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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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41話

 風呂場に戻り、脱力するようにへたり込んだ。


(私……どうしたら)


 はっきりしたのは、サディにはもう、頼れないということ。そして、ここを出たら、シャロフが待っている。


(もう、形振り構ってられない。とにかく、一瞬でいいから、安全を確保して、それからだ)


 風呂場を出て、メイドに伝える。


「ごめんなさい。体調が悪くて、シャロフに、ヤザンを呼んできてって頼んでくれませんか」

「分かりました」


 驚いた表情を見せながら、メイドはすぐに待機するシャロフへ伝えている。外から、シャロフの声がした。


「レナ? 体調悪いなら、俺が部屋に」

「ごめん、ヤザンがいいの。ヤザンを呼んで」

「――分かった」


(良かった……)


 シャロフは、戸惑いながらも、ヤザンを呼びに行った。怪しまれたかもしれないが、もうどうとでもなれ、と半ばやけっぱちである。


 メイドが玲奈の背を擦ってくれる。出してもらった水を飲むと、少し頭がスッキリした。そして、その人はやって来た。


「大丈夫か!」

「……ヤザン」

「……顔が真っ青だ。疲れか? 何かあったか」


 玲奈は首を横に振るしかできなかった。ヤザンは「とにかく部屋に」と、軽々と玲奈を横抱きにする。その腕が、何より安心できる。ヤザンにぎゅ、としがみついた。


「……頭痛は」

「少し……」

「分かった。薬を後で持っていく」

「……シャロフは?」

「持ち場を交代した。サディ様の所だ」

「そう……、薬はいいから、部屋の外に、いてほしい」

「……俺の仕事はレナの警護だから、それは問題ないが……やはり、何かあったか」

「……ううん」


 ヤザンは玲奈を寝台に寝かせる。結局、薬はメイドに頼んでくれた。


「ほら、飲んでから寝ろ」

「うん……」


 水の介助までしてくれるようで、顎に優しく手がかけられた。その感触に、思い出す。シャロフに、ロアンに、絞められた手つきを。


「っ……」

「吐き気か」


 ふるふると首を振る。ヤザンは、暫く付きっきりで、看病してくれた。



 ヤザンの優しい手が効いたのか、玲奈は一旦落ち着きを取り戻した。用意してもらった軽めの食事も、全部食べた。その間、ずっとヤザンは隣にいてくれた。


「少しは顔色良くなったな」

「うん、ありがと……ごめん。いきなり呼び出して、お世話させちゃって……」

「レナの体調が悪いことはシャロフが呼びに来た時、サディ様にも伝えている。俺が呼ばれないのは、お前に付いてろということだ。気にするな」

「……うん」


 サディの名前が出て、心は軋んで痛みを訴えた。


「……寝ようかな」

「そうしろ」

「部屋の前にいてくれる?」

「ああ。一晩いる」

「……ずっと?」

「ずっとだ」

「……うん。ヤザン……ありがとう、色々。それと、ごめんなさい」

「礼を言われるならまだしも、謝罪を受けるようなことはしてない。いいから早く寝ろ」

「……ん、おやすみ」

「ああ、よく休め」 

  

 ヤザンは扉を閉めて、部屋を出て行った。


(ありがとう、本当に……さよなら)


 感謝を伝えたとき。色々、に沢山の意味を込めた。そして、直接は言えなかった、別れの言葉。


(大きな物音じゃない限りは、入ってこない)


 夜中に玲奈がトイレに立ったり、水を飲んだりして動き回っても、ヤザンがこれまで部屋の中に入ってきたことはない。静かに行動すれば、朝までバレることはない。


 そう、玲奈は、この屋敷から脱出することを決めた。サディをこれ以上、頼れない。


(サディは、何で王になりたかったのか。それは、ミトラを手に入れたいから)


 ミトラは、第一王子であるロアンの妻。今のままでは、略奪することは不可能。だから権力を。そしてその為に、玲奈を利用したのだ。


 利用されることは、分かってた。本人がそう言ってたのだから。ミトラの為と聞いて、勿論ショックはあった。でも、それだけなら、サディへの信頼を失うことはなかった。


『俺ときみの立場が危うくなるなら、切り捨てるしかないな』


 あの言葉が、全てだった。サディが大事なのは、ミトラ。玲奈は、いざとなれば切り捨てられる。それを聞いてなお、彼のもとに居ることなど、できなかった。



 部屋に一人になって、小一時間。そろりとベッドを抜け出した。持っていくものは一つ。枕元の魔石。懐にしまって、壁にかけられた絵画の元へ行く。


 そっと外して、音を立てないように床に置く。暫く待ってみたが、ヤザンが入ってくる気配はない。


(……よし)


 中へ入り、梯子をつたって通路を進んでいく。ここを出た先は、屋敷の東、川辺だ。周辺の地図は、ここに来てから繰り返し見ている。 


(気づかれない内に行かないと)


 梯子をつたった先は、天井の低い道になっていて、屈みながらひたひたと歩いていく。頭には色々な感情が浮かんでくるが、とりあえずここを脱出するのが先と、思考を振り落とす。


 十分ほど進んでいくと扉があり、開けるとそこから先は、地面が砂利になっていた。


(これは……もう外ってこと?)


 小石を踏みしめ歩いていく。それは段々とツルツルした感覚になり、湿った水の匂いも充満する。


(もう、川の近くだ……!)


 最後の扉は、掛金式の内鍵がかかっていた。迷わず鍵を外し、扉を内側へ引く。少し考え、出た後にまた元通り、閉じておいた。扉の先は、草が生え揃った小高い丘になっていて、両手を使って登った。


「川だ……」


 無事、屋敷の外へ出ることができた。だが、感慨にふけってはいられない。玲奈は魔石を取り出した。


(黙って出てくのに、勝手に持ってくのって泥棒かな)


 しかし、今は使えるもの、全て使わなくては、生きていけない。


 玲奈は魔石を砕いた。パリン――という音と共に、緑色の光が舞った。覚えたての躯術を使用し、足を強化する。


「これで、朝まで走れたら」


 目指す方向は、決まっていた。川に沿って、東へ向かう。


「迷宮に着くまで……!」


 玲奈は走り出した。

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