる奴は、それだけ危険な仕事を成功させてる……つまり腕が立つ」
「ああ、それでさっき……」
自分が何等級の魔石を持っているか喧伝していた人たちの理由が分かった。
「迷宮は複数人で挑戦するものなの?」
「ああ。試練には、最低四人いないと完遂できないものがあるらしい」
「へえ……」
「……お前、俺と一緒に行くか」
「えっ!? い、いいの」
「ま、今さら放っておけないかな。事情知ってんのも俺だけだろ」
「トキ……」
玲奈の役立たずぶりは、嫌と言うほど知っているだろうに。
「ありがとう。助かります……それと、嬉しい!」
「……ん。じゃ、あと二人探すぞ」
「うん!」
別れの後に、嬉しい再会。玲奈の迷宮への挑戦は、幸先よく始まった。




